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【研究成果】性染色体進化の先祖返り:異形化より同形維持を選択する

本研究成果のポイント

  • ヒトのY染色体はX染色体よりはるかに小さい形になっています。これは、もともとX染色体と同じ形だったY染色体が形を変え、徐々に遺伝子を失ってきたことを示しています。このようなY染色体の退化による小型化は一般的によく知られた性染色体進化の方向です。今回、私たちは、性染色体はむしろ、異形化よりも同形の維持を積極的に選択することを日本のカエルで発見しました。

概要

 広島大学両生類研究センターの三浦郁夫准教授と横浜市繁殖センターの尾形光昭所長、田辺市ひき岩ふるさと自然公園の鈴木和男および姫路水族館の湯浅義昭は、兵庫県と和歌山県に生息するツチガエル集団[図A、B]の遺伝学的調査を行いました。
異形の性染色体(注1)を持つグループ(Neo-ZW)とその西側に位置し、同形の性染色体をもつ西日本グループの境界領域を調べたところ、Neo-ZWグループの西端に位置する兵庫県の集団と西南端に位置する和歌山県の集団では性染色体が同形であることがわかりました。核やミトコンドリアDNA、染色体および性決定様式を調べた結果、これら境界領域の集団は西日本集団とNeo-ZW集団(あるいはXY集団)が交雑した結果、性染色体が同形に収束したものと推測されました[図C]。
このことは、同形と異形の性染色体をもつ2つの異なる集団が入り混じった場合、性染色体は同形が優勢になることを意味しており、従来の異形化へと突き進む性染色体進化とは逆方向への進化を示しています。

本研究成果は、ロンドン時間の7月26日午前0時(日本時間:7月27日午前8時)「PHILOSOPHICAL TRANSACTIONS OF THE ROYAL SOCIETY B-BIOLOGICAL SCIENCES」オンライン版に掲載されます。

発表内容

【背景】

ヒトを含む哺乳類はXとY染色体(注2)を持ち、鳥類はZとW染色体(注2)を持ちます。いずれもXとY、およびZとWの形は異なっており、Y染色体やW染色体は時間が経つにつれて退化し、小型化していくことが知られています。
一方、他の脊椎動物の場合、むしろ、同形の性染色体をもつ種が多く、特にカエルなど両生類では9割以上の種が同形です。それゆえ、性染色体を積極的に同形に留める仕組みについて議論されてきましたが、その実態はよくわかっていませんでした。
そこで、今回、地域集団によって多様な性染色体や性決定様式を持つ我が国のツチガエル[図A]を用いて、特に性染色体の形態が異なる2つの地域集団の境界領域を調査しました。

【研究成果の内容】

ZとW染色体をもつNeo-ZWグループについて、ミトコンドリアと核の遺伝子、性連鎖遺伝子および染色体を解析したところ、このグループの西端に位置する兵庫県と西南端に位置する和歌山県の集団は、異形のZとW染色体を持っておらず、その代わりに同形の性染色体をもつこと、つまり西側に近接する西日本集団と同様であり、さらに性決定様式も西日本集団と同様XY 型(注2)でした[図B]。
このことは、異形の性染色体をもつNeo-ZW集団(あるいはXY集団)と同形の性染色体をもつ西日本集団が過去に交雑し、最終的に同形の性染色体に収束したことを示しています[図C]。すなわち、性染色体は異形化よりも同形を積極的に選択することを意味しており、従来の性染色体の異形化とは全く逆方向への進化であることを明らかにしました。

【今後の展開】

今回の2つの集団を新たにNeo-西日本集団として定義しました。今後、分子マーカーを単離して同形の性染色体を同定し、西日本集団と同じ染色体に収束したのか、あるいは新たに別の染色体と置き変わったのかを明らかにします。さらに、ツチガエルは多様な性染色体を持つ集団が他にも存在しています。一旦、性染色体が異形化した集団であっても、他の集団と交雑することによって、性染色体が若返りを図ろうとする現象が示唆されており、今後さらに研究を深めていきます。豪州のJ. Graves博士は、人類のY染色体は500万年後に消滅するかもしれない、と予言しています。
一方で、生物はさまざまな戦略を用いて、性染色体の退化を遅らせたり、若返りを図っていますので、今後、性染色体の退化を防ぐ遺伝学的仕組みについてカエルを用いて明らかにしていきます。

【参考資料】

 ツチガエルで見つかった性染色体の先祖返り

A日本の固有種、ツチガエル(Glandirana rugosa)、B調査した集団。矢印で示す集団が今回新たに定義したNeo-西日本集団。C交雑の結果、性染色体が異形から同形へ変化(先祖返り)したことを示す模式図。第1番と第7番染色体のみを示す。

 

用語解説

(注1)性染色体
 オスとメスの性を決める性決定遺伝子を含む染色体を性染色体、それ以外の染色体を常染色体と呼ぶ。

(注2)XX-XY型とZZ-ZW型
 性染色体には2つのタイプがある。1つはヒトを含む哺乳類に代表されるXX-XY型(あるいはXY型)。メスが2本のX染色体、オスがXとY染色体を1本ずつ持つ。もう一つのタイプが、鳥類に代表されるZZ-ZW型(あるいはZW型)。オスが2本のZ染色体、メスがZとW染色体を1本ずつ持つ。ちなみに、ツチガエルはこの2つのタイプを持っており、世界でも極めてユニークな動物である。

論文情報

  • 掲載誌: PHILOSOPHICAL TRANSACTIONS OF THE ROYAL SOCIETY B-BIOLOGICAL SCIENCES
  • 論文タイトル: Sex chromosome evolution from a heteromorphic to a homomorphic system by inter-population hybridization in a frog
  • 著者名:

    尾形光昭*、1、鈴木和夫2、湯浅義昭3、三浦郁夫*、4、5
    1、横浜繁殖センター、横浜市
    2、ひき岩ふるさと自然公園、田辺市
    3、姫路水族館、姫路市
    4、広島大学両生類研究センター、東広島市
    5、Institute for Applied Ecology、 University of Canberra、 Australia
    *責任著者

  • DOI: https://doi.org/10.1098/rstb.2020.0105
【お問い合わせ先】

両生類研究センター 准教授 三浦 郁夫
Tel:082-424-7323 FAX:082-424-0739
E-mail:imiura*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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