第18回 社会科学研究科 教授 原口 恭彦先生

写真:原口先生

~人が仕事にやりがいを感じながら働けるように~

取材実施日:2015年2月27日
第18回先生訪問は、社会科学研究科 マネジメント専攻 組織・経営講座 原口 恭彦(はらぐち やすひこ)教授にお話を伺いました。

Profile
1991年 学習院大学経済学部 卒業
2002年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程 修了
日本学術振興会特別研究員(DC1)、関東学園大学経済学部助手、専任講師を経て、
2003年広島大学社会科学研究科マネジメント専攻助教授、
2014年から現職

現在の研究内容-「人的資源管理」

現在取り組んでいる研究内容は、以下の三つに分けられます。
第一のテーマは、企業における人的資源管理(特に、日本国内の研究開発技術者の人事制度設計に関する研究)と組織における人間行動に関する研究です。
しかし、広島は、大阪や東京とは異なって、民間企業の本社がそれほど多くないため、民間企業の研究開発部門での人事に関する研究を行ってきませんでした。むしろ広島では地域で求められるニーズとして、医療、介護、公的セクターなどが挙げられます。私もそれらの分野における人事問題に関して、様々な相談を受けております。
そのため、医療系、介護や幼保を含む社会保障・社会福祉系、公的組織系などの分野で、組織におけるより良い制度設計、この種の組織で働く人の心理的特性を考慮したマネジメントの進め方を検討することが主要な研究テーマの一つです。
第二のテーマは、民間企業に関する研究ですが、これは海外を中心に進めています。このテーマには2006年から取り組んでおり、最初は中国での研究に着手しました。皆さん既にご存知の通り、中国の北京、上海、大連、広州、東莞などでは、多くの日系企業が進出しております。このようなアジアに展開している日系企業の人的資源管理に関する研究を行っています。現地従業員のモラルを高めながら生産性の向上を実現するマネジメントに関して、現地の日系企業の取り組みを考察しています。中国では2006年から3年間、タイでは2010年から4年間、昨年からインドネシア・マレーシア・ベトナムにおいて、日系だけでなく欧米系や現地資本系の企業と比較分析を中心とした研究に従事しています。
第三のテーマは、学生さんの将来のキャリアをどのように構築するのかというキャリア教育に類する研究です。私自身、大学卒業後に一旦民間企業に就職しております。また、その企業で採用を含む人事業務に従事していました。このような経験を踏まえて、大学教育と企業経営という両方の視点から、大学生と大学院生のキャリア教育に関する研究に取り組んでいます。例えば、就職活動に対して、意欲を持って継続的に取り組むには、どのような学生生活や行動パターンが求められるのか、いかなるネットワーク構築が重要なのか、どのような形の社会的サポートがあれば学生の皆さんは頑張ることができるのかなどについて研究をしています。
これらの研究成果は、学会や著書、レフェリー誌での報告だけでなく、必要とされている方々にアドバイスをする形で社会に成果還元を行っています。
特に第一のテーマについては、重点的に取り組んでおります。というのも、社会保障分野では、深刻な人材不足が起こっています。そのため、一つ一つの事例を分析すると同時に、人的資源管理における最新の研究成果を援用しながら、適切な人的資源管理モデルの構築に向けた、仮説-検証型の研究が求められています。この研究蓄積により、社会保障分野に従事している皆さんが仕事にやりがいを感じて、長く仕事を続けられるようになるために必要な制度設計や管理者行動を含めたマネジメントの開発を実現することが重要ではないかと考えています。

学生の指導方針-「全力で報告させる」

大学院ゼミのスタイルとしては、基本毎回全員参加です。ゼミの前に、たとえ「こういう方向で進めていいですか」と聞かれたとしても、事前には答えません。その場で全力を尽くして、出し切って、もしだめだったら仕切り直せば良いだけですので、事前に見ることはしません。院生の皆さんに、失敗を恐れずチャレンジする習慣をもってもらいたいので、このようなスタイルを採っています。

