第5回 医歯薬保健学研究科 教授 二川 浩樹先生

写真:二川先生

取材実施日:2013年3月15日
第5回先生訪問は広島大学霞キャンパス医歯薬保健学研究科 統合健康科学部門 口腔健康科学講座 教授の二川浩樹先生です。口腔健康科学専攻の大学院を創設し、さまざまな研究成果を残されている先生の研究内容や学生指導についていろいろと伺ってきました。

多岐に渡る研究

大学院では入れ歯の微生物についての研究をしていました。この時に先生から有機化学など色々なことを教えて頂いて、今の自分があると思います。その後、口の中の微生物の集団がなぜできるかということ、例えば微生物同士の相互作用や、口に入れる材料と微生物の関係、生体の反応など口の中の微生物のメカニズムを研究していました。
その一方で、当時の医局では障害者の施設や精神病院が多く、そのような場所で治療していたのですが、例えば精神病の患者さんなどは精神状態などで長期間来られなくなってしまうことがありました。そうなると治療しても歯はどんどん悪くなっていきます。それをどうにかできないかと思い、微生物同士の相互作用や材料、生体反応などを利用して、逆に口の中の感染症を抑えられないかという研究も始めました。
その成果の一つとして、虫歯や歯周病になりにくくするロイテリ菌(もともと精神病の患者さんで口の中は汚くても虫歯が全然ない人の唾液から採った乳酸菌)の入ったヨーグルトをチチヤスと共同開発したり、最近ではL8020菌(虫歯のない子供の口内から発見した乳酸菌)の入ったヨーグルトをらくれんと共同開発しました。現在は、乳酸菌が出している抗菌物質のどの部分に効果があるかなどそのメカニズムの研究をしています。
その他、材料の方で歯に抗菌剤を固定化したく、消毒薬と「ものにくっつくもの」の合成を研究したのですが、いきなり歯に使うのは敷居が高く、食器用洗剤などにどうかと色々なところで発表していました(固定化抗菌剤:Etak)。その結果、抗菌成分と付着成分を持つマスクスプレーとしてエーザイから、その他にも様々な企業からゴルフグローブや白衣、寝具などにも使用され発売されています。
また、もともと抗菌ペプチドといって人や菌が出す抗菌性の高いペプチドを自分で設計していたのですが、その抗菌性の他に骨になるスピードが凄い早いことが分かったんです。それで、そのペプチドをインプラントの予後に良いようならないかという研究もしています。

人とのつながり

広島県はスイスのツーク州と姉妹都市で、広島のスイスプロジェクトというのがあるのです が、その一環で県内の企業の方などと2週間スイスに行きました。
そこで、私が歯科だというとトーヨーエーテックの方が事業としてインプラントをやりたいと 熱心に話してくださり、日本に帰ってから「わかりました」という話になってトーヨーエーテックの工場などを見せてもらったりしていました。
その後トーヨー エーテックとの共同開発でのインプラント事業をやっていたのですが、安全性の試験をする必要があったので、トーヨーエーテックの知り合いの企業で安全性試 験をすることになりました。
その一方で、当時私はEtakの研究をしていたのでEtakの安全性試験を安価でやってくれないかという話をしたところ、薬剤はやっていないと言われ断ら れたのですが、この安全性試験について仲介をしてくれていた商社の方がいろいろなところにEtakの話を持って行ってくれていたんです。それでエーザイか ら連絡があり、製品化に至ったという経緯があります。もしスイスに行っていなかったら、トーヨーエーテックに見学に行かなかったらと考えると、人とのつながりが本当に面白いなと思います。

写真:二川先生

修士で就活

基本的な学生の指導方針として、Dにいく学生も社会性を身に着けなければいけないと思い就活することを勧めています。真面目過ぎて社会性のないものは就活をしろと。そこで他大学の学生がどういう恰好をしているのか、どのような目配せをしているのかなどを見ることで、自分に足りない部分を認識し、見識を広めてほしいです。大学で純培養してしまうと、確かに時間的な無駄はないのですが社会性に欠けてしまうことがある。そうなるとDを出た後で苦労することになるので、社会性を身に付ける一環としても就活を大事にしています。

研究は自由奔放に

研究に対する指導方針は、研究テーマや学会発表に関しても自由にやらせています。それというのも、今のDの学生はMの時から自分の研究計画や思い持っているので、まとめ方などのフォローはするのですがよほどのことがない限り自由にやらせています。

1期生が一番強い

現在一番上の学生はD2なのですが、彼らは学部生時代から、それまでMやDが無かった中、 道なき道を歩いてきていますし強いです。当時の学部長からエリートと言われていたのに対し、雑草のような、カビのようなどこでも生きていける強い学生を育てていると言ったその通りの学生に育っていると思いますし、下の学生も彼らを見て育っています。
将来的に1期生には口腔工学の先生にしてあげたいと思っています。やはりここで育ったものがここで教えていくというのが一番いいと思います。

写真:二川先生

継続は力なり

研究を続けていくうえで一番重要なことは、辞めないこと、継続していくことだと思います。研究にはブームがあるのですが、そのブームを追いかけてもしょうがなく、自分を貫く必要があります。私の場合は、微生物がバックボーンになり研究をしているので、例えば今でしたら再生医療がブームなっているのですが、どんなに再生医療が隆盛を極めたとしても口の中で再生すればその歯はまた虫歯になる可能性があります。そして、その中で微生物や感染症をコントロールする必要が出てきます。ですから、ブームに流されたりではなく、あくまで自分の研究を貫き辞めないことが重要になってくるのです。
それと、学生は4年生で臨床に入るのですが、その時に会った患者さんのためにという気持ちを忘れないで研究してほしいです。例えば、あのおじいちゃんのために自分の研究で何とかするという気持ちが大切だと思います。

臨床も研究も

私は、研究がしたかったので学部の頃からD進学を考えていて、そのままDへ進み現在にいたるのですが、研究をするためにも臨床は非常に重要だと思います。そして、臨床においても研究は重要だと思っています。研究をするからといって誰かのためにという気持ちなくしてしまっては駄目ですし、臨床をするからといって自分のバックボーンになるような研究をないがしろにしてはいけません。ですから、学生には研究をするならある時期臨床をしっかりやれと、逆に臨床をするのであればある時期研究をしっかりやれと言っています。

本来博士は尊敬される存在である

Dへの進学を考えているみなさんに、本来博士は尊敬される存在であるということを考えてほしいと思います。末は博士か大臣かではないですが、博士というのはそういう意味を持つものであるということを。Dにいくことにより専門性を磨き、その道のプロになっていくのは言うまでもないですが、そこにしっかりとした人間性が加わっていなくてはいけない。専門バカにならず、人間性を同時に磨いてほしいと思っています。
Dに行く年齢というのはもう社会人であり、マナーなどもしっかりとしたものを身に付けていかなければいけない。これからDに進学される方々には、社会人であることを自覚し、自分の理想像をしっかりと持ち、専門性以外にも人間性を磨いていって欲しいです。

写真:二川先生

取材者:須藤 絢 (国際協力研究科 教育・文化専攻 教育開発コース 博士課程前期2年)


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