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論文題目:Non-peroxisomal allantoin biosynthesis reveals unexpected flexibility in plant purine catabolism
著 者:Yuta Takeuchi、Tamio Sumida、Hiroshi Shimada、Atsushi Sakamoto*(*責任著者)
掲 載 誌:The Plant Journal
DOI番号:10.1111/tpj.71178
広島大学大学院統合生命科学研究科の大学院生(当時 博士課程後期)竹内 優太氏ら、坂本 敦教授の研究グループは、植物において、窒素栄養の再利用やストレスへの応答に関わる物質「アラントイン(※1)」が、これまでその生成場所と考えられてきたペルオキシソーム(※2)だけでなく、細胞質(※3)でも作られることを明らかにしました。
細胞内では、多くの代謝反応がそれぞれ決まった場所で行われています。アラントインも、動植物を通じてペルオキシソームで作られると考えられてきました。本研究では、アラントインを作る酵素(ALNS)が細胞内のどこに存在するかを、植物の進化との関係から調べました。その結果、コケ植物やシダ植物の中に、ALNSを細胞質にしか持たない種が存在することを発見しました。さらに、シロイヌナズナを用いた実験により、細胞質にあるALNSだけでも正常にアラントインを生成でき、植物の生育や環境ストレス(※4)への応答にも役立つことを実証しました。
今回の発見は、動植物を通じて広く受け入れられてきた、代謝が行われる細胞内の場所についての従来の理解に見直しを迫る成果です。また、植物が進化の過程で、アラントインを作る細胞内の場所を増やす柔軟性を獲得し、環境の変化に適応してきた可能性を示しています。
本研究成果は、国際学術雑誌『The Plant Journal』に2026年10月23日付けでオンライン公開されました。
植物や動物の細胞の中には、生体膜によって区画化された細胞小器官(※5)が存在し、光合成は葉緑体、酸素呼吸はミトコンドリアで行われるように、多くの代謝過程は決められた区画で進行します。多様な生化学反応が同時に進む細胞内において、この「区画化」は代謝を効率よく進めるために極めて重要で、多くの代謝経路が特定の細胞内区画に配置されているというのが、細胞生物学の基本的な考え方です。
DNAやRNAを構成するプリン塩基(※6)から生じる尿酸は、ヒトでは分解されず、過剰に蓄積すると痛風の原因になりますが、多くの哺乳類ではペルオキシソームという細胞小器官で無毒なアラントインに代謝され、老廃物として排泄されます。植物でも尿酸は同様にアラントインへと代謝されますが、アラントインは植物の三大栄養素の一つである窒素を多く含むため、体内で必要な栄養源として再利用されます。さらに最近では、環境ストレスへの適応や耐性にも関わることが報告されており、その生理的役割は動植物で大きく異なります。
植物におけるアラントインの生成はALNSが担い、この酵素はペルオキシソームに局在します。一方、陸上植物のうち、被子植物では選択的スプライシング(※7)によって、ペルオキシソームだけでなく細胞質にもALNSが存在することが知られていました。しかし、動植物を問わず、アラントインはペルオキシソームで生成すると長らく考えられてきたため、なぜ被子植物ではALNSが細胞質にも存在するのか、その生理的な意味は分かっていませんでした。
この謎を解き明かすために、まず植物の進化とALNSの細胞内での分布の関係を調べたところ、コケ植物やシダ植物の中に、ALNSを細胞質にしか持たない種が見つかりました(図1、図2)。これは「アラントイン生成=ペルオキシソーム」という通説と矛盾し、細胞質でもアラントインが作られている可能性を示します。
そこで次に、モデル植物であるシロイヌナズナのALNS遺伝子破壊株(※8)を用いて、ペルオキシソームまたは細胞質のどちらか一方にだけALNSを持つ植物を作製し、これらの植物におけるアラントインの生成とその生理的な働きを調べました。その結果、驚くべきことに、細胞質にしかALNSを持たない植物でも、野生株やペルオキシソームにのみALNSを持つ植物と同様に正常なアラントイン代謝が行われ、遺伝子破壊株が示す生育不良やストレス応答の異常も克服されていることが明らかとなりました(図3)。
これらの研究成果は、被子植物ではアラントインの生成がペルオキシソームに限らず、細胞質でも起こっていることを示しています。また、コケ植物やシダ植物で見つかった、ALNSを細胞質にしか持たない植物種では、アラントインがペルオキシソームではなく細胞質で生成されていることも強く支持します。さらに、現生陸上植物の全種数の約9割を占める被子植物が、進化の過程でペルオキシソームと細胞質の両方にALNSを持つに至った理由の一つとして、アラントインを生成できる細胞内区画の拡張が、窒素栄養の再利用や環境変動への適応を高め、生存戦略上有利に働いたことが示唆されます。
本成果は、植物の代謝が持つ予想外の柔軟性を明らかにし、細胞内の特定の区画に限って起こると考えられてきた基本的な代謝反応について、動植物を通じて広く受け入れられてきた従来の理解に見直しを迫る発見といえます。
アラントインは近年、植物の環境ストレス応答に関わる物質として注目されています。このような物質を生成する細胞内区画の拡張に秘められた進化的意義を解明することで、動けない植物が環境の変化に適応して生き残る基本原理を明らかにするとともに、作物の分子育種や農業生産性の向上に役立つ知見を集積していきます。
本研究の一部は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(科研費)の支援を受けて実施されました。また、本研究に参加した大学院生は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)の支援を受けました。
※1:アラントイン:自然界では尿酸の代謝で生じる有機窒素化合物で、微生物から動植物まで広く存在する。ダイズでは、根粒菌との共生によって固定された大気中の窒素を地上部へ運ぶ主要な化合物の一つでもある。皮膚や粘膜の保護、組織の修復を助ける成分としても知られ、スキンケア化粧品や目薬、軟膏などにも利用されている。
※2:ペルオキシソーム:細胞内に存在する膜で囲まれた小さな構造体の一つで、脂肪酸の分解や有害な活性酸素の除去をはじめ、さまざまな代謝反応が行われる。過酸化水素(hydrogen peroxide)の生成や分解に関わる酵素系を含むことが、この細胞小器官の命名の由来となった。
※3:細胞質:細胞膜の内側で、細胞核を除いた領域。ここでは、ミトコンドリアやペルオキシソームなどの構造体も除いた部分(厳密には「細胞質基質」)を指す。タンパク質合成や解糖系など、多様な生化学反応が行われる。
※4:環境ストレス:生物の生育や生存に悪影響を及ぼす環境条件やそのような環境変化。植物では、乾燥、高温、低温、塩分濃度の上昇などが代表例。
※5:細胞小器官:細胞の内部で特定の機能を担う構造体の総称。ミトコンドリアや葉緑体、ペルオキシソームなど、膜で囲まれた構造体が代表例。
※6:プリン塩基:DNAやRNAを構成する塩基のうち、アデニンとグアニンの総称。
分解されると尿酸を生じ、植物ではさらにアラントインを経てアンモニアが生成され、窒素栄養として再利用される。
※7:選択的スプライシング:DNA上の1つの遺伝子から作られたRNAの一部を異なる組み合わせでつなぎ合わせることで、複数種類のタンパク質を作り出す仕組み。遺伝子の働きを多様化させる重要な役割を担う。
※8:遺伝子破壊株:特定の遺伝子の働きを失わせた植物。遺伝子を破壊していない通常の植物(野生株)との比較により、その遺伝子が担う役割を調べることができる。
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掲載日 : 2026年11月05日
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