第9回 皮 冠一(ヒ カンイチ)さん(中国)

「僕自身の幅が広がったような気がします」

名前:皮 冠一(ヒ カンイチ)
年齢:23
国籍:中国
専門:比較日本文化 (文学研究科)
趣味:音楽、映画、スポーツ観戦、ショッピング、旅行

『留学生インタビュー』バックナンバー

今回の留学生インタビューは、中国出身の大学院生・皮冠一(ヒ・カンイチ)さんです。皮さんは本国で日本語と文化を勉強し、前にも一度、大学3年生の時に日本に交換留学生として来たことがあります。日本の文化、特に日本語に魅せられ、珍しい分野で研究を続けています。授業にアルバイト、友人たちとの付き合いに日々忙しくしている彼は、活動的な留学生の良い例です。では、皮さんのキャンパスライフと普段の生活を詳しくご紹介しましょう!

今日はインタビューをさせて頂き、誠にありがとうございます。では早速、日本に来た理由とは?

大学3年生の時、交換留学生として来日しました。多くの人と話をしたり、外出したり、旅行する機会がありました。沢山の友達も出来て、日本に興味を持つようになりました。

4年生になって中国に帰国し、湖南大学で勉強を再開しましたが、中国の就職市場が芳しくなく、自分もすぐには職に就きたくありませんでした。それにもっと勉強を継続したい気持ちもあって、来日しました。

なるほど。では広島大学を選んだ理由は何ですか?

広大とは縁があると感じています。実は、広大の創立記念日(11月5日)は、僕の誕生日なんです!大学カレンダーでそれを知った時は、本当に驚きました!

ほかにも広大とは深い縁があって——、僕は中国の重慶出身ですが、重慶は広島市と姉妹都市だったし、僕の卒業した湖南大学は、広大の協定校でした。それもあって卒業後、広大を選びました。

最初は広大に来るつもりではなかったのですが、入学試験に合格後、「静かな所で勉強するには最適かもしれない」と思い、広大に決めました。

すごい縁があるみたいですね!皮さんの故郷重慶と比べて、西条はどんな所ですか?

重慶は活気のある町で、どんどん発展しています。それと比べると、西条は本当に静かな所です。日本語でも「住めば都」というように、西条に来て半年が経ちますが、大分慣れてきました。

ただ、唯一慣れないのが、西条の冬です。本当に寒くて、風も強い。天候も劇的に変わりますよね(笑)!

西条の冬は厳しいですね(笑)。話が変わりますが、皮さんの研究テーマはなんですか?

僕の研究テーマは「魚」——、日本語の「サカナ」です。例えば、「サカナヘン」の漢字とか、「魚」と関係する諺や詩などです。でも、今のところは、日本の地図や地名を一生懸命調べています。「何でこの地名や単語に『魚』に関係した名前が付けられているのだろう?」とか。

「魚」ですか。どうして「魚」や「サカナヘン」の漢字に興味を持たれたのですか?

話は長くなりますが、湖南大学での僕の専攻は日本語でした。でも、大学に入るまで日本語に対する認識は殆どありませんでした。ただ、外国語には大変興味を持っていました。母が英語の教師をしていましたので、成長の過程で、その影響を受けてきたと思います。そういう理由もあって、湖南大学に入学した時、日本語をゼロから勉強し始めました。当時の先生が、「日本語には沢山の『サカナヘン』の漢字がある」と教えてくれました。どういうわけか、それが強く印象に残りました。

実際日本に来て買い物に出かけると、至る所に「サカナヘン」の漢字があることに気が付きました。それからです。サカナヘンの漢字に興味を持ち始めたのは。中国に戻ってからは、それを卒論のテーマにしました。そして、そのテーマに関する知識と理解を更に深めようと、再来日しました。

勿論、中国語にもサカナヘンの漢字は沢山あります。そのため、両国のサカンヘンの漢字について、実際に比較してみたいと思っています。例えば、中国語と日本語で同じ漢字がありますが、意味やニュアンスは微妙に違うこととか。
    
実は僕、魚が苦手なんです(笑)。でも、もし食べるとしたら、海の魚ですね。川や湖に生息する淡水魚は駄目です。食べることは苦手でも、勉強することは出来ます。

「例えば・・・」

面白いですね(笑)。広大に来てまだ半年しか経っていませんが、今の研究の中で一番「面白い!」と思ったことは何ですか?

今は研究より授業を中心に参加しています。授業のなかで興味深かったのが、井上ひさし著の「吉里吉里人」です。これは本当に面白い本で、日本の東北地方に住む「吉里吉里人」が日本から独立しようとした、たった2日間の物語です。

東北弁がふんだんに使用されていて、井上氏の発想には驚きます。この本は、今僕らが直面している難題の多くを解決してくれますよ。授業では、第4章から読み始めたのですが、物語の出だしや今後の展開が知りたくて、図書館で借りて読破しました(笑)。

他にも、文学研究科の授業は、全体的に面白いコースが沢山あります。例えば、共有文化演習Bという講義では、ビートルズの曲を聴きました。アルバムを聴いて好きな曲を選び、その歌詞を英語から日本語や母国語(中国語や韓国語など)に訳して授業で発表します。十人十色で、それぞれ歌詞の解釈が違うんですよ。勿論、これは僕の研究と直接関係はありませんが・・・。

『吉里吉里人』

楽しそうですね(笑)。楽しく勉強出来るのは一番ですね。では、授業以外には何か活動していますか?

