第22回 教育学研究科 教授 池野 範男先生

写真:池野先生

~最先端の研究課題を見つけ出そう~

取材実施日:2015年8月24日
第22回先生訪問は,教育学研究科 科学文化教育学専攻 社会認識教育学講座 池野 範男(いけの のりお)教授にお話を伺いました。

Profile
1981年 広島大学大学院 教育学研究科博士課程 修了
1981年~1985年 広島大学 助手
1985年~1989年 広島大学 講師
1989年~2000年 広島大学 助教授
2000年~ 広島大学 教授

現在の研究内容ー「シティズンシップ教育」を通じてより良い社会を構築すること

私はもともと社会科教育,特に歴史教育を中心に研究していましたが,現在はその発展として「シティズンシップ(citizenship)教育」に関する研究を主に行っています。「シティズンシップ教育」は,各人を社会の構成員として役に立てるような人材に育てることを目的としています。
学校は基礎的な知識を教えますが,実際にどのように行動すれば良いのか,どういうことをすれば社会貢献になるのかについて,多くの人は悪いことをして罰を受けたり,失敗したりする中で,経験的にそれらのことを身につけます。一方,「シティズンシップ教育」は人に知識を与えると共に,社会でどのような行動を取ればいいのかなどの訓練もさせます。特にグローバル化や多文化社会の中では,自分の行動がどのように判断されるのか,お互いに住みやすい社会になるためにはどう行動すべきなのかのトレーニングが益々必要になってきています。
「シティズンシップ教育」に関する研究を始めたきっかけは,1つは,90年代から小学校低学年の社会科が生活科へと再編され、高等学校の社会科も地理歴史科と公民科に分割されることになり,社会科がなくなったことに危機感を覚えたことにあります。もう1つは,第二次世界大戦後の停滞を打破するために,植民地からの移民を含め,すべての国民に社会に関わり社会を立て直すための教育,「シティズンシップ教育」をイギリスが90年代に始めたことです。結果が表れてきたことから,日本でも同様に,国を立て直すためには,国民に対する教育を変えないといけないのではないかと思いました。
また,私は広島大学のインキュベーション研究拠点(注1)の1つである,学習システム促進研究センターの代表を務めています。本研究拠点の目的は,家庭,学校,大学,社会など,あらゆるところの教育における学習システムを構築・促進すると共に,そのシステムを担う人材の育成を推進することです(注2)。
教育界におけるテーマはここ数十年の間,「教える」ことから「学ぶ」ことへと重点を移し,「学ぶ」ことをどのように保証するのかが最大の課題になっています。しかし,それを保証する前に,どのような「学び」の形態があるのかといった点を再考する必要があります。中学校・高等学校の授業を受けたり,大学で研究をしたり,社会を出て仕事から学んだりしていますが,みんなどこかで学習をして生きています。「学び」ということは生きるためのエンジンみたいな働きをしていると言っても過言ではありません。

写真:研究室の本棚(各国の教科書が並べられています。)

学生の指導方針ー精神的に強い教員・若手の研究リーダーを育成

学部の指導は主に教員志望者に焦点を当てて行っています。広島大学教育学部の教育実習の期間は,中学校・高等学校の場合(第二~五類/他学部)は長くても4週間程度しか実施されません。そうすると,具体的な経験がものすごく足りません。広島大学の学生は優秀ですが,うまく行かなかったり失敗したりするとつまずいてしまいます。そのため,精神的な強さと先生になるためのある程度の訓練を学部の時代に教えておかないと,本当に先生になった時は困ってしまいます。
M・Dでは,研究の若手リーダーになれるように指導しています。調査研究にしても,分析的な研究にしても,学生がしたいテーマでかつ最前線の研究になるようにコーディネートしています。学会に行った時も,広島大学の院生が新しいことをやろうとしているのだなと分かってくれるように心がけています。

研究を継続する上で大切なことー最先端の研究を!

私にとって,研究を継続する上で大切なことは,国内外の研究課題を受けて、文献研究,外国との比較研究などの方法を用いて,「最先端の研究をする」ということです。
また,年に必ず2,3回「シティズンシップ教育」のシンポジウム・セミナーを開きます。シンポジウム・セミナーに参加してくれる方の議論や考えから,自分の研究に役に立つものを発見できますし,院生にもいい刺激を与えることができます。
最先端の研究課題を見つけ出し研究することは決して容易ではありません。色々と試行錯誤をしている中で,何かを発見する楽しみや,世界に何らかの貢献ができるのではないかと考えることは,研究を継続するための力になっていきます。

下図:今まで開いたシンポジウム・セミナー等の資料

写真:今まで開いたシンポジウム・セミナー等の資料

D進学を考える学生へのメッセージー自分で研究を切り開けることを期待

先生の言った通りやる人は,博士論文までは書けるかもしれませんが,そこから先,自分一人になると書けなくなります。ゼミで先生に「やってきなさい」と言われたことだけをやる人と,先生に言われたことよりもうすこし先を見て異なることをしてくる人の間に差が出てきます。
研究者として,自分で切り開くことができなかったら自立できません。そのため,自分で新しいテーマを見つけたり,自分の研究の中の方法論を開拓したり,新しい考え方・仮説を出したりしている学生を期待しています。

写真:池野先生

注1: 広島大学インキュベーション研究拠点 http://www.hiroshima-u.ac.jp/orp/core/#ln03
平成25年度,広島大学は文部科学省の「研究大学強化促進事業」において,研究大学として選定されました。今後,広島大学全体で研究力強化に向けた取り組みを実施することで,10年以内に世界トップ100位以内の大学を目指すこととしています。そこで,明確な目標を掲げ,世界トップレベルの研究活動を展開できる「インキュベーション研究拠点(Promising Research Initiatives)」を選定しました。選定された「インキュベーション研究拠点」に対しては,戦略的に組織する自立した研究拠点(Centers of Excellence)へと成長していくための重点支援を行います。

注2:学習システム促進研究センター http://www.hiroshima-u.ac.jp/orp/core/RIDLS/
学習システム促進研究センター(RIDLS)ホームページ:http://ridls.jp
シンポジウム「政策から考えるシティズンシップの教育」が開催されます。詳細はこちら。
日時:平成27年11月22日(日)15:00~19:00
場所:中央大学駿河台記念館(6F 610号室)
葉 夢珂(教育学研究科言語文化教育学専攻 博士課程前期2年)


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