令和4年度 秋季学位記授与式

学長式辞 令和4年度秋季学位記授与式 (2022.9.20)

 本日、学位記を受けられる290人の卒業生、修了生の皆さん、誠におめでとうございます。令和4年度の秋季学位記授与式を挙行するにあたり、広島大学を代表して心からお祝いを申し上げます。とりわけ、さまざまな苦難を乗り越えて、きょうのよき日を迎えられた留学生の皆さんには、心からの敬意と拍手を贈ります。ご家族や友人をはじめ皆さんを取り巻く大勢の方々のご理解と支えがあったことを忘れないでいただきたいと思います。
 
 2020年代に入って、私たち人類はパンデミックと戦争という二つの深刻な危機に見舞われることになりました。
 最初の危機である新型コロナウイルス感染症は、流行が始まって既に2年半を超えています。しかし、いまだに終息の兆しは見えないまま、世界の累計感染者数は6億人を突破し、亡くなった人も650万人余りに上っています。
 いま一つの危機は、今年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。戦争が始まってから半年が過ぎましたが、長期化する戦闘の中で子どもたちを含む市民の犠牲の増加とともに、原子力発電所への砲撃による放射能汚染や核兵器使用の恐れも高まっています。
 今まさに同時進行している二つの危機をめぐって、私はある懸念を抱かざるを得ません。それは、長期化するにつれ、人々の関心が薄れつつあるのではないか、ということです。日本も例外ではないと感じています。
 コロナ禍についても、またウクライナ侵攻についても、当初はメディアにさまざまな情報があふれました。しかし、いまだ事態が終息していないにもかかわらず、最近では報道される頻度や量は減少しています。
 19世紀ドイツの哲学者ショーペンハウエルは次のような言葉を残しています。
 「意見というものは振り子のようであり、同じ法則にしたがう。片側の重心を通り過ぎると、もう片側も同様の距離だけ振れなければならない。そして、一定の時間を経た後でのみ、真にとどまる位置を見いだすことができるのである」
 インターネットやSNSなどを通じて、真偽不明の情報や言説が拡散される現代にあっても、このショーペンハウエルの警句は当てはまるのではないでしょうか。これから巣立っていかれる皆さんには、はんらんする情報に惑わされず、自ら吟味し、熟慮に基づいて危機に立ち向かってほしいと願っています。

 広島大学は今年2月、ロシアのウクライナ侵攻に対する抗議の意思を、学長声明の形でいち早くホームページ上で表明しました。ウクライナの学生を受け入れています。一方、人道危機が続くアフガニスタンからも、元留学生とその家族に対する受け入れ支援を開始しました。「平和を希求する精神」を理念の第一に掲げる広島大学にとって、当然果たすべき使命であると考えるからです。
 戦争や感染症とともに、洪水や猛暑といった自然災害も大きな脅威をもたらしています。地球温暖化は人間のみならず、あらゆる生命(いのち)の安全保障上のリスクであるといっても過言ではありません。
 こうした中で昨年1月、広島大学はカーボンニュートラルを政府目標より20年前倒しして30年までに実現する「カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0宣言」を行いました。さらに今年8月には、27年度までに二酸化炭素の排出量を13年度比で70%削減するアクションプランを定めたところです。緑なす地球を未来に引き継いでいくために、広島大学は脱炭素社会の実現に向けて果敢にチャレンジしてまいります。
 大学の国際化に関していえば、国立大学で初めて外国大学日本校の指定を受けた米国アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営大学院の広島大学グローバル校が東広島キャンパスに開校し、8月から授業が始まっています。一足早くオープンした国際交流拠点施設ミライ クリエと相まって、言語や文化の違いを超えて多様な人々が集うグローバルキャンパスとして発展するよう期待しています。
 皆さんはきょうから広島大学のalumniとなられます。この5月、海外の同窓生と産学官が連携して新たな価値の創造を目指す海外同窓会のモデルとして、広島大学校友会インドネシアチャプターが設立されました。今後も国内外に広げていく所存です。多くの皆さんのご参加をお待ちしております。

 広島大学は2年後の24年に開学75年、最も古い前身校である白島学校の創設から150年の節目を迎えます。「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人」として未来へ踏み出される皆さんとスクラムを組み、「100年後にも光り輝き続ける広島大学」を目指して進んでいくことをお誓いして、私からのはなむけの言葉といたします。

令和4年9月20日
広島大学長 越智光夫


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