第25回 工学研究院 教授 佐野 庸治先生

写真:佐野先生

人間至る処青山あり

取材実施日:2016年1月27日
第25回先生訪問は、工学研究院 佐野 庸治(さの つねじ)教授にお話を伺いました。

Profile
1976年 新潟大学工学部応用化学科卒業
1978年 東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了
1981年 東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了(工学博士)
1982年4月~1993年3月 通商産業省工業技術院化学技術研究所(現 国立研究開発法人産業技術総合研究所)
1987年11月~1988年10月 カナダエネルギー鉱山資源省・鉱山エネルギー技術センター 客員博士研究員
1993年4月~2005年9月 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助教授・教授
2005年10月 広島大学大学院工学研究科 教授
2015年4月 広島大学大学院工学研究院研究院長・研究科長・学部長(2017年3月まで)

現在の研究内容

現在、ゼオライトの合成とその応用に関する研究をしています。
ゼオライト(通称:沸石)とは無機多孔体のことで、ケイ素・アルミニウム・酸素からなる三次元の網目構造をしています。そのためゼオライトには規則的な分子レベルのミクロな細孔が開いており、そこに分子を吸着させることができる点が特徴です。この吸着機能を応用することで、防臭、除湿、硬水の軟水化などを目的に様々な場所で活用されています。たとえば粉せっけんに混ぜることで種々のイオンを吸着することで界面活性剤の作用を促進しますし、主に女性の方が使っている制汗剤の中にも抗菌剤としてゼオライトが含まれています。ゼオライトが体内でもアンモニア臭を吸着し排泄物の汚臭を軽減してくれることから、最近ではイヌ・ネコのエサにも使われており、一般消費者用だけでも幅広く活用されています。

さらに、ゼオライトは自動車の排気ガスの触媒としても使われています。自動車から出る窒素酸化物は大気汚染、酸性雨の原因となります。そのため排気ガスを無害な窒素として放出する研究は世界的にも注目されています。電気自動車が普及しつつあるといってもまだまだ高価ですし、発展途上国ではこれからもガソリン車、ディーゼル車が増えてくるので、排気ガスをいかにクリーンなものにしていくかということは環境問題を考えるうえで重要な課題であると思います。下図を見てください。このウエハースのようなものが触媒を付着させるセラミックハニカムです。この四角い目の周りにゼオライトをつけておくことで、窒素酸化物だけを選択的に吸着することができるのです。吸着するだけでなくその場で分解もしてくれるので十年以上耐久性があります。
このようにゼオライトは様々なところで使われている、古くて新しい研究材料と言えるでしょう。現在、新しいゼオライトの開発に向けて研究を進めており、開発成功の暁には広島大学にちなんだ名前をつけたいと考えています。

  
セラミックハニカム CHA型ゼオライト

研究をはじめたきっかけ

大学で博士号を取得した後、通産省に入っていて国家プロジェクトに精励していた頃に、ゼオライトと出会いました。その頃の課長から「ゼオライトを使って触媒を作りなさい」と声をかけられたことがはじまりです。宇宙での実験を想定した地上での実験を進めていたときに、新しい形態のゼオライトができてしまいました。偶然のことですが新しいことに挑戦しなければ作れなかったものだと思います。
私はどちらかというと飽き性タイプで、これまでも居場所を転々と変えてきました。石川県能美市に北陸先端科学技術大学院大学時代は創設に立ち会ったことにはじまり、毎年一つずつ建物が出来上がってゆく様を見ていましたが、それでもやがて飽きてしまい広島大学に移ってきました。それでも自分の研究テーマだけは変えたことがなく、これまで一貫してゼオライトについて研究してきました。ゼオライトの研究に軸足を置いて、時には他のテーマと平行しつつ進めることもありますが、ここまでゼオライト一筋で研究者としての道を歩んできたのも何かの縁だと思っています。

研究を継続するうえで大切なこと

徹底的に調べることです。研究というのは、ちまちまとした作業の積み上げで、一見マイナーな仕事と思われるかもしれませんが、その小さなことをコツコツと根気強く調べていかなければ形にすることはできません。もっといえば、研究は10年続けなければ結果を出せません。10年単位で計画するようにすべきだと私自身は思っています。
自分の研究に行き詰まったことは数えきれないほどありましたが、その度にゼオライトからは外れて、別の研究をしていました。自分の研究と別の研究とを並行して行っていくわけです。

