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【研究成果】妊娠中のDHA摂取により子どもの熱性けいれんを予防できる可能性 -鍵は脳内で増える女性ホルモン―

本研究成果のポイント

  • 熱性けいれん(発熱に伴って起こすけいれん)(※1)を起こした子どもの血清中を調べたところ、DHA(※2)とエストラジオール(※3)濃度が、熱性けいれんを起こしていない子どもの半分程度であることが分かりました。
  • 妊娠期にドコサヘキサエン酸(DHA)(青魚などに多く含まれる栄養成分)を摂取すると、出生直後の子マウスの脳内で女性ホルモンであるエストラジオールが増加し、熱性けいれんが起こりにくくなる(発症までの時間が延び、より高い体温まで発症しない)ことを、マウスを用いた研究により明らかにしました。
  • 脳内のエストラジオールは、脳の炎症を弱め、熱性けいれんの予防にはたらくことが分かりました。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科 石原康宏教授と北九州総合病院小児科 石井雅宏医師らの研究グループは、妊娠期のDHA摂取により子どもの熱性けいれんや成長後てんかん(※4)が予防できる可能性を、マウスモデルおよびヒト検体を用いて示しました。妊娠期にマウスにDHAを摂取させると、出生直後の子マウスの脳内でエストラジオールが増加し、熱性けいれんの潜時(発熱からけいれん発症までに要する時間)が延長しました。さらに、成長後のけいれんの起こりやすさも軽減されました。エストラジオールの増加を薬理学的手法で抑制すると、これらの効果は失われました。熱性けいれんを起こした子どもの血清中DHAとエストラジオール濃度は、起こしていない子どもの濃度と比較して、半程度であることが分かりました。したがって、妊娠期にDHAを摂取すると、子どもの脳内でエストラジオールが増加し、結果として熱性けいれんや成長後てんかんの発症を抑制すると考えられます。本研究により、妊娠期DHA摂取の児の健やかな成長における重要性が明らかになりました。
 本研究は、2026年9月4日にElsevier出版による国際学術誌「The Journal of Nutritional Biochemistry」に掲載されました。論文掲載に際して、広島大学から論文掲載料の助成を受けました。

発表論文

論文タイトル:Effects of maternal docosahexaenoic acid intake on febrile seizures and increased seizure susceptibility after febrile seizures: Study using mouse models and human samples
著者:Masahiro Ishii, Tatsuto Nakane, Shinji Kawano, Iroha Okuda, Ayako Senju, Shunsuke Araki, Kouichi Itoh, Takashi Tominaga, Tomohiro Yonezawa, Mayumi Tsuji, Yasuhiro Ishihara.
掲載雑誌:The Journal of Nutritional Biochemistry. 159:110499, 2026..
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jnutbio.2026.110499.
 

背景

 熱性けいれん(ひきつけ)は、生後6か月から5歳ごろの子どもが発熱時に起こすもので、決して珍しいものではありません。多くは短時間で治まりますが、けいれんが長引いたり短期間に繰り返したりする「複雑型」の場合、その後にてんかんを発症するリスクが高まることが知られています。ある調査では、複雑型を経験した子どもの2割あまりが後にてんかんを発症したと報告されています。一方、青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)は脳に豊富に存在し、脳の発達や炎症の抑制に関わる重要な成分です。研究グループはこれまでに、DHAが脳内でエストラジオール(女性ホルモンの一種)の合成を高めることを見いだしてきましたが、妊娠中のDHA摂取が子どもの熱性けいれんにどう影響するかは分かっていませんでした。

研究成果の内容

 研究グループは、妊娠中のマウスにDHAを多く含む餌を与え、生まれた仔マウスを調べました。その結果、仔の大脳皮質でDHAとエストラジオールがともに増加し、熱性けいれんが起こるまでの時間が長くなり、より高い体温になるまでけいれんが起きにくくなりました。エストラジオールの合成を阻害する薬を使うとこの効果は消えたことから、DHAではなく「DHAによって増えたエストラジオール」が効いていることが分かりました。さらに、けいれん後に脳内で起こる炎症(免疫細胞ミクログリアの活性化や炎症性物質IL-1βの増加)もDHAによって抑えられ、成長後のけいれんの起こりやすさまで軽減されました。熱性けいれんを起こした子ども15人の血液でも、血中DHAとエストラジオールがともに低く、エストラジオールが低いほど炎症性物質IL-1βが高いという関係が見られました。

今後の展開

 本研究は、妊娠中の栄養が子どもの脳を「けいれんが起きにくい状態」に整える可能性を示すとともに、その鍵がエストラジオールであることを明らかにしました。熱性けいれんや熱性けいれん後のてんかん発症を防ぐ新しい予防法につながると期待されます。ただし、今回マウスに与えた量はヒトに換算すると1日約3グラムに相当し、妊娠中の一般的な推奨量(1日200ミリグラム程度)よりかなり多い量です。また、ヒトでの検討は少人数での調査であり、DHAの不足が熱性けいれんの原因であると完全に結論づけられるものではありません。どのくらいの量を、いつから摂るのが最適なのか、今後の研究で明らかにしていく必要があります。

用語解説

※1 熱性けいれん
 生後6か月から5歳ごろの子どもが、髄膜炎などの中枢神経の感染症がないのに、発熱にともなって起こすけいれん(ひきつけ)。短時間で治まる「単純型」が大半だが、長引いたり24時間以内に繰り返したりする「複雑型」では、後にてんかんを発症するリスクが高まることが知られている。

※2 ドコサヘキサエン酸(DHA)
 サバやイワシなどの青魚に多く含まれるオメガ3系の脂肪酸。体内ではほとんど作れないため食事から摂る必要があり、脳に特に多く存在して、神経の働きや脳の発達を支えている。

※3 エストラジオール
 女性ホルモン(エストロゲン)の一種。卵巣だけでなく脳の中でも作られ、男女を問わず神経を保護したり炎症を抑えたりする働きを持つ。

※4 てんかん
 脳の神経細胞が過剰に興奮することで、けいれんや意識の途切れなどの発作を繰り返し起こす病気。発熱などのきっかけがなくても発作が起こる点で、熱性けいれんとは区別される。

※5 ミクログリア
 脳の中で免疫を担う細胞。異常を感知すると活性化してIL-1βなどの炎症物質を放出し、過剰になると神経に悪影響を及ぼす。

【お問い合わせ先】

大学院統合生命科学研究科 生体機能化学研究室 石原 康宏
Tel:082-424-6529
E-mail:ishiyasu*hiroshima-u.ac.jp


 (*は半角@に置き換えてください)


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