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(オユンダリさん)
パレスチナ・ガザ地区で深刻な人道危機が続く中、医療体制が大きな影響を受け、医療資源も不足するなど、現地で活動する緊急医療チーム(Emergency Medical Teams: EMT)への支援が急務となっています。こうした状況を受け、国際協力機構(JICA)は世界保健機関(WHO)と連携し、2年以上にわたり、遠隔での医療データ管理支援を行ってきており、広島大学大学院医系科学研究科の久保達彦教授らもこの支援に携わっています。
2026年1月、広島大学大学院医系科学研究科博士課程後期4年(当時)でモンゴル出身のオユンダリ・バトサイハンさんは、ガザ危機への対応を支援するJICAが派遣した調査団の一員として、エジプト・カイロにあるWHO東地中海地域事務局(EMRO)に派遣されました。そこで今回、カイロでの経験や、広島大学での研究・博士課程での学び、今後の展望について、オユンダリさんに話を聞きました。
※オユンダリさんは2026年9月に広島大学で博士号を取得。現在も広島大学において公衆衛生学の研究員として勤務しながら、ガザの人道支援に携わっています。
広島大学へ留学したきっかけを教えてください
私は、両親や祖父母を含め、医師の多い家庭で生まれ育ち、幼い頃から医療を身近に感じていました。幼稚園に入る前から医師ごっこをして、いつか自分も医師になることを思い描いていたのを覚えています。成長して自分の進路を考える中で歯学を選び、モンゴル国立医科大学を卒業後、臨床の道からキャリアを始めました。
臨床の現場で働く中で、病気の予防に関する知識や実践が十分でないまま治療を受けに来る患者さんを多く目にしました。臨床医として支援できるのは一度に一人の患者ですが、公衆衛生であれば、予防や健康増進、効果的なプログラム、エビデンスに基づく政策を通じて、より多くの人々の健康を改善できる可能性があります。こうした経験から、公衆衛生に関心を持つようになりました。
その後、異なる学術・公衆衛生環境に触れたいという思いが強くなり、米国のミズーリ大学で公衆衛生学の修士号を取得しました。修士号取得後はモンゴルに帰国し、WHO国事務所、保健省、国立公衆衛生センターなどで、研究、政策、公衆衛生の実務に携わりました。
こうした臨床と公衆衛生の経験を土台に、研究スキルをさらに高め、人々の健康により大きく貢献したいと考えるようになりました。文部科学省(MEXT)の奨学金を受給し、平和と復興の歴史を持つ広島で、国際的な学術環境と優れた教員の指導に魅力を感じ、広島大学の博士課程に進学しました。
入学式で、マスコットキャラクターのひろティーと!
広島大学での研究について教えてください
広島大学には2022年に入学し、久保達彦教授とCHIMED OCHIR ODGEREL准教授の指導の下、公衆衛生に関する複数の研究プロジェクトに携わりました。具体的には、モンゴルにおける肝がんの疾病負荷とその要因について、世界の疾病、外傷、リスク要因による健康損失を測定する大規模な国際研究プログラム「Global Burden of Disease(GBD)」のデータを用いた論文を発表しました。また、研究対象を産業メンタルヘルスにも広げ、科学研究費助成事業の支援を受けて、モンゴルの医療従事者を対象とした職業性ストレスやプレゼンティーズムに関する国際共同研究も行いました。
このほか、疾病負荷、産業保健、メンタルヘルス、COVID-19、救急医療など、さまざまな研究にも関わりました。
霞キャンパスの桜の下で、研究室のメンバーと!
