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【研究成果】口内炎の新たな救世主!スギナエキスに鎮痛効果を発見 ~新しい口腔ケア製品の開発に期待~

本研究成果のポイント

  • 口内炎に対するスギナエキスの創傷治癒および鎮痛効果を発見しました。
  • スギナエキスが痛みを抑制するメカニズムの一端を解明しました。

概要

 口内炎(※1)は、再発性アフタ性口内炎(RAS、※2)をはじめとして多くの人が悩まされている一般的な口腔疾患です。激しい痛みを伴うことが多く、食事が困難になるなど、日常生活の質(QOL)を大きく低下させます。これまでの治療法にはステロイド軟膏などが使われてきましたが、長期間または高頻度で塗布し続ける場合は、粘膜の萎縮や免疫低下といった副作用のリスクがあるため、より安全で効果的な治療法の開発が求められていました。
 広島大学大学院医系科学研究科口腔炎症制御学共同研究講座(※3)芝 典江 共同研究講座助教、宮内 睦美 名誉教授、太田 耕司 教授を中心とした研究チームは、口内炎に対するスギナエキスの創傷治癒および鎮痛効果を明らかにしました。また、スギナエキスによる鎮痛作用のメカニズムの一端を解明しました。
 今後、口内炎やその痛みで悩む多くの人々に向けた、スギナエキスを応用した治療法や予防法の開発により、人々のQOL向上に大きく貢献できると期待されます。

 本研究成果は、2024年11月21日「PLOS One」に掲載されました。
 なお、本件は論文掲載にあたり、広島大学から掲載料の助成を受けています。

●掲載雑誌:PLOS One
●URL:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0313747
●論文題目:Antinociceptive effect of Equisetum arvense extract on the stomatitis hamster model
●著者:Fumie Shiba(責任著者), Shiiko Maekawara, Atsuko Inoue, Koji Ohta, Mutsumi Miyauchi(責任著者)
●doi: 10.1371/journal.pone.0313747

背景

 口内炎は、再発性アフタ性口内炎(RAS)をはじめとして多くの人が悩まされている一般的な口腔疾患です。激しい痛みを伴うことが多く、食事が困難になるなど、日常生活の質(QOL)を大きく低下させます。これまでの治療法にはステロイド軟膏などが使われてきましたが、口内炎の再発を繰り返す患者や長期にわたりステロイドを使用する場合において、粘膜の萎縮や免疫低下を招くなどの副作用のリスクなどがあるため、より安全で効果的な治療法の開発が求められていました。
 私たちは、生薬「問荊(もんけい)」として知られるスギナの抽出物(スギナエキス)に着目し、口内炎によって起こる炎症や疼痛に及ぼすスギナエキスの作用について検証しました。

研究成果の内容

 本研究では、ハムスターの頬袋に口内炎を人工的に引き起こし、スギナエキスを塗布する実験を行いました。また、ラット由来の脊椎後根神経節細胞(※4)を用いた痛覚伝達因子に対するスギナエキスの影響についても検討しました。その結果、以下の効果が確認されました。

創傷治癒の促進: スギナエキスを塗布したハムスターでは、口内炎の潰瘍サイズが有意に縮小し、組織学的に治癒が促進されることを認めました。

鎮痛効果: 口内炎を誘導したハムスターでは、痛みで食事が困難になり、体重が減少しましたが、スギナエキスを塗布したハムスターは摂食行動が改善され体重減少が抑えられました。このことから、スギナエキスには鎮痛効果があることが示唆されました。

疼痛関連因子の発現抑制: 分子レベルでの解析の結果、スギナエキスは、疼痛発現に関連している「炎症性サイトカイン(TNF-α、※5)」や「プロスタグランジン合成酵素(COX-2、※6)」、さらには「痛覚伝達物質(サブスタンスP、※7)」の放出を抑制することが分かりました(図)。

 これらの結果から、スギナエキスは、創傷治癒を促すだけでなく、痛みの根本原因となる複数の疼痛関連因子を同時に抑えることで、口内炎の痛みを効果的に軽減する可能性が示唆されました。

【図】スギナエキスによる疼痛抑制メカニズム
(A)サブスタンスPの放出によりTNF-αやCOX-2の発現が増強されることで、口内炎による疼痛が引き起こる。(B)スギナエキス投与によりサブスタンスPの放出が大きく抑制されるとともにTNF-αやCOX-2の発現も抑制されることで、最終的に口内炎による疼痛が軽減される。

今後の展開

 今回の研究成果は、口内炎やその痛みで悩む多くの人々に向けた、新しい口腔ケア製品の開発に繋がるものと期待されます。スギナエキスを配合したオーラルケア製品などの製品が実用化されれば、口内炎患者のQOL向上に大きく貢献できると考えられます。さらに、生薬であるスギナエキスを用いることで副作用の懸念が少ない安全な口内炎治療法の開発につながる可能性があります。
 今後、スギナエキスのより詳細な作用機序(体内でどのように働き、組織の修復などに影響を与える仕組み)や有効成分の特定、さらにはヒトを対象とした口内炎への効果の検証を進めていく予定です。

用語解説

(※1)口内炎:
唇や頬の内側、舌、歯茎など口の中の粘膜に生じ、水疱やただれ、潰瘍などの粘膜病変を生じるものの総称です。ストレスや栄養不足などによる免疫力低下、口の中を噛んでしまうなどの物理的刺激、ウイルスの感染などが原因となって、口内炎ができると考えられています。

(※2)再発性アフタ性口内炎:
 再発を繰り返す口腔粘膜の炎症で、痛みを伴う小さな潰瘍が口の中にできる病気です。直径数ミリの大きさの円形や楕円形の浅い特徴的な潰瘍(アフタ)を形成します。潰瘍表面は黄白色の偽膜で覆われ、周囲は赤色を呈しています。唇の粘膜や舌、頬の粘膜によく発生します。

(※3)口腔炎症制御学共同研究講座:
2022年4月1日に新設された広島大学とアース製薬株式会社との共同研究講座で、広島大学における歯学分野初となる共同研究講座。産学が連携し、口腔炎症性疾患に関する基礎研究と、その予防法・治療法の開発に向けた応用研究の加速を目指しています。

(※4)脊椎後根神経節細胞:
 末梢からの感覚情報を脊髄に伝達する役割を担っている細胞で、痛み、触覚、温度感覚など、様々な感覚を脳に伝える重要な役割を果たしています。

(※5)TNF-α:
 Tumor necrosis factor-αの略称で、代表的な炎症性サイトカインの一種です。免疫細胞を活性化し、感染症に対する防御に重要なたんぱく質ですが、過剰に存在すると炎症や痛みを引き起こします。

(※6)COX-2:
 Cyclooxygenase-2の略称で、炎症部位においてサイトカインなどの刺激によって誘導される物質で、炎症や疼痛に関与するプロスタグランジンの合成酵素です。

(※7)サブスタンスP:
 痛覚の神経伝達物質として知られており、炎症性サイトカインやヒスタミンの放出を促進して炎症を引き起こします。またストレスや嘔吐反射などいろいろな生理機能に関わっています。

【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科
口腔炎症制御学共同研究講座
共同研究講座助教: 芝 典江
Tel:082-257-5632
E-mail:fshiba@hiroshima-u.ac.jp


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