第12回 生物圏科学研究科 教授 島本 整先生

写真:島本先生

~ 自分のやりたい研究を大切にする ~

取材実施日:2014年2月17日

第12回先生訪問は、生物圏科学研究科 生物機能開発学専攻 食資源科学講座 食品衛生学研究室 島本 整(しまもと ただし)教授にお話を伺いました。

Profile
1984年 岡山大学 薬学部 製薬化学 卒業
1986年 岡山大学大学院 薬学研究科修士課程 修了
岡山大学助手、ニュージャージー医科歯科大学博士研究員を経て、
1998年 広島大学助教授に着任
2009年から現職

現在の研究内容 — 「微生物と食品の安全性に関する研究」

食品衛生学という食品の安全性に関する研究をしています。特に食中毒の原因となる微生物を対象としています。食中毒には細菌性とウイルス性の2通りがあります。細菌性食中毒の原因として、コレラ菌やO-157などがあります。細菌は自ら数を増やすことができるため、食品の中で細菌は増殖していきます。細菌の数がある程度増え、それを体内に取り込んでしまうと食中毒になります。細菌性食中毒は細菌が増殖しやすい夏場に多いです。ウイルス性食中毒の原因としてノロウイルスが有名です。細菌と違い、ノロウイルスは自ら数を増やすことはできず、食べ物の中では増殖しません。しかし、人間の中に入った途端に増殖を始めます。そのため、少数のウイルスを体内に取り込むだけで食中毒となる可能性があります。
私の研究室では、これらの食中毒の原因となる微生物に関して大きく3つのことを研究しています。1つは微生物の薬剤耐性機構に関する研究です。最近では、抗生物質の効かなくなった薬剤耐性菌の出現が問題となっています。薬剤耐性菌は抗生物質が効かないため、感染症の原因となります。実は色々な食品の中にも薬剤耐性菌が微量ながら存在しています。私たちの研究グループは、そういった薬剤耐性菌を見つけ、どんな薬剤に耐性を持つのか、どんな遺伝情報を持つのかに関する調査研究を行っています。
2つ目の研究は、ノロウイルス検出法とノロウイルス消毒剤の開発です。近年、細菌による食中毒の被害が減少している一方、ノロウイルスによる食中毒の被害は増加しています。ノロウイルスはインフルエンザウイルスと異なり、効果的な治療法が見つかっておらず、アルコールで除菌することもできません。そのため、ノロウイルスの除菌方法を探り、そもそも感染しないようにする必要あります。ウイルスに関する研究を効率的に行うには、ウイルスを人工的に培養することから始まります。しかし、ノロウイルスはヒトの体内でのみ増殖し、未だに人工的な培養に成功した人は誰もいません。私たちの研究室では、ノロウイルスに感染した患者の便を用いて消毒剤の効果を検証しています。そして、アルタンという会社と共同研究の結果、柿渋の中に含まれる柿タンニンにノロウイルスを除菌する効果があることを発見しました。
3つ目の研究は、微生物の逆転写酵素に関する研究です。逆転写酵素は、リボ核酸(RNA)を鋳型としてデオキシリボ核酸(DNA)を合成する活性を持っています。RNAは遺伝情報の一時的な処理を行、DNAは遺伝情報の本体。通常はDNAからRNAが作られますが、この酵素を持っていると、RNAからDNA を作ることが可能となります。これまでに、逆転写酵素によって、細菌細胞内で msDNA(multicopy single-stranded DNA)と呼ばれる奇妙な構造を持つ RNA-DNA 複合体の合成を行っていることが報告されています。しかし、未だに微生物がどうしてこのような酵素を持っているのか明らかではありません。私たちの研究グループは、流行性コレラの原因となる血清型 O1 と O139 株のみが逆転写酵素を持っており、それ以外は持っていないことを発見しました。もしかしたら、逆転写酵素が細菌の病原性をコントロールしているのかもしれません。逆転写酵素の作り出すmsDNA の奇妙な構造と病原因子の発現との間に何らかの関係があるのではないかと考え、今後も研究を行っていきます。

