研究井戸端トーク#3 開催記録

研究井戸端トーク#3『分野、こえてみます-「DIGITAL BIOSPHERE」未来共創チーム 座談会-』を開催しました

<日時>  2021年3月29日(月)17:00~18:00
<場所>  Zoomにてオンライン開催
<参加者> 延べ44名(大学教職員、大学院生、企業、自治体など)
<プログラム>
話題提供者からの短い話題提供後、自由な対話
     司会:奥原 啓輔 氏(広島大学発ベンチャーのプラチナバイオ社 代表取締役)
  話題提供者:西原 禎文 准教授(化学/個体物性化学)
        中空 萌 講師(文化人類学、科学技術社会論)
        岡本 慎平 助教(応用倫理学)
<主催>広島大学 学術・社会連携室 URA部門(人間社会科学研究科担当)

第3回は、番外編として、JSTムーンショット型研究開発事業『新たな目標検討のためのビジョン策定(ミレニア・プログラム)』のチームのひとつに選ばれた、「DIGITAL BIOSPHERE」未来共創チームの対話を座談会形式でおおくりしました。

司会役と話題提供者は会場に集合

終了後、記念撮影(マスクが...)

<話題提供>

  • 西原先生は、ミレニア・プログラムのチーム形成のきっかけになったご自身の研究を紹介されました。ビッグデータ活用によって大容量ストレージの需要が高まる一方で古典的なメモリ容量には限界があるそうですが、西原先生が開発した新しい方法では、従来の1000倍以上記録可能になったとのこと。このストレージを実際に活用できる用途を考えていたところ、司会の奥原さんとの会話の中で、ゲノムの世界ではむしろ増えていくデータのストレージに困っていることが分かり、生物データを取り扱うことで新しい技術が生かせる可能性を見出して、チームを形成したとのこと。さらに、未来を見据えて、宇宙へ進出するきっかけになればと考えていらっしゃるそうです。
  • 中空先生は、ご自身の研究分野である文化人類学について、フィールドワーク等を通じて異文化を徹底的に理解し、新しい問いや視点を見出す学問だと説明されました。フィールドワークの対象も現代的な領域に広がっていて、先生のもっかの野望は、学内の実験ラボに入り込んで広島大学版「科学技術の民族誌」を書くことだそうです。また、インドでの生物資源に関連したフィールドワークが、今回のプロジェクトのゲノム編集に係るELSI(倫理的・法的・社会的な課題)の問題につながっていると考えられているそうです。
  • 岡本先生は、宇宙倫理学とはどのような学問なのかを説明してくださいました。新しい学問というイメージですが、なんと、1967年に手塚治虫が「宇宙倫理学」という言葉をはじめて使ったとのこと。広い宇宙に対して倫理といっても、すでに問題になっている事からフィクションの中で考えられる事までさまざまな問題が考えられ、その中には、宇宙空間の軍事利用の可否、宇宙資源利用における不平等、宇宙開発にかかるコストパフォーマンス、宇宙ゴミ問題、宇宙環境破壊問題、などがあるそうです。

<トークのハイライト>

  • 宇宙倫理学の議論は、地球から宇宙の視点で考えられているようだが、宇宙から地球を見た視点での議論はあるのか、という質問をきっかけに、トークが活発に展開されました。その一つが、宇宙人と出会ってしまったとき、すなわちファーストコンタクトの問題。中空先生によると、宇宙人類学という分野があり、かつての新大陸発見時の先住民の視点から問題を考え直すことになぞらえて、宇宙の問題も議論されているとのこと。一方、岡本先生は、ファーストコンタクトが知的な生物ではなく人類に有害な微生物の可能性もあり、地球に持ち帰るリスクについて指摘されました。
  • 西原先生は、プロジェクト立ち上げ当初は「素朴に宇宙に行きたい」と思われていたところ、調査の一環で行った宇宙生命学の研究者へのインタビューを通じて「宇宙に草木を植えて移住すること=宇宙環境を汚すこと」なのでは、と考え始められたとのこと。地球上の環境問題と宇宙の環境問題は同じなのか。誰も困らなければ問題ないのか、それとも誰も困っていなくても既存の環境を破壊することは倫理的に問題なのか、などさまざまな点に議論がおよびました。
  • 最終的に「なぜ宇宙に行くのか」について白熱した議論が展開されました。地球がいつか滅びることを前提に宇宙開発がされているのか。それは正当なことなのか。莫大な開発費が投じられている宇宙開発に、夢や希望だけでは正当な理由にならないのでは。将来的に宇宙に資源が見つかった時に、かつてのゴールドラッシュのような悲劇が起こるのでは。などなど、問題は山積みのようです。

<司会の奥原さんから>
 「DIGITAL BIOSPHERE(デジタル生物圏)」をコンセプトに、ゲノム、単分子メモリ、文化人類学、宇宙倫理学が交錯するトーク。カオスだけど、何故か心地よい、不思議な時間でした。人類の宇宙進出について語り合う中で、宇宙人類学の挑戦や宇宙開発におけるELSIなど新しい問いが生まれ、目からウロコの連発でした。
 様々なバックグランドを持つもの同士が、互いの価値観を認め合いながら、同じテーマについて語り合ううちに、自然と分野融合の在るべき形が垣間見えた気がしました。
 タイトル「分野、こえてみます」の決意も新たに、ミレニア・プログラムの調査研究を進めて行きます。今後の展開にもご期待ください。
 

【お問い合わせ先】
学術・社会連携室 URA部門
研究井戸端トーク担当
ura■office.hiroshima-u.ac.jp (■を@に変更してください)


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