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本研究成果のポイント
- シロイヌナズナの根の表面には、根毛を作る細胞と作らない細胞があり、その割合を調節することで土壌環境に適応しています。本研究により、根毛を作る遺伝子であるCPCファミリーに、タンパク質分解が早いものとそうでないものがあることを初めて明らかにしました。
- さらにこのタンパク質分解には、ユビキチン-プロテアソーム経路(不要タンパク質の分解等に重要な経路)が関与していることも突き止めました。
- 根毛を作るCPCファミリーのタンパク質分解を調節することで、環境に応じて水や養分を効率よく吸収できる根毛を持つ作物の作出が期待されます。
概要
広島大学大学院生物圏科学研究科の冨永るみ講師の研究グループは、モデル植物(※1)・シロイヌナズナを用い、根毛を作る働きを持つCPCファミリー(CPC遺伝子、TRY遺伝子、ETC1遺伝子、ETC2遺伝子、CPL3遺伝子を含む)(※2)から作られるタンパク質には、分解が早いものとそうで無いものがあることを突き止めました。分解が早いTRYとETC2は、他のCPCファミリーに比べて約20アミノ酸ほど長い余分な末端配列を持っていました。この末端配列を除去すると、TRYとETC2のタンパク質分解が抑えられました。これらの実験により、TRYとETC2の末端配列が分解を促していることを証明しました。さらにTRYとETC2のタンパク質分解には、「ユビキチン-プロテアソーム経路(※3)」と呼ばれる分解経路が関与していることも明らかにしました。
本研究成果は、ロンドン時間の2017年7月4日12時(日本時間:2017年7月4日20時)に生物学を扱う英国の科学雑誌「Development」オンライン版に掲載されました。
【用語解説】
(※1)モデル植物:生物学、特に分子生物学の研究に用いられる植物。研究への利用に有利な特性を持つ。シロイヌナズナは2000年に植物としては初めて全ゲノム配列の解読が終了した代表的なモデル植物。
(※2)ファミリー:配列や機能が類似している遺伝子、あるいはその遺伝子から作られた、配列や機能が類似したタンパク質のグループ。
(※3)ユビキチン-プロテアソーム経路:タンパク質に付加されたユビキチンをプロテアソームが認識して分解するシステム。細胞内の不要なタンパク質の分解等に重要な経路。

(A) CPC-GFP融合タンパク質は根の表皮細胞に局在する。
(B) TRY-GFP融合タンパク質は分解され、蛍光が見えない。
冨永るみ講師からのコメント
植物の根の表面には、うぶ毛のような根毛が生えており、水分や養分の吸収に重要な役割を果たしています。本研究により、植物の根毛分化に関わるメカニズムの一端を明らかにしました。まだまだ道のりは遠いですが、今後の研究により、表皮細胞分化制御機構の全貌を、分子レベルで解明したいと考えています。
論文情報
- 掲載雑誌:Development
- 論文題目:Extended C-termini of CPC-LIKE MYB proteins confer functional diversity in Arabidopsis epidermal cell differentiation
- 著者:Rumi Tominaga* and Takuji Wada
*Corresponding author(責任著者) - DOI番号:10.1242/dev.149542
広島大学大学院生物圏科学研究科
講師 冨永 るみ