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【研究成果】株式会社ミルボンと広島大学が、熱ダメージで毛髪タンパクが構造変化する過程の高精度観察に世界で初めて成功

概要

株式会社ミルボン(代表取締役社長・佐藤 龍二)と広島大学 放射光科学研究センター(HiSOR)※1の松尾光一 准教授らは、ヘアアイロンなどで毛髪が熱ダメージを受ける際に、毛髪のタンパク質がどのように構造変化するのか、その過程を高精度に観察することに世界で初めて成功しました。

この新技術により、熱ダメージした毛髪に対して、有効なケア成分を高精度に探索できるようになります。それに伴って、非常に効果的なヘアケア製品の開発が期待されます。

本研究成果の一部は、2020年蛋白質科学会年会で発表しました。※2

本技術のポイント

ヘアアイロンをはじめとした熱を利用した器具を使用し、多くの方がヘアデザインづくりを楽しんでいます。しかし、こうした熱処理は、毛髪にダメージを与えてしまいます。

生卵を熱すると固まってゆで卵になるように、タンパク質は熱を与えると徐々に凝集し、固体化してタンパク質溶液が濁ってしまう性質があります。毛髪も約85%がケラチンと呼ばれるタンパク質で構成されており、ヘアアイロンなどの熱により、このケラチンが凝集することが熱ダメージの大きな原因となっています。

これまでも、ケラチンに熱を加える前の状態や、完全に熱凝集してしまった状態の構造を観察することはできました。しかし、この変化していく過程の状態は観察することができなかったため、熱ダメージを抑制する成分の探索方法に制約がありました。本技術により、こうした成分を効率的かつ高精度に探索することができるようになります。

熱処理前の可溶化しているケラチン(左)
熱凝集したケラチン(右)

今後の展望

同じ時間で同じ熱を与えても毛髪のダメージを抑える成分や、熱凝集してしまったケラチンを元の状態に回復させる成分などを調査し、非常に効果の高い熱ダメージ対応ヘアケア製品の開発を進めます。

補足1: なぜケラチンの構造変化過程を観察できるようになったのか

これまでミルボンは、ケラチンの構造観察にCDスペクトル測定※3を用いた溶液でのモデル実験を行ってきました。しかし、この方法は溶液に光を透過させて測定するため、ケラチンが可溶化して透明な状態(上記写真左)でしか測定できません。しかし、ケラチンが徐々に熱凝集し、溶液中で懸濁した状態(上記写真右)だと光が透過できず、その構造を観察できないという課題がありました。そこで、HiSORの強い光源で生み出される放射光を利用すれば、熱で徐々に懸濁していく状態でも充分な量の光が透過でき、CDスペクトル測定が可能になると考え、この課題に取り組みました。

補足2: HiSORの放射光が生み出した成果

1. 熱処理条件下でケラチンの構造をありのままの状態で測定できるようになった。
HiSORの強い光源で生み出された放射光により、熱処理によって懸濁していくありのままの状態のケラチン溶液でも充分な光が透過する事ができるようになり、CDスペクトル測定が可能となりました。その結果、熱処理条件下においてケラチンの構造を時間経過ごとに追えるようになり、構造が変化していく過程を高精度に観察できました。(図1)

図1:ケラチン加熱処理時のCDスペクトル変化

2. 熱処理条件におけるケラチンの構造の存在割合が正確にわかるようになった。
ケラチンは、αヘリックス構造※4やβシート構造※5という二次構造を分子中に持っています。
HiSORで生み出された放射光は、従来のCDスペクトルで測定できた波長(190nm~260nm)に加えて、さらに真空紫外領域※6の波長(170~190nm)の範囲も測定可能です。

その結果、ケラチンのαヘリックス構造やβシート構造の存在比率がより高精度にわかるようになり、熱処理を行うとαヘリックス構造が減少し、βシート構造が増加している様子が確認できました。(図2)

図2:熱処理過程でのケラチンの構造変化

用語解説

(※1) 広島大学放射光科学研究センター (HiSOR:ハイソール)
広島大学(広島県東広島市)にある放射光実験施設です。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、
電磁石によって進行方向を曲げる時に発生する強力な電磁波のこと。HiSORでは、真空紫外線・軟X線領域の放
射光を用いた実験を得意としており、生体物質の構造解析手法などの研究を行っています。

(※2) 2020年蛋白質科学会年会は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、中止となりましたが、ホームページ上での講演要旨集の掲載をもって、その範囲は研究業績として成立したとみなされます。

(※3) CDスペクトル測定
さまざまな波長の光を用いて、タンパク質などの生体分子の構造に関する情報を得る手法。

(※4) αヘリックス構造
βシート構造とともに、二次構造と呼ばれるタンパク質の立体構造の代表的な様式のひとつ。タンパク質はペプチド結合と呼ばれる形式によりアミノ酸が鎖のように連なってできています。このアミノ酸の鎖がらせん状に巻いている構造のこと。

(※5) βシート構造
αヘリックス構造とともに、二次構造と呼ばれるタンパク質の立体構造の代表的な様式のひとつ。まっすぐに伸びたアミノ酸の鎖が平行または逆平行の関係に並び、平面を形成している構造のこと。

(※6) 真空紫外領域
紫外線の領域の中でも波長が短く、空気中の酸素や窒素に吸収されやすく、真空中でなければ長い距離を通過できない真空紫外線の波長領域です。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学放射光科学研究センター 
准教授 松尾 光一
TEL: 082-424-6297 
E-mail:pika*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

<報道に関すること>
株式会社ミルボン広報室 
TEL: 03-3517-3915


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