• ホームHome
  • 【研究成果】ニホンアマガエルは海を超えて大陸へ!東西2系統で北上 〜対馬と津軽海峡を渡った唯一の両生類〜

【研究成果】ニホンアマガエルは海を超えて大陸へ!東西2系統で北上 〜対馬と津軽海峡を渡った唯一の両生類〜

本研究成果のポイント

  • 日本列島を含む北東アジアに広く分布するニホンアマガエルは、日本列島で東西2つの系統に分かれ、それぞれが海を越えて北上し、分布を拡大したことが明らかになりました。
  • 東の系統は津軽海峡を渡り、北海道からサハリンまで分布を拡大しました。津軽海峡を越えて本州と北海道の両方に分布する両生類は、ニホンアマガエルが日本で唯一です。
  • 西の系統は対馬海峡と朝鮮海峡を越え、朝鮮半島から中国、モンゴル、ロシアへと分布を拡大しました。
  • 日本列島を起点として、東西2つの系統がそれぞれ海を越えて北上したという、北東アジアの両生類ではこれまで知られていなかった分布形成の歴史を明らかにしました。

概要

 広島大学理学研究科の檜垣友哉(研究当時 博士課程前期2年生、現在、株式会社荒谷建設コンサルタント)と両生類研究センターの三浦郁夫研究員(客員教授)、同総合博物館の清水則雄准教授、筑波大学大学院の鎗田めぐ(現: 和歌山県立自然博物館)、および国内外7つの機関(横浜市繁殖センター、東山動物園、屋久島植物技術研究所、豪州キャンベラ大学、フランス国立自然史博物館、韓国梨花女子大学、中国京林業大学)の研究者が協力し、日本を含む5カ国に広く分布するニホンアマガエルについて、その生物地理(※1)が形成された歴史を解明しました。およそ820万年前、大陸の近縁種から分岐し、日本列島に誕生したニホンアマガエルは、520万年前に近畿地方で東西2つの系統に分かれ、それぞれが分布を広げました。
 2つの系統の境界領域では雑種の拡大が強く抑制されつつ、東の系統は北上して津軽海峡を越え、さらに宗谷海峡を超えてサハリン(ロシア)に到達しました。一方、西の系統は3つに分岐し、その一つが対馬海峡と朝鮮海峡を超えて朝鮮半島から大陸に到達し、中国からモンゴル、ロシアへと分布を大きく拡大しました。日本列島を発進源として海を渡って二元的に北上し、大陸に到達して分布を拡大した両生類は、北東アジアでは初めての発見となります(図1)。
 日本列島から大陸へ分布を広げた動物としては、鳥類やコウモリ類、飛翔能力を持つ昆虫類などが知られていますが、ニホンアマガエルは空を飛ぶことができず、海水の塩分が致命的に作用します。そのような両生類が複数の海峡を越え、日本列島から北東アジア大陸へ長距離移動したことを示す本研究成果は、極めて異例です。津軽海峡を渡り、本州と北海道の両方に分布を広げた両生類はニホンアマガエルが唯一となります。さらに、本研究は、かつて、西日本の広範囲に渡って地域集団が消滅した時期があったこと、ニホンアマガエルの性決定様式は、これまでの70年間、ヒトと同様のXX-XY型(※2)と信じられてきましたが、鳥型のZZ-ZW型(※3)であることを明らかにしました。
 本成果は、ニホンアマガエルの生物学的特徴を一新したことに加え、日本と北東アジアに生息する両生類の生物地理学的常識を大きく変える発見となりました。

 本研究成果は、2026年9月24日午後6時(英国午前10時)に「Scientific Reports」に掲載されました。

発表論文

論文タイトル
Dual northward overseas radiation from Japanese islands shaped the phylogeography of North-East Asian tree frog

著者
檜垣友哉1, Foyez Shams2, 鎗田めぐ3, 尾形光昭4, 藤谷武史5, Amaël Borzée6, Yikweon Jang7, Christophe Dufresnes8, 小西祐伸9, 清水則雄10, Tariq Ezaz2, 三浦郁夫11*

1 広島大学理学研究科
2 豪州キャンベラ大学
3 筑波大学大学院生命環境群
4 横浜市繁殖センター
5 東山動物園
6 中国京林業大学
7 韓国梨花女子大学
8 フランス国立自然史博物館
9 屋久島植物技術研究所
10 広島大学総合博物館
11 広島大学両生類研究センター
*責任著者

掲載雑誌
Scientific Reports
DOI番号:10.1038/s41598-026-69101-5

背景

 ニホンアマガエル(Dryophytes japonicus)は、西南諸島を除いた日本全土に分布する両生類です。さらに、大陸の4カ国(韓国、中国、ロシア、モンゴル)にまで広く分布しています(図2)。1つの種が北東アジアでこれほど広く分布するケースは珍しく、現在の生物地理が形成された歴史は不明のままでした。また、2016年、私たちは本種が中央日本を境に東西2つの系統に大きく分かれることを明らかにしました (※4)。しかし、両者の間に生殖隔離(※5)があるのかどうかは不明でした。そこで今回、ミトコンドリア遺伝子と核ゲノムを網羅的に解析し、さらに交配実験と野外調査によって東西2つの系統間の生殖隔離を調べて、北東アジア全体においてニホンアマガエルの生物地理がどのように形成されたのか、その歴史の解明に取り組みました。

