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【研究成果】同じ環境で育ったハエでも、空腹のほうが匂いに敏感? ―嗅覚の個体差と空腹状態の関連を発見―

本研究成果のポイント

  • 遺伝的にはほぼ同じで、同じ環境で育ったショウジョウバエ(遺伝や行動の研究に広く使われる小型のハエ)でも、食べ物の匂いへの反応に違いがあることを発見しました。
     
  • 個体ごとの空腹状態の違いが、食べ物の匂いへの反応の個体差に関係することを明らかにしました。
     
  • 「生理状態」と「嗅覚の個体差」との関係や、個体ごとの行動の違いが生まれる仕組みの解明につながることが期待されます。

掲載論文

・雑誌名:iScience
・論文名:Individual variation in food odor sensitivity is related to neuropeptide signaling and starvation in Drosophila
・著者名:Misako Okumura, Yoshiaki Shibukawa, Yumiko Ukita, Akira Ito, Mami Nakamizo-Dojo, Takahiro Chihara
・掲載日時:2026年11月4日
・DOI:10.1016/j.isci.2026.118105

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科の奥村美紗子准教授(現 東北大学教授)、千原崇裕教授らの研究グループは、ショウジョウバエ(※1)を用いて、食べ物の匂いに対する反応の個体差が、それぞれの個体の空腹状態と関係していることを明らかにしました。
 同じ遺伝的背景(※2)をもつショウジョウバエを用いて、ハエが好む食べ物の匂いに対する反応を繰り返し調べたところ、匂いに繰り返し反応する個体と、反応しない個体に分けることができました。これらの個体を詳しく調べると、匂いに敏感な個体では脂質に関連する遺伝子の発現に違いがみられ、体内の脂質量が少ないこと、また飢餓に弱いことが分かりました。さらに、空腹時に発現が増加し、食べ物の匂いへの感度を調節することが知られている神経ペプチド受容体sNPF-R(※3)の発現量が高いことも明らかになりました。
 これらの結果は、同じ遺伝的背景をもち同じ環境で育った個体であっても、体内の栄養状態には個体差があり、それが食べ物の匂いに対する反応の個体差を生み出している可能性を示しています。
 本研究は、国際学術雑誌「iScience」に2026年11月4日に掲載されました。

背景

 匂いを感じる嗅覚は、食べ物を見つけたり、敵などの危険を避けたりするために重要な感覚です。一方、同じ匂いに対しても、敏感に反応する個体もいれば、あまり反応しない個体もいるなど、嗅覚には大きな個体差があります。ヒトを含む様々な動物でこのような個体差が知られていますが、嗅覚の個体差がどのような仕組みで生じるのかは十分に分かっていません。
 ショウジョウバエでは、匂いを感知する受容体や神経細胞について詳しく研究されており、匂いに対する行動を調べる実験方法も確立されています。また、遺伝的背景や飼育環境をそろえて多数の個体を調べることができます。そこで本研究では、ショウジョウバエを用いて、食べ物の匂いに対する感受性の個体差を生み出す仕組みを調べました。

研究成果の内容

 本研究では、まず同じ遺伝的背景をもつショウジョウバエを同じ環境で飼育し、ショウジョウバエが好む食べ物の匂いとして、リンゴ酢に対する反応を繰り返し調べました。その結果、食べ物の匂いに繰り返し誘引される「匂いに敏感な個体」と繰り返し反応しない「匂いに鈍感な個体」に分けることができました(図1)。
 次に、この2つのグループではどのような違いがあるのかを調べました。遺伝子の発現を網羅的に比較したところ、匂いに敏感な個体では、脂質の代謝や輸送などに関わる遺伝子の発現が、鈍感な個体に比べて減少していました。また、空腹時に発現が増加し、食べ物の匂いへの感度を調節することが知られている神経ペプチド受容体sNPF-Rも、匂いに敏感な個体で発現量が高いことが分かりました。
 そこで、空腹状態と食べ物の匂いへの反応との関係をさらに調べました。その結果、匂いに敏感な個体では、体内に蓄えられている脂質の量が少なく、鈍感な個体と比べて飢餓状態での生存期間も短いことが分かりました。さらに、匂いに敏感な個体に餌を与えると、食べ物の匂いへの反応が低下しました。これらの結果から、同じ遺伝的背景をもつ個体であっても、栄養状態の個体差が、匂いに対する感受性の個体差に関係していることが示されました。
 

今後の展開

 本研究から、同じ遺伝的背景をもち、同じ環境で飼育された個体であっても、空腹状態には違いがあり、それが食べ物の匂いへの感受性の個体差と関係することが分かりました。今後は、こうした個体ごとの生理状態の違いがどのように生じるのか、また、それが嗅覚の感度をどのように変化させるかを明らかにしていきます。さらに、食べ物以外の匂いに対する感受性にも生理状態が影響するのかを調べることで、生理状態と嗅覚の個体差との関係をより広く理解することにつながると期待されます。

用語解説

※1:ショウジョウバエ
 遺伝学や神経科学などの生物学研究に広く用いられているモデル生物。本研究では、遺伝的背景をそろえた個体間で、食べ物の匂いに対する反応を比較しました。

※2:遺伝的背景
 個体がもつ遺伝情報の全体的な構成。本研究では、遺伝的な違いによる影響をできるだけ除くため、同じ系統のショウジョウバエを用いています。

※3:神経ペプチド受容体 sNPF-R
 神経ペプチドは、神経細胞などから放出され、他の細胞に情報を伝えるちいさなタンパク質です。sNPF-Rは神経ペプチドの一種であるsNPFを受け取る受容体です。ショウジョウバエの脳では、飢餓時にsNPF-Rの発現量が増加し、食べ物の匂いに対する感受性を上昇させることが知られています。
 

参考資料

図1 本研究の概要

【お問い合わせ先】

広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授 千原 崇裕
Tel:082-424-7443
E-mail:tchihara*hiroshima-u.ac.jp


 (*は半角@に置き換えてください)


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