令和2年度 秋季学位記授与式

学長式辞 令和2年度秋季学位記授与式 (2020.9.18)

 本日、学位記を受けられる337人の卒業生、修了生の皆さん、誠におめでとうございます。令和2年度の秋季学位記授与式を挙行するにあたり、広島大学を代表して心からお祝いを申し上げます。

 今、世界中で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。日本も例外ではありません。広島大学におきましても、感染を防ぐためとはいえ、今年4月から対面授業の大半をオンラインに切り替えたり、大学構内への立ち入りを制限するなど、かつて経験したことがない事態となりました。

 コロナの影響でアルバイトなどの収入が激減したり、留学生の中には母国に帰れず不安な日々を過ごしたりした人も多いことと思います。生活に困窮している学生を救うために広島大学は、全国の大学に先駆けて4月21日から応急学生支援金の給付を開始しました。卒業生をはじめ保護者、市民、教職員の皆さんからの多大なご支援に、あらためて感謝申し上げます。

 こうした逆境を乗り越えて、晴れの日を迎えた全ての皆さんに、心からの敬意とねぎらいの言葉を贈ります。この喜びはご家族をはじめ友人、先輩、後輩など周りの人々の理解と支えがあって成し遂げられたことを、しっかり胸に刻んでください。

 今回の新型コロナウイルス感染症は、もともと野生生物が持っていたウイルスが病原体であると考えられています。地球温暖化や森林破壊によって、本来の生息環境を追われた野生動物と人や家畜が接触する機会が増えたことに加え、世界各地で野生動物の取引が拡大していることが、新たな感染症の増加に拍車を掛けているのです。

 まさしく新型コロナ感染症の蔓延は、効率一辺倒の経済至上主義と科学技術万能主義を両輪として突き進んできた現代社会に対する、自然からの警鐘であるように見えます。これからのウイズ・コロナ、ポスト・コロナの時代は、人と自然がいかに共存していくかという視点に立ち返ることが、あらためて求められていると思えてなりません。

 さて、今年は原爆投下から75年の節目の年でもあります。1949年、広島大学は焦土と化した広島の地に「自由で平和な一つの大学」を建学の精神として開学しました。「平和を希求する精神」は本学の理念のひとつであり、私も学長に就任して以来、「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人の育成」をアピールしてまいりました。今年は平和企画として6カ国の学生12人による「学生ヒロシマ平和宣言」を世界に向けて発信しました。新たな人生の一歩を踏み出される皆さんも、一人一人が平和のために何ができるかを自分の頭で考え、行動していただきたいと願っています。

 広島大学は今年4月に当面の大学院改革をほぼ終えました。これまでの11研究科を4研究科に再編し、専門性に加えて他分野とも協働できる人材を育てる仕組みが整ったと考えています。

 アメリカの著名なコラムニスト、マルコム・グラッドウェルが著書で紹介している「一万時間の法則」というものがあります。「人が何かに習熟して超一流になるためには一万時間の練習が必要」というものです。言い換えれば、才能や技量は努力の積み重ねによって花開くのです。

 新型コロナだけでなく、人類は地球環境、核、貧困、虐待など、さまざまな難題に直面しています。皆さんには広島大学で身に付けた学識や技術を力に、決してひるまず、これらの課題に立ち向かっていただきたいと願っています。

 あらためまして、皆さんの前途が夢と希望に満ちたものとなることを祈念いたしまして、私からのはなむけの言葉といたします。

令和2年9月18日
広島大学長 越智光夫


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