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【研究成果】持続可能な次世代燃料などへの活用期待~微細藻類が作る油の「量」と「性質」を決める仕組みを発見 ~

本研究成果のポイント

  • 油をつくる能力の高い微細藻類「ナンノクロロプシス」から、油の蓄積量と性質の調節に関わる酵素(リパーゼ)を特定しました。
  • 特定のリパーゼを働かなくすると、細胞内に蓄積する油の量が増えるとともに、その組成も変化することを発見しました。
  • リパーゼの働きを人為的に制御することで、微細藻類による油脂生産を向上させるだけでなく、用途に合った性質の油をつくることが期待されます。

概要

 株式会社ファイトリピッド・テクノロジーズ(岩井雅子 研究員ら)、東京科学大学(生命理工学院 下嶋美恵 准教授ら)、広島大学(大学院統合生命科学研究科 坂本 敦 教授ら)およびマツダ株式会社(前田真一郎 研究員ら)の共同研究グループは、油を作る能力に優れた微細藻類(※1)「ナンノクロロプシス(※2)」において、細胞内に蓄積する油の量と、その性質を左右する脂肪酸組成(※3)の調節機構の一端を明らかにしました。
 研究グループは、ナンノクロロプシスが持つ一群のリパーゼ(※4)に注目し、油の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG;※5)の蓄積におけるこれらの酵素の役割を調べました。その結果、遺伝子ノックアウト(※6)によって2つのリパーゼをそれぞれ働かなくすると、リン栄養(※7)が不足した環境において、TAG蓄積量が通常の株よりもさらに増加することを発見しました。加えて、働かなくしたリパーゼの種類に応じて、蓄積したTAGの脂肪酸組成にも異なる変化が見られました。これらの結果から、2つのリパーゼは単に油を分解するだけでなく、油をどれだけ蓄積するかという「量」と、油がどのような脂肪酸で構成されるかという「質」の両方に関わっていることが示されました。
 本成果は、微細藻類から多くの油を得るとともに、用途に合う油を作るための手掛かりとなるもので、油脂を原料とする再生可能燃料やバイオ由来化学品の生産への応用が期待されます。

論文情報

● 論文題目:Identification and functional analysis of class 3 lipases associated with triacylglycerol metabolism in Nannochloropsis oceanica (Eustigmatophyceae)
● 著  者:Masako Iwai*, Koichi Hori, Tomokazu Kurita, Kumiko Okazaki, Shinichiro Maeda, Akihide Takami, Takashi Yamamoto, Atsushi Sakamoto, Hiroyuki Ohta, Mie Shimojima*(*責任著者)
● 掲 載 誌:Journal of Phycology
● URL:https://doi.org/10.1111/jpy.70203
● DOI番号:10.1111/jpy.70203

背景

 ナンノクロロプシスは、光合成によって二酸化炭素を固定しながら多量の油脂を生産できる微細藻類であり、カーボン・ニュートラル(※8)の観点から持続可能なバイオマス資源として注目されています。特に、細胞内に蓄積されるTAGは、バイオ燃料や化学品の原料として利用できることから、その生産量を高めるとともに、用途に適した脂肪酸組成を持つ油を生産することが重要な研究課題となっています。
 しかし、ナンノクロロプシスがどのような仕組みでTAGの蓄積量やその脂肪酸組成を調節しているかについては、十分には明らかになっていません。細胞内に蓄積されるTAGの「量」と「質」の調節には、その合成だけでなく、分解も重要な役割を担うと考えられます。ナンノクロロプシスには働きが未解明なリパーゼが多数存在しており、TAGの蓄積におけるこれらの酵素の役割も十分には分かっていません。

