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【研究成果】口やのどのがんが免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを解明 〜がんの増殖を促すYAP/TAZが、免疫のブレーキ役PD-L2を増やす〜

本研究成果のポイント

  1.  口やのどなどにできるがんで、細胞の増殖に関わるタンパク質「YAP/TAZ」(※1)が核内に移行して過剰に遺伝子の発現を促進すると、免疫細胞の攻撃にブレーキをかけるタンパク質「PD-L2」(※2)が増えることを明らかにしました。
  2.  YAP/TAZが過剰に働いたがん細胞は、遺伝情報に異常が生じ、異常なタンパク質が増えることで免疫細胞に見つかりやすくなる一方、PD-L2を増やして免疫細胞の攻撃を抑えていることが分かりました。
  3.  この仕組みの解明は、免疫を利用したがん治療が効きやすい患者さんを見分ける方法や、がんの増殖と免疫からの逃避を同時に抑える治療法の開発につながると期待されます。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科の安藤俊範教授の率いる研究グループ(*)は、口腔・頭頸部がんなどにおいて、がん遺伝子のYAP/TAZが免疫のブレーキ役である「PD-L2」を強力に誘導し、がん細胞が免疫細胞からの攻撃を回避する新たなメカニズムを解明しました。
 がん細胞の免疫回避を抑える「免疫チェックポイント阻害薬」は、その効果が一部の患者に限られることが課題です。本研究成果により、YAP/TAZの働きを指標として同阻害薬の効きやすさ(感受性)を予測する精密医療や、YAP/TAZを標的として「がんの増殖」と「免疫回避」を同時に抑える新規治療薬の開発への応用が期待されます。
 (*)本学医系科学研究科 口腔腫瘍制御学 柳本惣市 教授、本学医系科学研究科 口腔顎顔面病理病態学 宮内睦美 名誉教授、本学病院口腔検査センター 加治屋幹人 教授、米国国立衛生研究所(NIH)国立がん研究所Ramiro Iglesias-Bartolome上席研究員、カリフォルニア大学サンディエゴ校のJ Silvio Guktind教授との国際共同研究

 本研究の成果は、英国時間の2026月10月23日午前10時(日本時間2026年10月23日午後7時)に「Communications Biology」オンライン版(Springer Nature Group)に掲載されました。

発表論文

論文タイトル
Dysregulation of the Hippo pathway enhances PD-L2 transcription to promote immune evasion in Head and Neck Squamous Cell Carcinoma

著者
Toshinori Ando1,*, Kento Okamoto2, Kuniaki Sato3, Yusuke Goto4, Hiroki Izumi5, Nanako Kataoka1,6, Yume Ueda2, Yukina Kobayashi1,6, Kai Omachi2, Yuga Maeda2, Hisako Furusho1, Ramiro Iglesias-Bartolome7, Tetsuya Yoshimoto6, Tomoaki Shintani6, Souichi Yanamoto2, Mutsumi Miyauchi1, J Silvio Gutkind3,8, and Mikihito Kajiya6

1. Department of Oral and Maxillofacial Pathobiology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima 734-8553, Japan 
2. Department of Oral Oncology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima 734-8553, Japan
3. Moores Cancer Center, University of California, San Diego, La Jolla, CA, USA
4. Department of Urology, Chiba University Graduate School of Medicine, Chiba, Japan
5. Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan
6. Center of Oral Clinical Examination, Hiroshima University Hospital, Hiroshima 734-8551, Japan
7. Laboratory of Cellular and Molecular Biology, Center for Cancer Research, National Cancer Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA 
8. Department of Pharmacology, University of California, San Diego, La Jolla, CA, USA
*Corresponding author

掲載雑誌
Communications Biology (Springer Nature Group)(Q1)

DOI番号
10.1038/s42003-026-11092-0
 

背景

 近年、がん細胞に対する免疫のブレーキを解除する「免疫チェックポイント阻害薬」が革新的な治療法として普及していますが、その効果が見られる患者さんは一部に限られていることが課題となっています。特に、口の中や咽頭などに発生する「口腔・頭頸部扁平上皮癌」(※3)は難治性のがんとして知られ、がん遺伝子「YAP/TAZ(ヤップ/タズ)」が細胞質から核内へ移行し、過剰に遺伝子の発現を促進する異常が高頻度に見られます。YAP/TAZはがん細胞の増殖を加速させることが知られていましたが、免疫細胞からの攻撃を免れる「免疫回避」にどのように関与しているか、また代表的な免疫抑制分子PD-L1以外の因子である「PD-L2」との関係については十分に解明されていませんでした。

