【本研究成果のポイント】
●ヤドカリに寄生しているフクロムシをDNA解析(*1)により種レベルで正確に見分け、宿主ヤドカリの形態変化との関係を明らかにしました。
●寄生された雄のハサミ脚は、ケアシホンヤドカリおよびヤマトホンヤドカリでは雌と同程度まで顕著に小型化する一方、ホンヤドカリとクロシマホンヤドカリではほとんど変化しないことを発見しました。
●本研究により、フクロムシ類(*2)の寄生による体の変化は一様ではなく、「どのヤドカリにどのフクロムシが寄生するか」という組み合わせによって異なることを明らかにしました。
●今後は、分子生物学的な手法と統合することで、寄生生物が宿主の性や形態を操作する仕組みの解明につながることが期待されます。
【概要】
広島大学/神奈川大学の梶本麻未研究員と広島大学大学院統合生命科学研究科の豊田賢治准教授(兼任:神奈川大学総合理学研究所・客員研究員;東京理科大学先進工学部・客員准教授)、神奈川大学の大平剛教授らによる共同研究グループは、寄生性甲殻類フクロムシ類(根頭上目)のナガフクロムシ科が引き起こす“雄ヤドカリの体が雌のように変化する現象(形態的雌化(*3))”に注目し、雌化の程度は単一の反応ではなく、寄生するナガフクロムシの種類や宿主であるホンヤドカリ類の種類によって異なることを明らかにしました。
フクロムシ類(図1)は宿主の生殖能力を奪い、自らの繁殖に利用する「寄生的去勢者(*4)」として知られ、雄のヤドカリを雌のような形態へと変化させることが報告されています。しかし、外部形態のみでは寄生種の正確な同定が難しいことから、これまでその影響の違いは十分に検証されていませんでした。本研究では、日本各地で採集した4種のヤドカリと3種のフクロムシを対象に、DNA解析による寄生種の同定と形態測定を組み合わせて解析を実施しました。その結果、雄のハサミ脚のサイズは、ケアシホンヤドカリおよびヤマトホンヤドカリでは雌と同程度まで顕著に小型化する一方、ホンヤドカリおよびクロシマホンヤドカリではほとんど変化しないことが明らかになりました。これらの結果は、フクロムシによる宿主の「雌化」が一様に起こる現象ではなく、宿主と寄生者の組み合わせに依存することを示しています。
本研究は、フクロムシによる宿主操作が一様ではなく、「宿主―寄生者の種特異的な相互作用」に強く依存することを定量的に明らかにしたものです。今後、分子生物学的手法と統合することで、寄生生物が宿主の性や形態を操作する仕組みの解明につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年5月26日に国際学術誌『Marine Biology』のオンライン版に掲載されました。
【背景】
フクロムシ類は、ヤドカリやカニなどの甲殻類に寄生し、宿主体内に根状の組織を張り巡らせることで宿主の生殖能力を奪い、自らの繁殖に利用する「寄生的去勢者」として知られています(図1)。ヤドカリ類ホンヤドカリ科における先行研究から、フクロムシの寄生によって雄宿主の特徴的な大きなハサミ脚が小型化するといった「形態的雌化」が報告されてきました。しかし、フクロムシはその外部形態のみでの種判別が極めて困難であるため、正確な種同定を伴う定量的な評価は限られており、異なる宿主・寄生者の組み合わせ間で雌化の程度がどのように異なるのかは十分に解明されていませんでした。
【研究成果の内容】
本研究グループは、日本各地(北海道小樽市朝里町、石川県能登町、新潟県佐渡島、千葉県南房総市千倉町)の沿岸で採集された4種のホンヤドカリ類(ケアシホンヤドカリPagurus lanuginosus、ヤマトホンヤドカリPa. japonicus、ホンヤドカリPa. filholi、 クロシマホンヤドカリPa. nigrivittatus)を対象に調査を行いました。ミトコンドリアCOI遺伝子(*5)を用いた分子同定(*6)により、宿主に寄生していたフクロムシを3種(Peltogaster sp., Pe. postica, Pe. aff. ovalis)に同定しました(図2①)。これらのサンプルについて、未寄生個体と寄生個体の間で、「ハサミ脚のサイズ(図2参照)」をアロメトリー解析および標準化効果量の算出により比較しました。
その結果、ハサミ脚のサイズにおいて、ケアシホンヤドカリとヤマトホンヤドカリの寄生雄では、未寄生雌と同程度のサイズまで顕著に短縮することが確認されました(図2②)。対照的に、ホンヤドカリおよびクロシマホンヤドカリの寄生雄では、未寄生雄との間に顕著なサイズ差は認められず、雌と同程度までの短縮は確認されなかった(図2②)。これらの結果から、ナガフクロムシ科という同一グループに属していても、形態的雌化の現れ方は一様ではなく、宿主ヤドカリと寄生フクロムシの種特異的相互作用に強く依存することが明らかになりました。
【今後の展開】
本研究は、フクロムシの分子同定と定量的形態解析を統合することで、フクロムシとヤドカリの組み合わせによって「宿主改変の強さ」が異なることを明らかにしました。
寄生生物による宿主操作戦略の多様性を示した本研究の成果は、寄生生物の進化的戦略や宿主との相互作用の理解に重要な知見を提供します。
【参考資料】
雑誌名:Marine Biology
タイトル:Parasite-induced feminization across host–parasite combinations in pagurid hermit crabs infected by peltogastrid rhizocephalans (Crustacea: Cirripedia: Rhizocephala)
著者名:Asami Kajimoto, Ayako Tanaka, Tsuyoshi Ohira, Kenji Toyota
DOI:https://doi.org/10.1007/s00227-026-04860-3
【事業名・グラント番号】
本研究は、公益財団法人水産無脊椎動物研究所の研究助成(KO2024-04)、タカラ・ハーモニストファンド202、公益信託ミキモト海洋生態研究助成基金、日本学術振興会 科学研究費助成事業(24K09616、25H02425、25K18553)および基礎生物学研究所の超階層生物学共同利用研究(25NIBB103)によって支援されています。
【用語説明】
(*1) DNA解析
生物の設計図であるDNAの配列を調べることで、種類や違いを明らかにする方法。
(*2) フクロムシ類
ヤドカリやカニに寄生する甲殻類の一種。宿主の体内に根のような組織を広げ、栄養や生殖機能を利用する特殊な寄生生物。
(*3) 形態的雌化
本来雄である個体の体が、外見的に雌のような特徴を示すようになる現象。本研究では、雄のハサミ脚が小さくなるなどの変化を指す。
(*4) 寄生的去勢者
宿主の生殖能力を奪い、そのエネルギーを自分の繁殖に使う寄生生物のこと。
(*5) ミトコンドリアCOI遺伝子
生物の種類を見分ける際によく使われるDNAの一部。いわば「生物のバーコード」のような役割を持つ。
(*6) 分子同定
DNAなどの分子情報を使って、生物の種類を判別すること。
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
広島大学大学院統合生命科学研究科
准教授 豊田 賢治
Tel:082-424-7894
E-mail:toyotak*hiroshima-u.ac.jp
神奈川大学理学部理学科
教授 大平 剛
Tel:045-481-5661
E-mail:ohirat-bio*kanagawa-u.ac.jp
<広報に関すること>
広島大学 広報グループ
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp
Tel: 082-424-4518
神奈川大学 企画政策部広報課
E-mail:kohou-info*kanagawa-u.ac.jp
Tel: 045-481-5661
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