• ホームHome
  • 研究
  • 【研究成果】EUV光源の世界最高変換効率(理論値)10.3%の達成 ― 超微細の先端半導体製造の省エネ化にブレークスルー ―

【研究成果】EUV光源の世界最高変換効率(理論値)10.3%の達成 ― 超微細の先端半導体製造の省エネ化にブレークスルー ―

本研究成果のポイント

  • 波長13.5 nmのEUV注1光源の高効率化に関する研究です。
  • 炭酸ガス (CO2) レーザー注2生成スズ (Sn) プラズマが放射するEUV変換効率注3を放射流体注4シミュレーションで調べました。
  • 従来の理論限界 (7% ~ 8%) を大きく超え、理論上限が10.3%であることを明らかにしました。
  • EUV光源の高出力化と省エネ化に向けた高効率化への指針を明らかにしました。

研究概要

 宇都宮大学学術院(工学部基盤工学科)の東口武史教授、米国パデュー大学極端環境物質センターの砂原淳主任研究員、アーメドハサナイン教授、北海道大学大学院工学研究院の富田健太郎准教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の難波愼一教授の共同研究グループは極端紫外 [Extreme ultraviolet (EUV)] 光源の変換効率の理論上限が10.3%であることとその条件を明らかにしました。EUV変換効率の理論限界(上限)は2006年に公表された7%から8%とされており、現在の露光機のEUV変換効率は約5%から6%です。露光機メーカーなどはこれまでの理論限界の7%から8%の変換効率をめざして研究開発が進められています。しかしながら、EUV光源の理論限界(上限)はまだ明らかではありませんでした。
 共同研究グループは、現在の露光機のEUV光源方式を理論的に模擬し、2次元放射流体シミュレーションにより、プラズマの初期条件および炭酸ガス (CO2) レーザーの照射条件を細かく検討しました。レーザーの照射条件を詳細に検討したところ、EUV変換効率の理論的上限値を従来の7%〜8%から10.3%と大幅に向上させることができるプラズマ生成条件を初めて明らかにしました。この結果は、消費電力の大きなCO2レーザーの出力を少しでも抑制できることを意味し、EUV光源の高出力化と省エネ化に大きく貢献できると考えています。
 本研究成果は、9月11日、米国光学会の学術誌Optics Expressに公開されました。

研究の背景

 スマートフォンや機械学習、人工知能などには先端半導体が使われています。先端半導体は経済安全保障の観点からも非常に重要です。先端半導体の製造過程の一つに露光と呼ばれる回路パターンを転写する前工程があります。露光に用いられるのが波長13.5 nmのEUV光です。露光機内のEUV光は、CO2レーザー生成スズ (Sn) プラズマからの放射であり、EUV光を集め、露光機内に導いています。

図1:(a) 放射流体の計算の仕組み。入射したレーザーのエネルギーはプラズマの生成、プラズマによる吸収、熱伝導、プラズマの運動、プラズマ内での原子過程、放出されるEUV光を含む放射などに変換されます。プラズマは時間的・空間的に変化しますので、プラズマや放射を含め、流体計算します。大規模な計算ですので、スーパーコンピューターを使います。(b) EUV変換効率の密度勾配長、レーザーパルス幅依存性。プラズマの密度勾配が長く、CO2レーザーのパルス幅が短いときに、EUV変換効率が増加します。なお、CO2レーザーのパルス幅が15 ns、プラズマの密度勾配が100 µmかそれ以下では、EUV変換効率は6%以下と計算されますが、これが今の実用機の変換効率に対応します。
 

 現在の5 nmノードテクノロジーのみならず、2 nmノードテクノロジーとそれ以下のテクノロジーの回路パターンの微細化に向け、露光機の光学系の開口数を大きくしていくのに伴い、EUV光源の高出力化と高効率化が必要です。露光機の消費電力は1台あたり1 MWを超えており、大きな消費電力が電力需要に与える影響が大きくなりつつあり、露光機の省エネ化は非常に重要な課題です。露光機の消費電力に大きく関係するのはCO2レーザーの消費電力とEUV光源の変換効率です。特に、放電レーザーのパルスCO2レーザーには高出力化が求められていますが、この消費電力が非常に大きいのが問題です。今以上にEUV光源を高出力化するにあたり、CO2レーザーの高出力化とEUV変換効率の高効率化が必要です。
 

研究の方法

 本研究では、大阪大学のスーパーコンピュータ (SQUID) を使って数値シミュレーションを行いました。国内外の原子物理やプラズマ科学の研究成果を取り入れた放射流体シミュレーションコード (Star2D) をコンピュータ上で走らせることにより、レーザー光をスズに照射したときに発生する高温気体(プラズマ)の密度、温度や運動、プラズマからのさまざまな波長の発光を計算することができます。先端半導体を製造する技術である半導体リソグラフィーの光源として用いられる波長13.5 nmのEUV光をどのようにすれば効率よく発光させることができるかを計算によって明らかにしていく中で、従来の効率を凌ぐ高効率が得られる条件を見出しました。

