広島大学国際戦略2022

前言

 広島大学は、「自由で平和な一つの大学」という建学の精神に則り、平和を希求する大学として、教育・研究・医療・社会貢献の各分野においてその使命と役割を果たしてきた。日本の大学の更なる国際化が求められるなか、広島大学はヒロシマに位置する研究大学として、すなわち、世界のHIROSHIMA UNIVERSITYとしてその使命と役割を積極的に果たす。2015年に第12代学長に就任した越智光夫学長は「平和を希求しチャレンジする国際的教養人の育成」及び「100年後にも世界で光り輝く大学」を目標として掲げ、これを実現するために長期ビジョンSPLENDOR (Sustainable Peace Leader Enhancement by Nurturing Development of Research) PLAN 2017を策定した。越智学長第2期(2019-2022)において本長期ビジョンを確実に遂行するため、国際戦略2022を新たに定める。

基本方針

 SPLENDOR PLAN 2017は、「持続可能な発展を導く科学」を新しい平和科学の理念として掲げ、この「平和科学」の確立と多様性をはぐくむ自由で平和な国際社会の実現を新たなミッションとして提示した。広島大学はこのミッションを実現するために、(1)平和研究・平和教育の推進と(2持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)達成への貢献を二つの柱として国際戦略を定める。とりわけ、旧制広島高等師範学校を設立母体の一つとする広島大学は「教育の広島」の伝統をもつ。本学の強みを活かしSDG4「教育」及びSDG16「平和」の達成に力点を置くとともに、自ら教育機関として本学で学ぶ者も働く者も成長を実感できる大学であることを国際化の指針とする。
 本戦略では、2016年に策定した「広島大学国際戦略2016」を踏まえ、「教育」「研究」「国際貢献・社会貢献」「ブランディング/国際化への基盤整備」を基本構成とした。更に、各戦略に対し、別途、具体的な方策を提案するとともに、資源の有効な配分の観点から地域戦略の提言を定める。

Ⅰ 教育

(1) グローバル人財を育成する一貫教育の確立
 広島大学は、入学から卒業までの教育課程全体を通して段階的にグローバル人財を育成する一貫教育を提供する。このグローバル人財一貫教育は、異文化交流→海外体験→専門教育→個人研究→海外就労経験まで明確なカリキュラム・マッピングを提示し、本学に在籍する学生全員の様々なニーズに応える人財育成である。この一貫教育を確立するために既存の様々な制度、教育プログラム等を十分に活用する。とりわけ、次のように派遣・受入れ事業の環境をより充実させ、社会の様々なニーズに応えられるグローバル・コンピテンシーを兼ね備えた日本人学生及び留学生を養成する。

  1. 学生の海外派遣留学の充実
     グローバル人財一貫教育を充実するために、派遣留学事業を積極的に拡大する。また、学生のグローバル・コンピテンシーを向上させ、国際的に活躍する卒業・修了生を増やす。
  2. 留学生受入れの充実
     短期受入れ留学生に全学の様々な交流プログラム、日本語・日本文化コース、英語及びその他の外国語による専門教育を通して、質保証を伴った教育・研究の機会を提供する。

(2) カリキュラムの国際標準化
 日本人学生と留学生が共同で学習できる「Internationalization at Home」の環境を整え、本学の教育カリキュラムの細部に渡り、日本を深く理解し国際的な視点から学ぶことができる教育を提供する。
(3) 留学生のための日本語・日本文化教育の充実
 個々の日本語学習者及び海外の日本語教員のニーズやレベルに対応したICT活用による日本語・日本文化教育を提供し、広島大学の多様な日本語・日本文化教育の実践及び近隣の教育機関との連携活動を、中四国地域の日本語教育の拠点形成に繋げる。さらに、海外拠点を地球規模の学習キャンパスと捉え、世界の舞台で活躍するグローバル人財の育成と中四国地域の日本語・日本文化教育の拠点化を目指す。
(4) 平和を希求する国際的教養人の育成
 教育課程において「平和科目」を充実し、広島大学で学ぶすべての学生に対して平和とは何かを考え議論する機会を提供する。これにより、平和を希求する国際的教養人、すなわち、平和を希求し、他者を理解し、知識と行動力を持つ、国際社会に羽ばたく人財の育成を目指す。
(5) SDGsの達成を目指す人財育成
 持続可能な開発目標(SDGs)は、人類と地球が直面する今日的、将来的な喫緊の課題を普遍的、かつ自らの課題として受け止め、必要な変革を伴いつつ、ともに考え、行動することを私たちに求めている。広島大学は、学生一人ひとりがSDGsを達成するために、主体的に考え、行動する力を身につけ、世界の、地域のあらゆる場面で活躍できるようになることを目指して、様々な学習機会を提供する。これらにより、多分野学問間の連携と融合によるインターディシプリナリーな教育プログラムを確立し、大学としての取組をより制度的なものとする。