研究成果の内容

 本研究グループは、YAP/TAZの過剰な活性化が、がん細胞の遺伝子異常(ゲノム不安定性)(※4)を引き起こす一方で、免疫チェックポイント分子である「PD-L2」の発現を直接的に高めていることを突き止めました。
 メカニズムの解析により、活性化したYAP/TAZは転写因子群(TEADやBRD4など)と複合体を形成し、PD-L2の遺伝子領域に結合してその合成を強力に促していることが判明しました。これにより、YAP/TAZが活性化した口腔・頭頸部扁平上皮癌細胞は、遺伝子の異常が多いため免疫細胞(T細胞)から攻撃対象として見つかりやすい状態でありながら、自らPD-L2を発現させて免疫細胞にブレーキをかけ、攻撃を免れている(免疫回避している)という実態が明らかになりました。すなわち、このPD-L2によるブレーキを適切に解除できれば、YAP/TAZが活性化した癌に対して高い治療効果が得られる可能性が示されました。

従来の研究との違い

 従来、YAP/TAZについては、がん細胞の増殖を促す働きが知られていました。
 今回の研究では、YAP/TAZがPD-L2を増やし、免疫細胞の攻撃を抑える仕組みを明らかにしました。がん細胞の「増殖」と「免疫細胞の攻撃から逃れる働き」を結び付ける仕組みを示した点が今回の成果です。

今後の展開

 本研究の成果により、YAP/TAZの活性化状態やPD-L2の発現量をあらかじめ測定することで、現行の免疫チェックポイント阻害薬が効きやすい患者さんを適切に見極める「精密医療(プレシジョン・メディシン)」の実現が期待されます。
 さらに、YAP/TAZおよびその複合体を標的とした新たな阻害薬の開発を進めることで、がん細胞の「増殖」と「免疫回避」の両方を同時に抑制する、口腔がんをはじめとした難治性がんに対する新薬・治療法の創出を目指します。

参考資料

図1:がん細胞におけるYAP/TAZの異常な活性化が、TEAD/BRD4とともにスーパーエンハンサー(※5)を形成し、PD-L2の転写を促す。PD-L2は免疫細胞(細胞障害性T細胞)を不活性化しているため、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)への感受性が高くなっている。

用語解説

※1. YAP/TAZ(ヤップ/タズ)
 細胞の増殖や組織・臓器の大きさを制御する「Hippo(ヒッポ)シグナル経路」の下
 流で働くタンパク質(がん遺伝子)。異常に活性化すると、脱リン酸化されて核内へと移行し、遺伝子の発現(タンパク質の合成指令)を過剰に促進します。がんの発生や増殖、悪性化を促進します。

※2. PD-L2(Programmed Cell Death Ligand 2)
 がん細胞や免疫細胞の表面に存在するタンパク質。免疫細胞(T細胞)の表面にあるPD-1受容体に結合することで、T細胞の攻撃にブレーキをかけ、がん細胞が免疫から逃れる手助けをします。

※3. 口腔・頭頸部扁平上皮癌(こうくう・とうけいぶへんぺいじょうひがん)
 舌、歯肉、口底などの「口腔」や、さらに咽頭、喉頭などまで含めた「頭頸部」の粘膜から発生するがんの総称。口腔・頭頸部領域に発生する悪性腫瘍の大部分を占めます。

※4. ゲノム不安定性
 DNAの損傷や染色体の構造異常が蓄積しやすい状態のこと。がん細胞の特徴の一つであり、異常なタンパク質が増えることで免疫細胞に捉えられやすくなる一方、がんの悪性化にも関与します。

※5. スーパーエンハンサー
 ゲノム(DNA)上で、特定の遺伝子の働き(転写)を爆発的に高める強力なスイッチのような領域のこと。本研究では、YAP/TAZなどがこの領域に結合することで、PD-L2が異常に多く作られることが分かりました。
 

研究支援

 本研究は、科研費(JP24K02645, JP20K18477, JP22H03275)、日本学術振興会のJ-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業)(JPJS00420230011)、広島大学基金「のぞみH基金」がん医療研究推進助成金、JST HIRAKU-Global programの支援を受けて実施されました。また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。

※ J-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業):地域の中核大学や研究の特定分野に強みを持つ大学が、その強みや特色のある研究力を核とした戦略的経営の下、他大学との連携等を図りつつ、研究活動の国際展開や社会実装の加速等により研究力強化を図る環境整備を支援することにより、我が国全体の研究力の発展を牽引する研究大学群の形成を推進することを目的としています。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 口腔顎顔面病理病態学 
教授 安藤 俊範
Tel:082-257-5631
E-mail:toando19*hiroshima-u.ac.jp


 (*は半角@に置き換えてください)


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