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【研究成果】「輪っか状」の高分子を精密につくる新手法 ―分子量や構造を制御できる「リビング環拡大重合法」を開発―

発表のポイント

  • 高分子1)には、一般的な「ひも状(線状)」のものだけでなく、ひもの両端がつながった「輪っか状(環状)」のものがある。しかし、環状高分子2)の大きさ(分子量)やそのばらつき、構造を狙いどおりに制御してつくることは困難だった。
  • 今回、輪っか状の構造を保ちながら、材料となる小さな分子を順次取り込ませる「リビング環拡大重合法」3)を開発し、分子量やそのばらつき、輪っか状というつながり方を精密に制御した環状共役高分子4)の合成に成功した。
  • 高分子鎖のつながり方(トポロジー)5)の違いを生かすことで、従来のプラスチック材料の限界を打破する、次世代光学・電子材料の開発につながることが期待される。

論文情報

掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Controlled living ring expansion polymerization for the precision synthesis of cyclic poly(aryl isocyanides)
著者:Eiichi Kayahara*, Iori Arai, Takashi Kajitani(*は責任著者)
掲載日:2026年10月21日(水)午前10時(ロンドン時間)オンライン公開
DOI:10.1038/s41467-026-78466-0

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の茅原栄一特定教授、新井緒理大学院生、東京科学大学リサーチインフラ・マネジメント機構コアファシリティセンターの梶谷孝上席技術専門員の研究グループは、輪っか状の高分子(環状高分子)を精密につくる新しい方法「リビング環拡大重合法」の開発に成功しました。
 高分子は、小さな分子が多数つながってできています。一般的な高分子は両端のある「ひも状」ですが、両端がつながった「輪っか状」の環状高分子も知られています。環状高分子は、ひも状の高分子とは異なる性質や機能を示すことがありますが、分子量やそのばらつき、構造を狙いどおりに制御してつくることは困難でした。
 今回、研究グループは、輪っか状の構造を保ちながら、材料となる小さな分子を順次取り込ませる「リビング環拡大重合法」を開発し、分子量やそのばらつき、輪っか状というつながり方を精密に制御した環状共役高分子の合成に成功しました。さらに、らせん状の構造を持つものや、性質の異なる部分をブロック状に組み合わせた環状高分子の合成にも成功しました。
 本成果により、分子のつながり方(トポロジー)の違いが高分子の性質にどのような影響を与えるかを詳しく調べることが可能になります。今後、こうした知見を生かし、新たな光学・電子機能を持つ高分子材料の設計・開発につながることが期待されます。
 本研究成果は、2026年10月21日(水)午前10時(ロンドン時間)に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

研究の背景

 合成高分子は私たちの生活の至る所に存在し、プラスチック、フィルム、合成繊維、合成ゴム、半導体材料などに広く利用されています。現代社会を支える基盤材料であり、持続可能な社会の実現に向けて、さらなる高機能化が求められています。そのためには、既存の高分子構造や重合法を改良するだけでなく、これまでにない高分子構造とその合成法を開拓することが重要です。
 高分子は、多数の小さな分子(モノマー)6)がつながった長い分子鎖からできています。一般的な合成高分子は、両端を持つひも状構造を持ちますが(図1)、その両端がつながって「輪っか状」になったものが環状高分子です。環状高分子は鎖の末端をもたないため、同じ化学構造や分子量を持つ線状高分子と比べて、溶液中での分子の大きさや粘度、分子鎖の絡み合い、熱的性質に違いが生じることが知られています。このため、高分子鎖のつながり方(トポロジー)を新たな材料設計の指針として利用する研究が注目されています。
 こうした特徴を材料の高機能化に生かすには、高分子の大きさを表す「分子量」、そのばらつきを表す「分散度7)」、そして「トポロジー」を精密に制御することが重要です。しかし、これらを同時に制御して環状高分子をつくることは、非常に難しい課題でした。特に、汎用(はんよう)高分子である非共役高分子鎖を骨格とした環状高分子の合成は数多く報告されている一方、光学・電子材料などへの展開が期待される共役構造を骨格とする環状共役高分子の合成例は限られていました。さらに、分子量、分散度、トポロジーを精密に制御して合成する方法はこれまでに確立されていませんでした。

