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【研究成果】詩歌の五七調が「美しさ」の評価を高める ~詩作やキャッチコピーへの応用に期待~

本研究成果のポイント

  • 日本語の詩歌にみられる5音と7音のリズムは、詩歌の「好ましさ」、「穏やかさ」、「美しさ」の評価を高めることがわかりました。
  • 同じ音が一定の間隔で繰り返し現れる詩歌は、「激しさ」の印象を増す可能性も示唆されました。
  • 詩歌のリズムを活用し、人の心に響く詩作技法や、広告・キャッチコピーなどへの応用の進展が期待されます。

概要

 広島大学大学院人間社会科学研究科の博士課程前期1年 吉尾 瑞希、神原 利宗 准教授は、日本語詩歌の音に注目し、どのような音の特徴を持つ詩歌が、好ましさ、穏やかさ、美しさの評価を高めるかを検証しました。実験1では実際に存在する詩歌(新古今和歌集収録の和歌)を、実験2では実験者が作成した擬似的な詩歌を用いました。本研究で検討した音の具体的な特徴は、5音と7音の繰り返しからなるリズム(韻律)と同じ音が句の最初に繰り返し現れること(頭韻)です。実験では、韻律と頭韻の有無を操作した詩歌の音声を提示した後に、日本語を母語とする参加者に主観的な評価を求めました。その結果、韻律のある詩歌では、好ましさ、穏やかさ、美しさの評価が高いことがわかりました。また、韻律と頭韻の両方がある詩歌は、韻律があって頭韻がない詩歌より激しい印象を与える可能性が示唆されました。
 本研究成果は以下の査読付き国際誌に掲載されました。

掲載雑誌名:Psychology of Aesthetics Creativity and the Arts
掲載日:2025年11月10日(オンライン先行公開)
DOI:https://dx.doi.org/10.1037/aca0000804
タイトル:
“Alliteration and Meter in Japanese Real- and Pseudopoems: Emotional and Aesthetic Impacts”
著者:吉尾 瑞希、神原 利宗
所属:広島大学人間社会科学研究科心理学プログラム

背景

 日本語話者は、なぜ日本語の詩歌に心惹かれるのでしょうか。日本語の定型詩は、5音と7音の繰り返しを特徴としています。たとえば、日本最古の詩歌集である万葉集は、5音と7音を決まった周期で繰り返す詩歌を4500首以上集めたものです。万葉集の成立は奈良時代で、それ以降、和歌(短歌)、長歌、川柳、俳句、都々逸など、同じリズムを持つ詩歌は、長い間日本語話者に愛されてきました。現代でも、短歌や俳句を読んだり作ったりする人は少なくありません。最近ではSNSで「#tanka」のハッシュタグで短歌を投稿する若者も増えています。こうした事実から、詩歌の形式には、時代を超えて愛される魅力があると考えられます。
 しかし、日本語詩歌の音の特徴に注目した心理学的研究は少ない状況です。英語やドイツ語など、日本語とは異なるリズムや文法を持つ言語での詩歌研究は進みつつありますが、日本語の特徴を踏まえた体系的な研究はほとんど未開拓と言えます。そこで、本研究では、日本語のリズムや音の重なりに注目し、実験的な検討を行ないました。

研究成果の内容

 実験1では、同じ音が繰り返される詩歌(頭韻あり)と繰り返しのない詩歌(頭韻なし)を実在の詩歌から選び、日本語を母語とする参加者に、音声で提示しました。参加者は、好ましさ、穏やかさ、美しさ、理解しやすさを評価しました。分析の結果、頭韻ありの詩歌と頭韻なしの詩歌の間に、統計的に有意な差はみられませんでした。実験に使った詩歌は古語でしたが、語彙の意味(たとえば、「桜」や「ふね」など)が評価に影響を与えた可能性があります。
実験2では、リズム(韻律)を検討に加えました。実験1で使った頭韻ありの詩歌と頭韻なしの詩歌を基に、57577のリズムを保った詩歌(韻律あり)と、68359などそのリズムを崩した詩歌(韻律なし)を作成し、材料として使用しました。この材料は、単語が持つ辞書的な意味の影響を除いて音の特徴に注目するために、日本語として意味を持たない擬似詩歌としました。評価の項目は、好ましさ、穏やかさ、美しさと、有意味度(どれくらい意味があるか/ないか)でした。分析によると、韻律のありの詩歌は、頭韻の有無にかかわらず、韻律なしの詩歌よりも好ましさ、穏やかさ、美しさ、有意味度の評価が高くなることがわかりました。韻律ありの詩歌は、日本語母語話者にとってなじみ深いリズムであるため予測しやすく、心の中の処理が容易になると考えられます。逆に、韻律なしの詩歌は、どのような音が次に続くか、予測ができません。筆者らは、韻律ありの詩歌の方が好ましさや穏やかさ、美しさの評価が高まった理由は、以上のような詩歌の心の中の処理を想定することで説明できると考えています。
 また、頭韻については、韻律と頭韻の両方がある条件で、頭韻だけがない条件よりも穏やかさの評定が低い、つまり、より激しいと評価されることがわかりました。
 本研究は、今まで検証されてこなかった日本語詩歌の音の特徴が人の心にもたらす影響について明らかにしました。本研究の強みは、日本語の特徴を考慮して実験材料を作ったところにあります。韻律や頭韻の効果は外国語の研究で示されてきましたが、本研究によって、日本語でも同様にポジティブな影響があることがわかりました。また、リズムが決まった詩歌は心地よく鑑賞できる、という直観がデータによって支持されたともいえるでしょう。本研究は、「日本語詩歌がなぜ千年以上も詠み継がれてきたのか」という問いに、「リズムが心地よいからである」と答えられるような、ひとつの証拠を示しました。

今後の展開

 本研究から、詩歌のリズムや音の繰り返しといった特徴は、詩歌を耳で聴いたときの評価を高めるということが明らかになりました。しかし、詩歌は耳で聴いて楽しむだけでなく、文字で読んで楽しむこともできます。今後は、音声での提示だけでなく、視覚的に提示した場合の評価についても検討していく予定です。
 本研究の知見から、詩作において日本語のリズムを取り入れることで、詩歌の美しさの評価を高められる可能性が示唆されます。また、広告やキャッチコピーにも詩歌のリズムを活用することができると思います。受け手に好ましさや美しさを感じさせたいような広告などのメッセージでは、韻律を利用するのがよいかもしれません。具体的には、商品名や広告文に5音と7音のリズムを取り入れると、より印象的になる可能性があります。

参考資料

 主観的な評価:反対の意味を持つ形容詞のペア(「好き⇔嫌い」、「激しい⇔穏やか」など)を両端に配置した7段階の尺度(1~7)を用いました。参加者は各詩歌を聴いたあと、自分の感覚に最も当てはまると思う数字を、素早く直感的に選ぶように求められました。このような尺度を用いることで、詩歌への印象を数量的なデータとして収集することができます。この手法は意味、感情、印象を測る際に、心理学で広く用いられています。

【お問い合わせ先】

広島大学大学院人間社会科学研究科人文社会科学専攻心理学プログラム
博士課程前期1年 吉尾 瑞希
准教授 神原 利宗
Tel:082-424-6280 FAX:082-424-3481
E-mail:m252758@hiroshima-u.ac.jp
         tkambara@hiroshima-u.ac.jp


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