令和7年度 医系科学研究科長表彰を受賞
広島大学が支えるガザの医療情報管理
ガザ地区では、長引く人道危機により医療体制が大きな影響を受け、現地で活動する緊急医療チームへの支援が求められています。こうした中、JICAはWHOと連携し、医療データの管理・調整を遠隔で支援してきました。
人道危機の現場では、限られた医療資源を適切に届けるため、患者の人数や状態、医療サービスの提供状況、現地の保健医療ニーズなどを正確に把握し、関係機関の間で共有することが欠かせません。
ガザの緊急医療チームからは、標準化された報告システム「Minimum Data Set (MDS)」を通じて、こうした情報がWHOがEMTの調整を行うために保健省内に設置する機能(EMTCC: Emergency Medical teamsCoordination Cell)に報告されます。しかし、現場は非常に多忙で、報告内容が不完全だったり、手書きの用紙を撮影した画像として届いたりすることもあり、そうしたデータを入力・整理・クリーニング・確認し、一つのデータベースとして管理する作業が必要となります。
広島大学では2023年より、久保達彦教授のリーダーシップの下、公衆衛生学の学生たちがJICAとともにとして、こうしたデータの整理・確認を支援してきました。
参考: 2023年12月 パレスチナの人々の緊急医療支援へ JICA調査団が医系科学研究科の久保教授を団長としてエジプトに派遣されています
一方、現地の状況やEMTCCの運用体制が変化し続ける中、遠隔支援だけでは十分に把握することが難しい課題も生じていました。そこで日本側のメンバーもカイロを訪れ、WHOやチームメンバーと運用上の課題を直接協議し、改善策を検討することになりました。
カイロへの派遣
2026年1月、私はJICAの調査団の一員として、エジプト・カイロに派遣され、WHO EMROに5日間滞在しました。安全上の理由からガザには入らず、カイロを拠点として現地のメンバーと連携し、ガザの関係者ともオンラインで協働しました。
調査団は、医師2名、大学教員1名、JICA国際緊急援助隊事務局員、そして私の5名で構成されていました。メンバーは災害・緊急対応に関する豊富な経験を持ち、中には国際緊急援助隊(JDR)の登録者もいました。
今回の派遣チームの主な任務は、前述の報告システム(MDS)の運用を支援することでした。現地では、データの流れや情報管理のプロセス、運用上の課題について協議し、MDSツールの項目修正を含む対応方針について合意形成を行いました。
このほか、ガザで活動するEMTを対象に、健康・安全に関する調査も実施されており、広島大学はその中で中心的な役割を担っていました。この調査では、現場で活動する医療チームの健康状態や安全面での懸念などについて情報を収集していました。今回の派遣における私の主な役割の一つは、この調査の第1段階で得られた暫定的な分析結果をWHO EMROの関係者やチームメンバーに共有することでした。
WHO EMROを拠点とするEMTCCメンバー
EMTCC会議の様子
人道危機の現場で学んだ国際協力の重要性
私は、広島大学としてJICA調査団の派遣に参加した初の留学生でした。当初は、経験豊富なメンバーの中で自分が貢献できるのか不安もありました。しかし、チームの皆さんが温かく迎え入れ、支えてくれたことで、落ち着いて自分の役割を果たすことができました。
今回の経験を通じて、人道危機における国際協力の重要性を改めて実感しました。これまでも、実務経験や授業、研究を通じてその価値を学んできましたが、緊急の人道危機に対応するため、異なる国や組織の専門家たちが連携して活動する姿を目の当たりにすることで、こうした協力が現場でどのように機能するのかを、より深く理解することができました。
また、信頼できるデータが現場での対応を支え、必要な支援を届けるための判断に重要な役割を果たしていることを改めて実感しました。この経験を通じて、今後もグローバルヘルスや人道支援に貢献したいという思いがさらに強くなりました。
広島大学での学びを、世界の健康課題へ
広島大学での学びの中で、私が特に魅力を感じているのは、研究と現実社会の健康課題が密接に結びついている点です。博士課程では、これまでの経験を土台にしながら、より高度な研究・学術スキルを身につけ、それらをさまざまな公衆衛生やグローバルヘルスの課題に応用する機会を得ることができました。
今後は、これまで学び、経験してきた臨床、公衆衛生、政策、研究の知見を生かし、公衆衛生システムの強化やグローバルヘルスの向上に貢献していきたいと考えています。
広島大学で学びたいと考えている皆さんには、好奇心を持ち、さまざまな機会に前向きに挑戦してほしいと思います。自分の専門分野から少し離れたところにある機会が、新たな視点をもたらし、将来の成長につながることもあります。
広島での生活も満喫。広島東洋カープの試合を観戦!
(2026年3月取材/広報室A)
広島大学広報室

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