また、報告者だけではなく、参加者に対しても「必ず発言してください」というルールを設けています。チームへの参加は、そのチームを何らかの形でより良いものにしていくという義務も伴っているという考えから、そのようなルールを設けています。同時に、質問の内容から院生さんの研究進度や能力の向上を判断しています。基本的に、質問には以下のようなレベルがあると考えています。
レベル1:純粋に解らないことを質問する。
レベル2:クリティカルに報告を聞いた上で、疑問点・問題点を指摘する。
レベル3:クリティカルな視点を踏まえ、自分ならどうするのかを述べる。
レベル4:その研究を更に価値あるもの、面白いものにするためには何をすべきなのかという視点で発言する。
マスターの学生はレベル1、2で良いですが、ドクターの学生にはもっと上のレベルでの発言を求めています。当然、レベル4になるとかなり難しいと思います。なぜなら、その分野における最新の研究動向を押さえたうえで、そこに自分自身の思考や新しい分析技術を組み合わせることで、はじめて価値(オリジナリティ)があるSuggestionが出来るからです。大変でしょうが、博士号を取得するためには必要なステップだと考えています。

写真:原口先生

研究継続における上で大切なこと-「やりがい、必要とされる感覚と健康管理」

疲れて何もしたくないというときも時々あります。しかし、「では、やらなくていいよ。他の人に任せるから」と言われたら、もうちょっとがんばろうと思ってしまいます。
2012年10月から2013年9月の1年間、米国の大学にVisiting Professorとして留学していました。そこでは、自分自身の研究に加え、米国の大学における教育方法を教えていただきました。さらにファカルティ・ミーティング(教授会)に参加して、大学運営のプロセスを学ばせてくことや、頻繁にスタッフの研究室にお邪魔して情報交換をするなど、研究者として様々な交流をさせていただきました。そうこうしているうちに、あっという間に夜になってしまいます。そして現地時間で21時頃、つまり日本時間の10時頃から、日本にいる院生や他大学の共同研究者と研究の話を進めなければなりません。そうすると夜の11時、12時でもずっと電話やSkypeをしているという状態になってしまいました。それでもなぜ続けているのかというと、自分が人や社会に必要とされているという感覚があるからだと思います。こういう向社会的な感覚持つことは、きちんとコントロールしなければ危険だと思いますが、その一方、ポジティブに研究を継続するうえで大切な事ではないかとも思います。
もう一つを加えると、健康管理です。個人的には、研究は地味でもコツコツと長く続けて行くことで、その価値や質が高まると考えていますので、継続を促進するうえでも健康管理は非常に大切だと思います。

企業でなく大学で研究を続けようと思ったきっかけ-「5年間の人事仕事を通じて感じたこと」

大学を卒業した後、関東の建設会社で人事業務を5年間務めていました。会社で働いている間に、過労で倒れた後復帰した社員の方を見て、日本の組織や人事管理には少し問題があるのではないかと思いました。この疑問を解決するために、流通の研究に没頭していた学部時代に誘われた大学院に行こうかと考え始めました。
しかし、実際に会社を辞め、大学院に行くかどうかについては、2年間悩みました。というのは、会社に不満は一切なく、仕事も楽しかったですし、周囲からも認めてもらっていると思っていましたので。仕事が終わって家に帰ったら、「自分の人生このままでいいのか」と一人で悩んでいました。最後に決断した理由は、このまま会社に勤め続けた自分を想像したところ、将来の自己イメージがはっきり見えなかったからです。そこで、「もっと輝けるところがあるのではないか」と考え、当時に自分にとって最も充実していた大学時代を思い起こしました。それで決断をして、大学院に戻りました。

D進学を考える学生へのメッセージ-「十分悩んでください。そして決めたら後悔しない!」

先ほども述べましたように、私自身も2年間悩みました。その経験から申し上げると、進路を考える時には十分悩んで良いと思います。
しかし、「一度決めたら、あとからその決断を後悔するようなことはしないで、前を向いて進んでください」と迷われている方に伝えたいと思います。
踏み出した以上は、少しでも成功するために全力を尽くすべきで、余計なことを考える時間はないと思います。その方が合理的でしょう、悩むことにじっくりと時間をかけ、情報収集するのは良いと思いますが、一度決めたら絶対に後ろを振り返らないでください。

写真:原口先生

取材者:葉 夢珂(教育学研究科 言語文化教育学専攻 日本語教育学専修 博士課程前期2年)


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