研究成果の内容

 細胞に蓄積したTAGの分解を抑えることができれば、油脂生産の向上につながると考えられます。そこで共同研究グループは、リパーゼに着目してナンノクロロプシスのゲノム解析(※9)を進めました。その結果、この微細藻類には、クラス3とよばれるグループに分類されるリパーゼだけでも23個存在することが明らかになりました。ナンノクロロプシスにおけるクラス3リパーゼの生理機能はほとんど知られていなかったため、これらをNo3LIP1~No3LIP23と名付け、油の蓄積における役割を解析しました。
 その結果、油の蓄積を誘導するリン欠乏条件下では、No3LIP6またはNo3LIP14を遺伝子ノックアウトした株で、通常の株よりもTAGの蓄積量が増加することが明らかになりました。さらに興味深いことに、これらの遺伝子をノックアウトした株では、TAGの蓄積が増加するだけでなく、その脂肪酸組成も変化しました。すなわち、No3LIP6を働かなくすると炭素数16や18の一価不飽和脂肪酸(※10)の割合が、No3LIP14を働かなくすると同様の炭素数を持つ飽和脂肪酸(※10)の割合が、それぞれ増加しました。以上の結果から、ナンノクロロプシスのクラス3リパーゼは、単に油脂の分解に関わるだけでなく、油脂の蓄積量、さらには油脂の性質を左右する脂肪酸組成の調節にも関わることが示されました。
 ナンノクロロプシスが蓄積するTAGの主要な構成成分である炭素数16や18の脂肪酸は、食品・日用品から工業化学品まで幅広く利用される重要な原料です。近年は、持続可能な航空燃料(SAF;※11)をはじめとする次世代燃料の原料としても注目されています。本研究で得られた知見は、こうした幅広い用途を持つ油脂の生産に微細藻類を活用するための基盤となり、再生可能燃料や化学品、機能性油脂などの分野への展開を後押しすることが期待されます。

今後の展開

 共同研究グループは、ナンノクロロプシスをはじめとする微細藻類の代謝工学研究をさらに推進します。今後は、高油脂生産株の開発や油脂品質制御技術の高度化を進め、バイオ燃料、バイオ由来化学品および機能性素材分野への展開を目指します。
 

研究支援

 本研究は、科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)および共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の支援を受けて実施されました。

参考資料

用語解説

※1 微細藻類:肉眼では認識できない微小な光合成生物で、多くは水中で植物プランクトンとして生活する単細胞生物。
※2 ナンノクロロプシス:2〜5μm(1μmは1mmの千分の一)程度のサイズの海洋性微細藻類で、光合成によって多量の油脂を生産するため、バイオ燃料生産への利用が注目されている。タンパク質や栄養素も豊富で、食品やサプリメント、医薬品への応用も期待されている。
※3 脂肪酸組成:油の性質や生物における働きを決める極めて重要な要因の一つで、燃料や食品としての特性、さらには健康への影響などに密接に関わる。
※4 リパーゼ:油を分解する酵素で、構造や作用する基質に応じてさまざまな種類に分類される。植物は、細菌や動物と比べて多くの種類のリパーゼを持つことが知られている。
※5 トリアシルグリセロール(TAG):生物がエネルギーを効率的に貯蔵するための油脂の主成分で、グリセロールに三つの脂肪酸が結合した構造を持つ。比較的容易に燃料に変換できるため、再生可能なバイオ燃料の原料として注目されている。
※6 遺伝子ノックアウト:遺伝子の働きを失わせること、またはその操作。
※7 リン栄養:リンは植物をはじめとする光合成生物にとって三大栄養素の一つ。リン欠乏は、微細藻類において油の蓄積を誘導する培養条件として用いられる。
※8 カーボンニュートラル:主として化石燃料の利用などによるCO2の排出量を、その吸収や固定によって相殺し、実質的な排出量をゼロにするという考え方。光合成は大気中のCO2を吸収・固定する有力な手段。
※9 ゲノム解析:生物が持つDNAの全塩基配列を読み取り、その情報をもとに遺伝子の種類や機能などを明らかにすること。
※10 一価不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸:炭素間の二重結合を持つ脂肪酸を不飽和脂肪酸とよび、二重結合を一つだけ持つものを一価不飽和脂肪酸という。代表的なものにオレイン酸がある。一方、二重結合を持たないものを飽和脂肪酸とよび、パルミチン酸やステアリン酸がある。
※11 持続可能な航空燃料(SAF):廃食油やバイオマスなど、化石資源以外の原料から製造され、航空分野における温室効果ガス排出量の削減に役立つ燃料。

【お問い合わせ先】

株式会社ファイトリピッド・テクノロジーズ 岩井 雅子
E-mail:iwai.m*phytolipidtech.co.jp

東京科学大学 生命理工学院 下嶋 美恵
E-mail:shimojima.m.28f8*m.isct.ac.jp

広島大学 大学院統合生命科学研究科 坂本 敦
E-mail:ahkkao*hiroshima-u.ac.jp

〈報道に関すること〉
広島大学 広報グループ
Tel:082-424-4383
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp


 (*は半角@に置き換えてください)


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