課外活動のサークルなどには入っていません。スポーツ観戦は好きですが、参加するとなると、また別の話です。どうも運動神経はないようで・・・(笑)。

でも、アルバイトはしています。近くのスーパーでレジ係をしていて、仕事にいくと、よくお客さんに聴かれることがあります。「(僕の)名札の漢字はどう読むの?」って。そのおかげで、お客さんと話すようになり、とても楽しいです。「今日は何回名前のことを聞かれるかな?」と、想像しています。

上司や同僚もとても親切で、本当にいい仕事です。それにまだ実習生なので、お客さんが僕を励ましてくれます。「頑張ってね」って。

優しいですね! 皮さんは今、学生宿舎に住んでいますか?

その通りです。池の上学生宿舎に住んでいます。狭いですが、一人暮らしには十分です。キャンパスにも近いし、何より安い! 周りも静かで空気も澄んでいて、本当に良い所です。1年間の契約ですが、延長できればいいなぁと思っています。

寮にキッチンもありますが、正直、ほとんど外食です。昼には弁当やインスタントラーメンを食べ、夜は友達を呼んで近くのラーメン屋等に行きます。僕は大のラーメン党で、特に味噌ラーメンが好きです(笑)。もっと詳しく言うと、一番のお気に入りは、北海道の「すみれ」というお店のラーメンです(笑)。

3年生で来日した時には、東京のラーメン屋でアルバイトをしていました。働いていても、ラーメンが嫌になったりはしませんでした。その店では昼にラーメンとセットメニューを出していましたが、お客さんの多くが学生さんで、話す機会も沢山ありました。それで仕事が余計に楽しくなりました。一生懸命働いた結果、最終的にはお店を任されました!店や金庫の鍵を渡された時は、本当に驚きましたよ。

素晴らしいアルバイトでしたね(笑)。東京は西条とかなり違うでしょうが、どちらが好きですか?

前にも言ったように、「住めば都」です。今は西条が僕の家です。買い物に行きたい時は、市街も近いし、市内の広島銀行でインターンとして働くこともできました。そこで、各種研修を受けたり施設見学をしました。それまで、銀行というと窓口業務だけだと思っていましたが、他の業務を勉強して、余り知られていない別の顔を見ることが出来ました(銀行の大金庫とか、一億円の札束とか!)。かなり刺激的でしたけど!

コンピューターセンターなど、広島銀行の心臓部の見学もしましたよ。本当に、わくわくしました。巨大な部屋に何百ものコンピューターがあるのですが、スタッフは一人もいないのです。全コンピューターが自動的に動いていました。僕は文系の人間ですが、それらのコンピューターを見て、本当に感動するとともに驚きました。

また、銀行の行員さん達の親切さに感激しました。いつも笑顔を絶やさずに、僕と接してくれました。インターンシップは2月でしたが、どんなに外が寒かろうが、彼(彼女)らの笑顔をみるとすぐに暖かい気持ちになりました。

また、通貨やローンについても学びました。研修所では、口座を開設したり、書類を作成したり、銀行の送金業務を学んだり、本当によい経験になりました。インターンシップのおかげで、参加していた韓国人学生と友達になることができ、今では互いに中国語と韓国語を教え合っています(笑)。

「住めば都!」

忘れられない経験をしましたね!半年で、授業やアルバイト、更にはインターンシップ!本当に忙しいですね(笑)。ちょっと早いかもしれませんが、卒業後の予定はありますか?

研究を続けて、博士号をとりたいです。それから大学で日本語教師になりたいと思っています。とどのつまり日本語が専攻なので、人と交流するのが基本的に好きなんです。もし教師になったら、沢山の学生と交流できるかなぁと思って。僕にとっては、本当にそれが楽しいのです。

でも、先月のインターンシップのおかげで、少し理系に近い仕事を経験することが出来ました。僕にとって、これまでとは違う別の扉が開いたような気もします。金融や経済の知識がなくても、銀行に必要な仕事をすることができるということを学びました。僕にとっては、考えにも及ばなかった選択肢ですけど(笑)。

高校以来、ずっと文系の道を歩んできて、理系や数には本当に強くありません。知識がないのです。だから、将来は教師か公務員になりたいと思ってきました。でも、インターンシップは、他の道を開いてくれました。一番驚いたのは、行員の多くが文学部や法学部などの出身で、経済学部出身ではないことです。彼(彼女)らは、ゼロから学び、環境に適応しながら毎日一生懸命に働いています。

それで、僕ももう少し広い範囲で活躍できるかもしれないと思いました。文系の限られた範囲ではなく・・ね。僕自身の幅が広がったような気がします。

「僕自身の幅が広がったような気がします」

素晴らしい経験でしたね。最後になりますが、「広島大学で勉強したい」という学生さんたちにアドバイスがありますか?

広大は、前に来日したことがある学生にとっても、初めて来日する学生にとっても良い所です。ここに来られて本当に良かったと思っています。静かなので、たくさん勉強することが出来ますよ。絶対、自分の目で見に来て下さい(笑)!

ありがとうございました。これからも頑張って下さいね!

ありがとうございます。

金閣寺にて。

広島銀行インターンシップにて。

お友達とディズニーシー!

研究仲間たちとご一緒に。


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