図1. 合成高分子の種類

研究の内容

 環状高分子の合成法として、環状構造を持つ開始剤がモノマーを次々と取り込みながら環を大きくしていく「環拡大重合法」が報告されています。環状共役高分子を直接合成できる有力な方法ですが、精密制御は報告例がなく、その適用範囲も限られていました。本研究グループは、錯体設計の自由度が高い後周期遷移金属を含む環状錯体に着目し、環状パラジウム錯体1(図2aの最も左に示したもの)を開始剤とした、アリールイソシアニド8)2(図2aの青色の丸で囲んだもの)の新しい「リビング環拡大重合法」を開発しました(図2a)。 
 特に、錯体 1 に有機酸化剤を加えることで重合が劇的に促進され、2がパラジウム―炭素結合へ次々と挿入されながら、環状構造を維持したまま環が拡大することを見いだしました。さらに、反応温度を制御することで、「環が拡大する過程」と「環骨格からパラジウムを取り除いて(脱離)環状ポリイソシアニドを生成する過程」を段階的に進行させることができました。従来の環拡大重合では、これらの反応が競争して進行するため重合の精密制御が困難でしたが、本手法では2つの過程を分離して制御できることが大きな特徴です。
 すなわち、環拡大重合中に、パラジウム中心が常に環内に保持されることから、用いるモノマー量に応じて得られる高分子の分子量(Mn)が比例して増加するとともに、分子量のばらつきを示す分散度(Ð)も極めて小さい値を示しました(図2b、c)。さらに、最初のモノマーが消費された後に新たなモノマーを加えると、重合が再び進行して分子量が増加しました。これらの結果から、本反応が「リビング重合」9)として進行していることが明らかになりました。
 また、本重合は、さまざまな官能基、機能団を持つアリールイソシアニドも用いることができ、例えば、キラルなモノマーを用いることで、光学活性を示す環状らせん高分子(図2d)も得られました。加えて、リビング重合の特徴を利用して、異なる2種類のアリールイソシアニド(図2aの青色、緑色の丸で囲んだもの)を順番に重合することで、化学構造の異なる2つの高分子鎖が1つの環の中でつながった「環状ブロック共重合体」の精密合成にも成功しました(図2a)。

図2. 研究結果 (a) 開発したリビング環拡大重合法、(b) 用いたモノマー量(開始剤1に対してモノマー2を10–200当量使用)と得られた高分子の分子量および分散度の関係、(c) (b)で得られた高分子の分析結果、(d) 環状らせん高分子の構造、原子間力顕微鏡(AFM)観察による環状高分子の (e) 二次元像、(f) 三次元像、(g) 断面高さプロファイル。

 さらに、複数の分析手法を組み合わせて環状高分子と同程度の分子量を持つ線状高分子を比較したところ、環状高分子は、より小さな流体力学半径、低い固有粘度、高いガラス転移温度を示すことが明らかになりました。これは、高分子鎖の化学構造が同じであっても、「環状」というトポロジーによって高分子の形や物性が変化することを示しています。さらに、原子間力顕微鏡によって孤立した環状高分子一本鎖を観察することにも成功し、合成した高分子が実際に環状構造を形成していることも明らかにしました(図2e-g)。
 本研究により、環状高分子を単に「つくる」だけでなく、分子量や化学構造を自在に設計しながら精密につくることが可能になりました。本成果は、これまで合成上の制約によって十分に研究されてこなかった環状共役高分子の多様な分子設計を可能にし、環状構造に由来する新しい物性や機能の開拓につながると期待されます。