Ⅱ 研究

(1) 研究力の強化
 国際共同研究の推進による研究力強化及び質の向上、レピュテーション向上を目指して、国際的研究ネットワーク構築とその組織的な活用、大型外部資金獲得、外国人等教員の積極的雇用、及び国際的研究活動強化のための学内基盤整備を行う。これにより、既存の取り組みの有効性を高めつつ、新たな挑戦を続け、組織的に持続可能な国際競争力を持つ研究機関となる。
(2) 平和研究の拠点形成
 平和研究の拠点として、関連他機関とともに「オールヒロシマ」で平和研究並びに平和教育の場を創出し、平和に関する国際発信・社会貢献の拠点を担う。
(3) SDGsの達成を促進する研究支援
 本学長期ビジョンSPLENDOR PLAN 2017が目指す「持続可能な発展を導く科学」を実現すべく、これを支える基礎研究と応用、先端研究の高度化を推進するとともに、学内の個々の取組がどのようにSDGs達成に貢献するかを示しつつ、全体としての相乗効果を高める取組を行う。教育及び国際貢献と合わせて、広島大学のSDGs達成に向けた貢献を体系的に制度化し、本学独自の研究活動を活発化させ、その成果を内外に向けて強く発信する。

Ⅲ 社会貢献・国際貢献

(1) 国際産学連携
 国際的視野から産学連携強化を図り、本学の国際的なプレゼンスを高めることを目指して、国内外ネットワークの拡大と強化、国際共同研究の推進、及び人材交流を通じたアントレプレナー教育の充実と国際展開に取り組む。これにより、国際的産学連携の強化が図られ、世界的視野を持った国際競争力のある人材の育成・活用、国際的研究者ネットワークの構築が確立され、国際的な研究成果の発信につながる。
(2) 国際機関・海外政府機関との連携強化
 本学が行う教育、研究、国際貢献の全般において、広島大学の強みを活かしつつ、互いを高め合うパートナーとしての協働を通して共通の課題に対応するため、国際機関や海外政府機関と積極的に連携する。これにより、教育、研究、国際貢献を実施する場と機会を拡充させ、広島大学の国際的なプレゼンスを向上させる。
(3) 「平和科学」の世界発信
 これまで、被爆地「ヒロシマ」に開学し、「自由で平和な一つの大学」を建学の精神として掲げる本学の使命として、戦争、原爆、貧困、飢餓、人口増加、環境など多様な観点から「平和を考える場」を提供してきた。今後は、従来の実績を生かし、SDGsの取組と連携し、広島大学発の「平和科学」を世界に向けて発信する。これにより、「平和」の大学、広島大学のプレゼンスを国内外に強く発信する。
(4) SDGsの達成に向けた貢献
 本学構成員(教職員及び学生)がさまざまな機会を通じてSDGs関連の活動に積極的に参画することを大学として推奨し、その活動成果を、教育・研究に還元する。これにより、広島大学によるSDGs達成に向けた貢献の相乗効果を高め、体系的に制度化させる。

(5) 特色ある先端医科学・高度先進医療の展開
 広島大学病院が果たしてきた、地域の各拠点病院との連携を図る中心的医療機関としての機能を活かし、原爆の惨禍からの復興を支えてきた大学として、放射線災害医療に関する国際拠点を形成し、本学が世界にアピールしうる特色ある先端医科学・高度先進医療を展開する。また、国際交流協定校との連携を深め、国際的に活躍できる若手医師や医療人の育成を行いつつ、広島大学の特徴を活かしたアジアのメディカルセンターとしての役割を担う施設として整備・発展させる。

Ⅳ ブランディング/国際化への基盤整備

(1) 国際コンソーシアムの拡充
 国内外のコンソーシアムの構築・活用に積極的に取り組み、様々な教育・研究活動の連携を図り、国内外の連携大学と共同で国際教育を発展させ、共同研究の展開力を向上させる。
(2) 海外拠点・海外校友会の強化・活用
 海外拠点・海外校友会と連携することによって、価値観が一層多様化した社会への国際貢献、質の高い留学生の獲得、地域社会、及び国際社会に貢献できる人財育成を促進させる。国際社会において本学の存在感を一層向上させるとともに、本学の国際競争力を強化する。
(3) 広報の充実
 広報の手段と内容を充実させ、求められる情報を的確に伝えるとともに、本学への留学や共同研究への関心及び本学のレピュテーションを高める。
(4) 国際水準の評価システムの構築
 広島大学は、国際的信頼を向上させるため、世界に存在する様々な国際的評価ツール、認証評価基準等を整理し、世界的に信頼される「広島大学」ブランドを確立する。
(5) すべての構成員にとって学びの場となるグローバル・バリアフリー・キャンパスの実現
 留学生や外国人研究員・職員が言語・生活習慣の違いや障がいの有無にかかわらず、不都合なくキャンパスで生活が送れるように条件を整備する。広島大学のすべての構成員が自らの成長を実感できる体制を整える。これにより、多様性をはぐくむ自由で平和なキャンパスを実現する。


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