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【研究成果】二酸化チタンの「反応が活発な場所」を世界で初めて可視化 ― 異なる結晶の境目に着目した高性能な材料づくりに新たな手がかり ―

発表のポイント

  • 光が当たることで化学反応を促す「光触媒」※1の代表的な材料である二酸化チタン(TiO2)※2について、表面のどこで反応が活発に起きているのかを世界で初めて直接観察しました。
  • 二酸化チタンには原子の並び方が異なる「アナターゼ型」と「ルチル型」※3という2種類の結晶構造があります。今回、この2種類の結晶が接する境目で反応が最も活発になることを明らかにしました。さらに、境目から離れるほど反応が弱くなることも発見しました。
  • 今回の成果は、光触媒が効率よく働く仕組みの理解を深め、より高性能な光触媒材料をつくるための新たな手がかりとなります。

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の廣森慧太大学院生(現東京大学博士研究員)、中島伸夫准教授らの研究グループは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の小澤健一教授やブルックヘブン国立研究所(BNL)のJ. Sadowski博士らとの国際共同研究により、光触媒物質として広く使われている二酸化チタン(TiO2)の表面で、どこで反応が活発に起きているのかを世界で初めて直接観察することに成功しました。
 光触媒とは、光が当たることで化学反応を促す物質です。代表的な光触媒である二酸化チタンには、原子の並び方が異なる「アナターゼ型」と「ルチル型」という結晶があります。これまで、この2種類の結晶が接する境目では光触媒反応が活発になると考えられていましたが、実際にどの場所で、どの程度反応が起きているのかを直接観察することはできていませんでした。
 今回、研究グループは、物質の表面を非常に細かく観察できる「X線光電子顕微鏡(XPEEM)※4」を使用しました。TiO2の表面に酢酸分子を吸着させて紫外光を照射し、酢酸がどの場所でどのくらい分解されたかを調べることで、光触媒反応の強さを場所ごとに可視化しました。その結果、アナターゼ型とルチル型が接する境目付近で反応が最も活発になり、境目から離れるにつれて反応が弱くなることが明らかになりました。
 この成果は、異なる結晶の境目が光触媒の働きを高める仕組みの理解につながるもので、より高性能な光触媒材料を開発するための新たな手がかりになることが期待されます。
 この研究成果は、「Applied Surface Science」 に8月24日に掲載されました。

 図.X線光電子顕微鏡(XPEEM)による光触媒物質TiO2のアナターゼ型/ルチル型界面※5の光触媒反応分布の可視化の概念図。TiO2表面に酢酸分子を吸着させ、紫外光照射下で 炭素1s光電子放出強度の減衰を追跡することで、光触媒反応の局所的な強さをサブミクロン分解能で可視化した。界面付近で反応が強まり、距離とともに徐々に低下することが明らかになった。

背景

 TiO2は光触媒材料として広く利用されており、特に結晶構造の異なるアナターゼ型とルチル型の混合物は高い活性を示すことが知られています。その理由は、アナターゼ型/ルチル型界面で生じるバンド不連続※6により、光吸収で作られた電子-正孔※7対の分離が促進されるためだと考えられてきました。しかし、従来の手法は空間分解能が十分でなく、界面が光触媒反応にどの程度寄与しているかを直接観察することは困難でした。
 本研究では、ナノ〜サブミクロン分解能※8を持つ XPEEM を用いることで、界面の実際の反応領域を“地図”のように可視化することに成功しました。
 

研究成果の内容

● TiO2単結晶表面にレーザー局所溶融法でアナターゼ型/ルチル型界面を作製
● 酢酸分子を吸着させ、紫外光照射下での C 1s XPEEM 信号※9の減衰を追跡
● 光触媒反応速度定数※10kを各ピクセルで算出し、反応活性の空間分布を可視化
● 界面付近で活性が最大となり、アナターゼ側・ルチル側の双方へ距離とともに減少
● 酢酸分子の吸着量の分布とは異なるため、界面活性は“本質的な反応性の違い”であることを確認
● 界面の影響が デバイ長※11よりも広い範囲に及ぶことを示し、電荷拡散・ドリフト※12の寄与を実験的に裏付け

今後の展開

 本研究で確立したXPEEMによる光触媒反応の空間マッピング手法は、TiO2以外の光触媒材料にも適用可能であり、活性点の探索や界面設計に大きく貢献することが期待されます。また、酢酸以外の分子(メタノール、エタノール、硫黄系揮発性分子など)を用いることで、界面活性の一般性の検証や、より多様な反応機構の解明が可能になります。

参考資料

掲載誌:Applied Surface Science, 754, 168148 (2027);
論文名:“Visualization of the surface distribution of photocatalytic activity at the anatase/rutile TiO2 interface using XPEEM”
DOI:10.1016/j.apsusc.2026.168148

用語説明

※1 光触媒
光が当たることで化学反応を促す物質。二酸化チタンが代表的な光触媒。
※2 二酸化チタン(TiO2)
チタンと酸素からなる化合物。光触媒の代表的な材料として広く利用されている。
※3 アナターゼ型/ルチル型
二酸化チタンの代表的な結晶構造。同じ二酸化チタンでも、原子の並び方が異なる。
※4 X線光電子顕微鏡(XPEEM)
X線を当てたときに物質の表面から放出される電子を利用して、表面の状態を細かく観察する装置。
※5 界面
異なる物質や結晶が接する境目。本研究では、アナターゼ型とルチル型が接する境目を指す。
※6 バンド不連続
異なる結晶が接したときに、電子が存在できるエネルギーの範囲にずれが生じること。
※7 電子・正孔
光を受けた物質の中に生じる、電気を運ぶ電子と、電子が抜けた「穴」に相当する状態。
※8 サブミクロン分解能
1マイクロメートル(1mmの1000分の1)より細かな領域を見分けられる能力。
※9 C 1s XPEEM信号
炭素原子から放出される電子をXPEEMで捉えた信号。本研究では、酢酸の分解の程度を調べるために利用した。※10 反応速度定数
化学反応がどのくらいの速さで進むかを表す数値。
※11 デバイ長
物質の中で、電気的な影響が及ぶ距離の目安。
※12 電荷拡散・ドリフト
電子などの電荷が、濃度の違いや電場の影響によって物質中を移動すること。

【お問い合わせ先】

(研究に関すること)
広島大学 大学院先進理工系科学研究科
准教授 中島伸夫
E-mail:nobuo*hiroshima-u.ac.jp

東京大学 物性研究所
博士研究員 廣森慧太
E-mail:hiromori*issp.u-tokyo.ac.jp

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
教授 小澤健一
E-mail:kenichi.ozawa*kek.jp

(共同研究機関)
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
Brookhaven National Laboratory

(広報に関すること)
広島大学 広報グループ
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp
Tel: 082-424-4518

高エネルギー加速器研究機構 広報室
E-mail:press*kek.jp
Tel: 029-879-6047
 

(*は半角@に置き換えてください)


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