写真:佐野先生

研究室の特色

研究室への配属は学部3年の終わりに決まり、学部生は4年生になってから本格的に研究をスタートさせます。研究テーマはこちらが与えない限りは難しいと思うので、いくつか候補を挙げて、その中で学生が興味を持ったものを選びます。彼らが興味を持つまでは教員が背中を押してあげる、興味を持って動きはじめてからは手を放すというようにしています。本研究室では、学部での研究(卒業研究)はプロセスだけで評価しますが、Mを卒業する時は過程とリザルトを50:50で評価します。博士課程後期(以下,「D」と表記)になると100パーセント結果でしか評価しません。いくら努力をしていても、データに基づいた結果がなければ評価しないようにしています。
自分と異なる分野を研究されている先生と共に一つの研究室を構えていますが、これは異分野の報告を聞くことが学生自身にとって異分野の勉強にもなるし、考え方を取り込むこともできるからです。ゼミは私の研究室で週に一回行っており、16、7人が集まって研究の進捗などを報告します。また博士課程前期(以下,「M」と表記)を修了するまでに一度は海外の学会で発表させるようにしています。
本研究室の特徴としては、17:00までは教師と生徒の関係、17:00すぎたら1対1の人間として接するようにしているところです。研究室は議論しあう場所ですが、教師側も生徒側もお互いに言いたいこともあると思うので、日々思ったことを吐き出せる時間をつくるようにしています。研究室内での雰囲気には特別気を使っています。一日の半分は一緒に生活しているわけですから、研究室のメンバーは家族のようなものです。研究室に行く気が起きなくても、遊びに行くか、くらいの気楽な心で来られるような場所にしたいと思っています。学生達の作業場を巡回して、いつもより背中が丸まっている学生がいたら、彼(彼女)は今日疲れているんだなって思うわけです。縦の繋がりについてもそうで、学部生にM・Dの先輩がついてあげることで、お互いが成長できるような場づくりを行っています。

学生へのメッセージ・今後の展望

自分が将来、研究者(researcher)として生きたいと考えるならばDへの進学を勧めます。今後、海外へ行く機会が増えると思いますが、MとDとでは待遇に差があると考えているからです。日本ではあまり聞きませんが、そういったことをよく耳にするようになりました。Mを修了して一度社会を経験してからDに入りなおす、いわゆる社会人Dも増えてきました。
研究科長という立場としては、今後Dの数を増やすために様々な策を講じていくべきであると考えており、主に社会人D、留学生の確保、あるいは学部内部からの進学者を増やしていきたいと考えています。学生たちから「経済的にDに進学するのは厳しい」という声を聞くので、現在経済的にサポートできる体制をつくっていける方法を模索しています。具体例を挙げると学部3年から研究室配属をして、研究期間を伸ばし、Dの期間を短くすることで経済的な負担を軽減するといったものです。早い段階から研究をさせることで、経済的な面だけでなく、自分が研究者に向いているのか、あるいは研究を続けていきたいかどうかを選択する時間を与えてあげたいというねらいもあります。学生達は、自分が本当に研究を継続したいのか分からないまま、あるいは悩む暇もないまま就職活動・卒業してしまっているのが現状です。自分の将来について分からなくなった時はとりあえず大学院に進んで、時間的余裕のある学生時代にたくさん悩めばいいと思います。悩めることは幸せなことですから。
求める研究者像としては、自分の言いたいことを自分の言葉で説明できる人材です。研究室の学生達には、「理系なのだから、データに基づいて説明をしなさい」と日頃から指導しています。社会でも学内でも、現在は主張する学生のほうが評価されています。最後になりましたが、人生は振り子のようなものなので、振幅の大きな人間になってください。学生時代にたくさん遊んでおけば、その反動で勉強・研究・仕事を一所懸命にできると思います。

写真:佐野先生

取材者:加川すみれ(文学研究科 人文学専攻 日本・中国文学語学コース 博士課程前期1年)


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