研究成果の内容

 日本と韓国の合計100地点に生息するニホンアマガエルについて、ミトコンドリアの2つの遺伝子(チトクロームbと16S rRNA)を調べ、すでに公表された他国集団の配列も参考にしながら、地域集団の系統関係を明らかにしました(図2)。その結果、近畿地方を境に東西2つのグループが大きく分かれ、東は中部、関東、東北・北海道からサハリンまで、西は中四国、九州、韓国から中国大陸の集団を含みました。さらに、東西それぞれが3つのサブグループに分かれました(図3)。分岐年代は、ニホンアマガエルの誕生が820万年前、東西の分岐が520万年前と推定されました。核ゲノムの1塩基多型(SNP)(※6)の解析も同様、東西2つのグループを確認しました(図4)。以上から、ニホンアマガエルは、東西2つの系統が海を渡り、北方へと展開して分布を広めたと結論しました。特に、100〜250万年前の間に津軽海峡を渡って分布を広げた国内唯一の両生類であることが確かめられました。一方、東西の系統を人為的に交配した結果、雑種は成長して成熟し、しかも正常に子供を残すことがわかりました。つまり、室内の実験では、両者間に生殖隔離が存在しないことが判明しました。ところが、東西の境界線をはさむ14km内の筆頭集団を詳細に解析した結果、雑種は存在するものの、交雑地帯が東西に6.2kmと非常に狭く、雑種の拡大が著しく抑制されていることがわかりました。この他に、性を決定する仕組みが、過去70年に渡ってヒトと同様のXX-XY型と信じられていましたが、今回、それとは異なり、鳥型のZZ-ZW型であることが強く示唆されました。以上のように、ニホンアマガエルの生物学的特徴を一新したことに加え、日本と北東アジアに生息する他の両生類に比べて、その生物地理形成の歴史が極めてユニークであり、従来の生物地理学の常識を大きく変える発見となりました。

今後の展開

 今後の展開として期待されることは、第一にどのようにして海を渡ったのか、その仕組みの解明です。他の両生類と同様、塩分が致死的に作用することがわかっていますので、土や草木の複合体から成る微小な島に乗って海を渡ったモデルが有力です。事実、ニホンアマガエルは海岸の水たまり(淡水)で繁殖しているため、海へ繰り出す機会が他種より圧倒的に多いことが予想されます。一方、東西の2つの系統については、境界線付近でどのように交配が制限され、いかにして雑種の拡大を防いでいるのか。その行動生態学的な研究が期待されます。なお、東の系統は現在、ヒガシニホンアマガエルと命名されています(Shimada et al., 2025)(※7)。

参考資料

図1 ニホンアマガエルの生物地理形成の歴史 (写真、関慎太郎)

図2 今回調査した100地点
左上の図は大陸、右下は近畿地方の拡大図。東西2つのグループの境界を実線で、サブグループの境界を点線で示す。

図3 ミトコンドリア遺伝子に基づく系統樹
チトクロームbの配列に基づと、東西2つのグループに分かれる(A)、さらにそれぞれが3つのサブグループに分かれる(B)。もう一つの遺伝子(16S rRNA)も同様の結果を示す(C)。

図4 核ゲノムの解析
SNP配列に基づくSTRUCTURE マップ(A)、無根系統樹(B), PCAプロット(C)。ハイブリッドゾーンにおいて東西が遺伝的に連続している一方、その傾きは非常にシャープである(=交雑地帯が狭い)。

用語解説

(※1) 生物地理
地球上の動植物など生物の地理的な分布

(※2) XX-XY型
メスがXXの性染色体を持ち、オスがXYの性染色体を持つ、ヒトを含む多くの哺乳類などに見られる性決定様式(雄ヘテロ型)

(※3) ZZ-ZW型
オスが同じ性染色体(ZZ)を持ち、メスが異なる性染色体(ZW)を持つ、鳥などに見られる性決定様式(メスヘテロ型)

(※4) Dufresnes C et al. (2016) BMC Evol Biol 16: 253. DOI:10.1186/s12862-016-0814-x

(※5) 生殖隔離
異なる生物の集団間で交配が行われない、または交配しても子どもや生殖能力を持つ子が育たない仕組み

(※6) SNP
1塩基多型。DNA配列を構成する1つの塩基(ヌクレオチド)が置き換わる現象。

(※7) Shimada et al. (2025) Zootaxa 5590 (1): 61–84.

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学 両生類研究センター 研究員(客員教授) 三浦郁夫
Tel:082-424-7323 FAX:082-424-0739
E-mail:imiura*hiroshima-u.ac.jp

<広報に関すること>
広島大学 広報グループ
Tel:082-424-4383 FAX:082-424-6040
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp
 

(*は半角@に置き換えてください)


up