第14回 総合科学研究科 教授 吉田 光演先生

写真:吉田先生

~ 学際的アプローチによって言語の起源を明らかにする ~

取材実施日:2014年5月28日
第14回先生訪問は、総合科学研究科 総合科学専攻 人間文化研究講座 吉田 光演(よしだ みつのぶ)教授にお話を伺いました。

Profile
1979年 金沢大学法文学部ドイツ語ドイツ文学専攻 卒業
1983年 金沢大学大学院文学研究科修士課程 修了
琉球大学講師、助教授を経て1993年広島大学総合科学部に着任
組織改編に伴い2006年から現職

現在の研究内容 — 「言語間の共通性を探る」

ドイツ語と日本語、英語などを比較することで、人間がどのように言語を獲得していくのかを研究しています。言語の数は世界中で5000や6000と言われており、多くの人は諸言語が全く異なるものと思っているかもしれません。実際にはそこまで違いがあるということはなく、分類すると数十種類にしぼることができます。その中でいくつかの差異はありますが、どんな言語でも5歳までには話せるようになります。つまり、各言語で単語や発音に違いがあっても、人間が言葉を作り出したり、聞いたりするための基本的メカニズムには何らかの共通性があると考えられます。しかしながら、人間がどのようにして音声言語を獲得したのかは未だに謎の多い部分であり、純粋に人文学的アプローチだけで研究することは困難です。心理学的実験や電子コーパス分析、アンケートなどの様々な手法を用いて、学際的に言語の相違点に関するデータを集める必要があります。そうすることによって、言語の共通性への仮説を示すことができるのではないかと考えています。   
日本とドイツの幼児が発する言語を比較することで、言語の共通性を検討した研究があります。日本語はいわゆるSOV語順(主語+目的語+動詞;私はミルクを飲む)であるのに対し、ドイツ語はSVO(主語+動詞+目的語;Ich trinke Milch;私は飲むミルクを)です。しかし、幼児期では、ミルク飲む、Milch trinke(n)と、どちらの言語の子供でもSOV語順で発話します。この結果は、SOVの方が合理的ということではなく、+、-などの演算記号が前置・中置・後置(+(3,1), (3+1), (3,1)+)でも同じ意味を表すように、各言語の間に共通した認知的処理過程があるのではないかということを示唆しています。
 言語の起源に関する研究は、20世紀に入るまでタブーでした。なぜなら、言語は神が生み出したものといった神話や根拠のない憶測ばかりで、言語の成り立ちを調べることは非科学的と考えられていたからです。しかし、進化学や脳科学の発展をきっかけに、言語学は学際的な科学分野となり、言語の起源を議論することができるようになりました。最近では、神経科学やコンピュータサイエンスといった理系分野との繋がりを強めています。

写真:ホワイトボードで説明する吉田先生

学生の指導方針 - 「幅広い視野を」

自分の好きな言語に対し、素朴な疑問を持つようにさせています。どの分野でも言えることですが、身近なところに面白い素材が転がっていて、ただそれに気が付いていないだけではないかと思います。身近な事象の不思議な点に興味を持つセンスを磨いて欲しいです。
また、自分の研究が井の中の蛙にならないよう、幅広い視野を持つことが大切です。そのために、国際的にも色々な研究者と交流する必要があります。そうすることで、最先端の研究は何か、自分の研究の立ち位置はどうなのかを知ることができます。さらに素晴らしい研究に触れることが研究の刺激にもなります。研究者と交流する上で、東京や大阪といった大都市にいなければならないということはありません。どこからでも始められるので、自信を持って行動してください。
修論や博論では、小さなテーマでも構いませんが、大きな目標に繋がるような研究に取り組んで欲しいです。小さなことを少しずつ付け加えていっても論文を書くことはできます。しかし、それではスケールの大きな研究を行うことはできません。一歩ずつ前進する時には、何か理想を抱いて進んで欲しいと学生には伝えています。

研究継続における上で大切なこと - 「楽しさと仲間」

第一に、楽しみながら研究をすることです。研究者になりたいと思っても競争は厳しい。そのためには、多くの論文を書かないといけない。しかし、疑問を追及し、明らかにしたいからといった自分なりの楽しみがあれば、研究は続けられると思います。
また、仲間を大切にすることも大事です。周りの研究者たちとできるだけコミュニケーションを取り合って、みんな苦しいけれども、頑張っていればきっと報われるとお互いを励ましあうことが大事です。

大学で研究を続けようと思ったきっかけ―「1つの言語から言語の起源へ」

言語そのものについてもっと研究したいと考えるようになったからです。私が学生の時は、ドイツ語ドイツ文学専攻に在籍していました。そこではドイツの小説や詩といった文学やドイツ語文法を勉強していました。しかし、ドイツ文学のことは触れることができても、アメリカ文学やフランス文学のことは全く分からないという状況でした。その中で、言語学の新しい研究を聞いたり、留学したりしていくうちに、ドイツ語だけやっていくことよりも、言語そのものに興味を持つようになりました。文学の原典を資料にあたって研究するところから一歩踏み出し、ドイツ語と英語と日本語を比較して研究しようと思いました。他の言語と比較することで、仮説を立て、検証するという科学的な研究が、より面白いものと感じました。研究によって、なぜ外国語を学ぶことが難しいのかを示し、少しでも言語の習得に役立つ内容を示したいと思います。

写真:吉田先生

博士課程進学を考える学生へのメッセージ ― 「求められるドクター人材」

日常生活の様々なところに未だ明らかにされていない謎が転がっています。その謎を発見し、追及する楽しさを忘れずに、ドクターコースに進学してきてください。これからの時代、アカデミックな世界はもちろんのこと、色々な分野で博士人材は必要とされていくと思います。現に海外では、経済や政治、弁護士などの分野でドクター出身者が活躍しています。日本でもこれからきっとドクター人材が求められてくるので、大きな夢を持ってチャレンジして欲しいです。

取材者:杉江健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期2年)


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