今後の展開

 本リビング環拡大重合法は、環状高分子の科学を一新する方法です。今後、適用できるモノマーの種類を拡大するとともに、より複雑なトポロジーを持つ高分子の精密合成が可能になると期待されます。
 本研究は、トポロジーを新たな材料設計の要素として利用するための基盤技術となるものです。特に、共役高分子が持つ光・電子機能やらせん特性と環状トポロジーを組み合わせることで、光学・電子材料をはじめとする新しい機能性高分子材料の創出につながることが期待されます。

用語解説

1)高分子
 小さな分子が多数繰り返しつながった、分子量の大きな分子。ブドウ糖からなるデンプン、アミノ酸からなるタンパク質といった天然高分子と、人工的に合成した合成高分子がある。合成高分子には、プラスチック、合成繊維の原料になるポリエチレン、ポリスチレン、ナイロンなどがある。

2)環状高分子
小さな分子が多数つながってできた高分子のうち、両端がつながって「輪っか状」になったもの。一般的な「ひも状」の高分子と異なり、分子の端がないため、同じ成分や分子量でも、分子の大きさや粘度、熱に対する性質などが異なることがある。

3)環拡大重合法
環状の構造を持つ開始剤がモノマーを次々と取り込み、環状の構造を保ちながら環を拡大して高分子をつくる方法。本研究では、この方法を精密に制御できる新たな重合法「リビング環拡大重合法」を開発した。

4)共役高分子
分子内に「共役構造」と呼ばれる特徴的な構造が連続している高分子。光を吸収したり、電気を流したり、電気エネルギーから光を放ったりする有機半導体としての特異な機能を発揮することから、光学・電子材料などに利用されている。本研究では、この共役構造を骨格に持つ環状高分子を対象としている。

5)トポロジー
分子の「形状」や「つながり方の構造(幾何学的構造)」のこと。合成高分子では、高分子鎖はひも状(線状)の構造を持つのが一般的であるが、枝分かれしたもの(星型・分岐状)、輪っかになったもの(環状)など、さまざまなトポロジーを持つ高分子が存在する。材料の成分が全く同じであっても、このトポロジーが変わるだけで、材料の硬さ、溶けやすさ、耐熱性などの物理的性質が劇的に変化することが知られている。

6)モノマー
高分子をつくる材料となる小さな分子。多数のモノマーがつながることで高分子ができる。本研究では「アリールイソシアニド」をモノマーとして用いている。

7)分散度
分子量の「ばらつき」の度合いを示す指標。合成高分子は、長い鎖や短い鎖が混ざり合っている。この値が1に近ければ近いほど、すべての高分子鎖が均一な長さでそろっていることを意味する。

8)アリールイソシアニド
本研究で、環状高分子をつくる材料(モノマー)として用いた化合物の一種。

9)リビング重合
重合中に、停止反応や連鎖移動といった副反応が起きず、重合活性点が保たれたまま反応が進行する重合反応。加えるモノマーの量によって高分子の分子量を制御できるほか、最初のモノマーが消費された後に別のモノマーを加えて重合を再開できる。この特徴を利用することで、分子量や化学構造が精密に制御された高分子を合成できる。

研究サポート

JST 創発的研究支援事業(JPMJFR211M)
JSPS 科学研究費助成事業(挑戦的研究(萌芽))課題番号26K22855
公益財団法人 JKA
公益財団法人 旭硝子財団
公益財団法人 浦上財団
公益財団法人 小笠原敏晶記念財団
公益財団法人 サタケ技術振興財団
公益財団法人 住友電工グループ社会貢献基金
公益財団法人 古川技術振興財団

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学 大学院先進理工系科学研究科
特定教授 茅原栄一
Tel:082-424-7417
E-mail:kayahara*hiroshima-u.ac.jp

<広報に関すること>
広島大学 広報グループ
Tel:082-424-4518
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

東京科学大学 総務企画部 広報課
Tel:03-5734-2975
E-mail:media*adm.isct.ac.jp

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404
E-mail:jstkoho*jst.go.jp

<JST事業に関すること>
科学技術振興機構 創発的研究推進部
酒井重樹
Tel:03-5214-7276
E-mail:souhatsu-inquiry*jst.go.jp
 

(*は半角@に置き換えてください)


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