研究成果

 本論文では、レーザースポット径、プラズマスケール長、CO2パルス持続時間などのさまざまな要因が、プラズマパラメーター、EUV光の変換効率およびスペクトル純度にどのように影響するかについて包括的に議論しました。レーザーパルスの持続時間や予備成形プラズマのスケール長を調整することにより、EUV変換効率を現在の約5%から10.3%まで向上させるための指針を明らかにしました。本論文は、基礎となる詳しい物理プロセスを説明し、先行研究の結果と詳しく比較することで、今回の研究がそれらをどのように補完あるいは裏付けるかを説明しました。Snプラズマの挙動を説明し、これまでに得られた主要な結果をまとめました。なお、査読者からは、「この論文は、かなりのインパクトを持つはずである。」とのコメントもありました。

今後の展望

 近年の国際情勢を反映したエネルギー問題の高まりとともに電力需要が逼迫している中、EUV露光機の消費電力を大きく下げる見通しもなかなか立っていません。EUV光源の変換効率の理論上限が従来よりも大きく向上し、10.3%であることとその条件も明らかにしたことは先端半導体分野に大きなインパクトを与えるものです。今後、原理実証機や実用機のEUV変換効率の高効率化への指針が明らかになり、EUV変換効率はさらに向上すると期待されます。EUV光源の高出力化のみならず、CO2レーザーの出力および消費電力を抑制できることを意味します。従いまして、先端半導体の製造によるデジタルトランスフォーメーション (DX) だけでなく、脱炭素化と経済活性化のためのグリーントランスフォーメーション (GX) にも寄与します。

論文情報

論文名:Optimization of Extreme Ultra-Violet light emitted from CO2 laser-irradiated tin plasmas using 2D radiation hydrodynamic simulations
雑誌名:Optics Express
著者:Atsushi Sunahara, Ahmed Hassanein, Kentaro Tomita, Shinichi Namba, and Takeshi Higashiguchi
URL:https://doi.org/10.1364/OE.497282

用語説明

注1:波長が13.5 nmの極端紫外光。一般的にEUVの波長領域は広く定義されるが、露光機に用いられるMo/Si多層膜鏡により、EUVリソグラフィーでは波長が13.5 nm(波長幅2%)に限定される。
注2:高出力のガスレーザー。放電方式であり、消費電力が大きいことが問題。
注3:入射したレーザーエネルギーに対する出力されるEUV光エネルギー比。
注4:環境分野でも用いられるのが放射流体である。ここでは、レーザー光をエネルギー源として、プラズマの生成、膨脹、放射を流体計算している。計算規模が大きいため、スーパーコンピュータを用いた。

英文概要

We studied Extreme Ultra-Violet (EUV) emission characteristics of the 13.5 nm wavelength from CO2 laser-irradiated pre-formed tin plasmas using 2D radiation hydrodynamic simulations. Our results indicate that when a CO2 laser irradiates pre-formed tin plasma, the heated plasma expands towards the surrounding plasma, steepening the density at the ablation front and lowering the density near the laser axis due to the transverse motion of the plasma. Consequently, the laser absorption fraction decreases, and the contribution to EUV output from the ablation front becomes dominant over that from the low-density plasmas. We estimated that an EUV conversion efficiency of 10% from laser to EUV emission could be achieved with a larger laser spot size, shortened laser pulse width, and longer pre-formed plasma density scale length. Our results offer one optimizing solution to achieve an efficient and powerful EUV light source for the next-generation semiconductors.

【お問い合わせ先】

(研究内容について)
国立大学法人 宇都宮大学 学術院(工学部 基盤工学科) 教授 東口 武史
TEL:028-689-6087 FAX:028-689-6009 
E-mail:higashi*cc.utsunomiya-u.ac.jp

米国パデュー大学 極端環境物質センター 主任研究員 砂原 淳
TEL:+1-765-496-3852 E-mail:asunahar*purdue.edu

国立大学法人 北海道大学 大学院工学研究院 准教授 富田 健太郎
TEL:011-706-5594 FAX:011-706-7128 
E-mail:tomita.kentaro*eng.hokudai.ac.jp

国立大学法人 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授 難波 愼一
TEL:082-424-7615 FAX:082-424-7615 
E-mail:namba*hiroshima-u.ac.jp

(報道内容について)
国立大学法人 宇都宮大学 広報室
TEL:028-649-5201 FAX:028-649-5026 
E-mail:kkouhou*miya.jm.utsunomiya-u.ac.jp

米国パデュー大学 極端環境物質センター
TEL:+1-765-496-9731 
E-mail:hassanein*purdue.edu

国立大学法人 北海道大学 社会共創部 広報課
TEL:011-706-2610 FAX:011-706-2092 
E-mail:jp-press*general.hokudai.ac.jp

国立大学法人 広島大学 広報室
TEL:082-424-3749 FAX:082-424-6040 
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


up