- 自然界の魚が太陽光のもとで隠れる(カモフラージュする)際に利用しているグアニン結晶板注1を水中に浮遊させたまま光に対し角度を制御する方法を開発しました。
- 他の拡散反射性粉末と光反射特性を比較しつつ、開発した角度を制御する方法をもとに、水中で魚のグアニン結晶板が重なった際の光制御性能を明らかにしました。
- グアニン結晶板が水中で分散した状態でも、磁場により結晶板が集団配向した場合、疑似的なフォトニック結晶注2になり得ることが示されました。
- これにより、従来考えられていたグアニン結晶板の反射による光制御に加えて、結晶板の光透過性を活用した新たな光干渉増強手法を編み出すことが磁場で可能となりました。この増幅された干渉光を細胞に向けたマイクロ・サーチライトとして使えば、暗視野照明法による細胞内成分観察技術への応用も期待できます。
【用語説明】
注1)グアニン結晶板
地球上全ての生物のDNAの成分でもある核酸塩基のひとつ、グアニン分子が平行に並んだ状態で結晶化したもの。結晶構造内部に水分子を含む水和結晶と、水分子を含まない無水結晶が知られている。生物由来のグアニン結晶板の体積中の大部分は無水結晶であるとの報告がある。
注2)フォトニック結晶
光の屈折率の異なる領域を周期的に繰り返す構造を結晶性材料で形成した、光の干渉などによる光伝搬の制御を行うことのできる光学材料のこと。人工的にシリコン結晶で形成したフォトニック結晶がよく知られている。また、自然界で生物が用いているクチクラ等の周期構造による蝶々や魚の体表でみられる構造色も、このフォトニック結晶の定義に含まれることがある。グアニン結晶板が生体組織内で水を含む材料と交互に多数重なった状態は、このフォトニック結晶として考えることができる。
国立大学法人広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所の岩坂正和教授、国立大学法人山口大学大学院創成科学研究科 工学系学域の浅田裕法教授らの研究チームは、魚をキラキラさせる原因である非常に小さい鏡(グアニン結晶板)を磁場で操作し、これまで謎に包まれていた魚の体表の強い輝きの説明に成功しました。このグアニン結晶板が単に光を反射するだけでなく、ある程度透明性も有することに着目し、水に囲まれた空間で鏡が周期的に配列することがキラキラを起こす本当の原因であることを明らかにしました。
これまで、われわれ人類は人工的に光を利用する工夫をいろいろと行ってきました。その一方で、自然界の生物も太陽光を上手に利用することはよく知られています。生物がつくる材料の機能をまねる技術は、バイオミメティクスと呼ばれる研究分野で最近盛んに開発されています。例えば、魚や昆虫などの動物が体表の色を体の一部の周期構造でうまく光を反射させてつくりだすことは、構造色として知られています。そこで生物が光を上手に使う様子を詳しく調べることで、疾病の影響を受ける細胞の活動を光で詳しく調べることができる新しい技術に結びつくのではないかとわれわれは考えました。
今回、魚の体表にあるキラキラの原因物質であるグアニン結晶と呼ばれる材料に着目した理由は、この結晶が自然界での生存淘汰・生物進化の過程で選ばれた大変効率よく光を制御できる物質とみなされているからです。身近な自然・水族館などにおいても、魚の集団による光の強さや色あいのダイナミックな変化を、泳いでいる魚の集団の動きで見ることができます。この現象もヒントに、水中でのグアニン結晶の集まりを浮いた状態で磁場で制御し、光強度の変化が反射のみでなく光干渉とよばれる仕組みに依存することをつきとめました。
グアニン結晶板の厚みは100ナノメートル程度と非常に薄いため、医療用細胞イメージング技術の際の狭い空間での光制御に最適です。今回の報告では、たくさんのグアニン結晶板が水中に浮遊した状態に磁場をかけ2倍程度にまでキラキラを強めることができました。このグアニン結晶板を細胞の近くに手鏡のようにおけば、細胞から分泌される疾病の兆しをすばやく立体的にキラリと見つけることができそうです。今後、がんなどの病気の進行を迅速に調べる新しい方法に結びつくことが期待されます。
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST)「新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術」研究領域(北山研一総括)の研究課題「魚のバイオリフレクターで創るバイオ・光デバイス融合技術の開発」の一環として広島大学の岩坂正和教授および山口大学の浅田裕法教授の共同研究で行われたものです。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載されました。
魚のキラキラを磁場でさらに輝かせるための方法
(a)磁場で輝きを増した実施例
(b)キラキラを増す(水中浮遊フォトニック結晶型光干渉法の)原理