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【研究成果】細胞分裂の方向性を調節する新たな分子経路を同定 ―小頭症発症メカニズムの理解に貢献―

本研究成果のポイント

  • 分裂期キナーゼPLK1が遺伝性小頭症の原因遺伝子産物であるWDR62タンパク質を活性化して、細胞分裂の方向性を調節することを明らかにしました。
  • 次世代シーケンサーによる変異探索からゲノム編集技術を用いた原因変異確定までのヒト遺伝病解析フローを確立しました。

概要

 広島大学原爆放射線医科学研究所の松浦伸也教授、宮本達雄講師、Silvia Natsuko Akutsu大学院生らのグループは、分裂期キナーゼPLK1(注1)が、遺伝性小頭症(注2)の原因遺伝子産物であるWDR62を活性化して、細胞分裂の方向を調節することを明らかにしました。
 ヒトの脳の発生過程では、神経細胞(ニューロン)の基になる神経幹細胞が、細胞分裂の方向性を調節してその数を十分に増やすことにより、大きな脳を作り出していることが知られていますが、その分子メカニズムはよく分かっていませんでした。
 今回、広島大学大学院理学研究科、埼玉県立小児医療センターとの共同研究により、日本人小頭症患者から次世代シーケンサー(注3)解析で同定したWDR62遺伝子(注4)変異を、ゲノム編集技術(注5)を用いてヒト正常細胞に導入したところ、細胞分裂の方向が不安定になりました。さらに詳しく調べた結果、PLK1がWDR62を中心体(注6)上でリン酸化することで、細胞分裂装置である紡錘体(注7)を細胞膜に繋ぎ止める星状体微小管の発達を促して細胞分裂の方向を調節する新しい分子経路を見出しました。
 小頭症の原因には、遺伝性のほかに、放射線被ばくや胎内感染症(ジカウイルスなど)が知られています。本研究成果は、これらの小頭症の発症メカニズムの理解にも貢献すると期待されます。
 本研究成果は、英国の科学雑誌「Human Molecular Genetics」のオンライン版に平成29年8月27日に掲載されました。

【用語解説】
注1. PLK1 (Polo-like kinase1):
中心体に集積するリン酸化酵素で、細胞分裂を進行する上で重要な酵素。その阻害剤は、抗がん剤として治験が進んでいる。

注2. 遺伝性小頭症:
発生期における神経幹細胞の数が減少することで、生まれつき脳の大きさが著しく小さくなる稀な常染色体劣性遺伝病。様々な原因遺伝子が知られている。

注3. 次世代シーケンサー:
巨大なヒトゲノムを高速に解読することができる機器。

注4. WDR62遺伝子:
遺伝性小頭症の原因遺伝子の一つで、MCPH2遺伝子として既に報告されている。WDR62遺伝子は、中心体構成タンパク質WDR62の設計図。

注5. ゲノム編集技術:
ゲノム上の任意の塩基配列を切断するCRISPR/Cas9システムなどの人工ヌクレアーゼを用いて、遺伝情報を効率的に改変する技術。

注6. 中心体:
微小管を発達させる機能をもつ細胞小器官。分裂期には、紡錘体を形成する微小管の起点となって染色体を正確に娘細胞に継承する機能をもつ。

注7. 紡錘体:
染色体を娘細胞に分配するための双極性の構造体。中心体から染色体に向かって伸びる紡錘体微小管が染色体上の動原体を捕捉して染色体分配を担う。中心体から細胞表層に向かって発達する星状体微小管が細胞膜を捕捉して、紡錘体の傾きを安定化する。

ヒトの脳の発生過程において、初めは水平な分裂方向をもつ神経幹細胞が均等に分裂して神経幹細胞の数を増大させます。それに引き続いて、神経幹細胞の分裂方向が傾くことで、一部の細胞が神経細胞(ニューロン)へと分化します。遺伝性小頭症では、神経幹細胞の分裂方向が早期に傾くことで、神経幹細胞の増殖が低下して神経細胞数が著しく減少すると考えられています。

論文情報

  • 掲載雑誌: Human Molecular Genetics
  • タイトル: PLK1-mediated phosphorylation of WDR62/MCPH2 ensures proper mitotic spindle
  • 著者: Tatsuo Miyamoto*, Silvia Natsuko Akutsu*, Akihiro Fukumitsu, Hiroyuki Morino, Yoshinori Masatsuna, Kosuke Hosoba, Hideshi Kawakami, Takashi Yamamoto, Kenji Shimizu, Hirofumi Ohashi, Shinya Matsuura# (*共同筆頭著者、#責任著者)
  • DOI番号: 10.1093/hmg/ddx330
【お問い合わせ先】

広島大学 原爆放射線医科学研究所
教授 松浦 伸也

TEL: 082-257-5809
E-mail: shinya*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)


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