学生の指導方針 - 「自分で考え、自分で行動すること」

私の学生への指導方針は恩師を参考にしています。学生には自分で考え、自主的に行動してほしいと考えています。最初は、学生に対してどういう研究に興味があるか聞きます。その意見を踏まえて、学生一人一人に違うテーマを与えています。実験科学なので、実験を持続して行わないと結果がでてきません。そのため、毎週1回、研究グループ毎に集まります。グループメンバー同士でその週に得られたデータについてディスカッションをし、翌週の方針を決めていきます。
その他に、研究室のセミナーとして、ペーパーセミナーとリサーチセミナーを行っています。ペーパーセミナーでは、最新の自分の研究に関連する英語の文献を紹介してもらいます。リサーチセミナーでは、自分の集めたデータ半年分をまとめて、パワーポイントで発表してもらいます。それぞれのセミナーを年に2回から3回ずつ発表してもらっています。
学部生の場合、卒業論文提出が一つの大きな目標です。大学院へ進学しない人に対しては、卒業までにまとまるようにコンパクトなテーマを与えています。進学を目指す人に対しては、進学後も続けられるような長い目で見られる研究テーマを与えています。
研究を通して、良い研究成果が出た場合、積極的に学会発表をするように勧めています。学部生の人は中国・四国支部といった地方規模、博士課程前期の人は全国規模、博士課程後期の人には国際規模で発表することを目標とさせています。

研究継続における上で大切なこと - 「複数の研究テーマを持つ」

自分が好きで、やりたいと思える研究をすることが大事です。絶対に続けていきたいと感じる研究は大切にしていきたいと思っています。
その一方で、いくら好きな研究内容であっても、その研究だけやっていても時々は行き詰まる場所がでてきます。そうなると、論文が書けなくなり、研究成果が上がらなくなります。実績が無いため研究費を申請しても研究費がもらえず、研究が出来なくなるという悪循環に陥ります。一つの研究テーマに拘らずに、異なる複数の研究テーマを持つことが大事です。複数の研究テーマを持つことで、一つのテーマが上手くいかなくとも、他のテーマで挽回することができます。
もしも自分のやりたい研究テーマが社会貢献にも繋がる物だとしたら、さらに素晴らしいです。特に生物圏科学研究科は、人類の福祉や平和に貢献することを目指しています。私も人や社会に役立つ研究を行っていきたいです。

大学で研究を続けようと思ったきっかけ ― 「偶然と良い流れが重なった」

大学に残ったきっかけは、M1の終わり頃に、先生から助手にならないかと誘われたことでした。今では非常に珍しいことです。最初は、大学に残って研究を続けるという選択肢があるとは思っておらず、会社に進もうと就職活動の準備をしていました。しかし、先生からの誘いをきっかけに考えてみると、研究は好きでしたし、大学に残れば自分のやりたい研究が続けられるとも思いました。そこで、頑張ってやってみようと決心し、先生のお誘いに応じることにしました。色々な偶然と自分にとっていい流れが重なった結果だと感じます。

写真:島本先生

博士課程進学を考える学生へのメッセージ ― 「研究が好きであること」

研究がとても好きである。これがDに進学するための大前提です。その上で、良い研究テーマに巡りあえていれば飛躍に繋がるでしょう。研究をあまり好きでない人がDに進学しても良いことはありません。
Dの間は一所懸命研究をして、国際学会で発表することをノルマにしてほしいです。そして、D取得後のポスドクの期間には、外国で武者修行をした方が必ずためになるでしょう。外国の研究者と触れ合うことはとても大事です。最近では、学生はあまり海外に行きたがらないようです。しかし、できることなら発想が柔軟で適応能力のある若い間に海外に行ってほしいと思っています。

取材者:杉江健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期1年)


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