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【研究成果】小惑星リュウグウから予想外の巨大有機分子を発見 ―従来の常識を覆す立体構造を持つ巨大有機分子を直接観察―

本研究成果のポイント

  • 高分解能の原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、リュウグウ試料から抽出された個々の有機分子の骨格構造を直接観察しました。
  • 従来の分析では確認されていなかった、環の数が100個を超えるような巨大な有機分子を多数発見しました。
  • この成果は、太陽系形成以前の星間分子雲から小惑星へと受け継がれた有機分子の進化過程を解明するための極めて重要な手がかりとなります。

原子間力顕微鏡によって小惑星リュウグウからの試料に含まれる有機分子を観察した(©JAXA、東京大学など)

概要

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の岩田孝太特任研究員(研究当時)と杉本宜昭教授の研究グループは、北海道大学低温科学研究所の大場康弘准教授、九州大学大学院理学研究院の奈良岡浩教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科薮田ひかる教授、東京大学大学院理学系研究科の橘省吾教授の研究グループと共同で、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウ(注1)から持ち帰った試料に含まれる有機分子を、高分解能の原子間力顕微鏡(AFM、注2)を用いて単一分子レベルで直接観察することに成功しました。本研究により、従来の分析手法では見逃されていた100環を超える巨大な有機分子の存在が明らかになりました。これらの有機分子は、5員環(注3)や7員環、さらには8員環といった多様な環構造を含んでおり、平面ではなく立体的な構造を持っていることが分かりました。この成果は、太陽系形成以前の星間分子雲から小惑星へと受け継がれた有機分子の進化過程を解明するための極めて重要な手がかりとなります。

発表内容

【研究の背景】 
 宇宙空間に存在する多様な有機分子は、太陽系が形成された際の化学進化(注4)の情報を保持しており、それらが初期の地球にもたらされたことで生命の誕生に寄与したとも考えられています。そのため、宇宙由来の有機分子がどのような構造を持ち、どのように形成されてきたのかを解明することは、現代の宇宙化学における重要なテーマです。
 2020年、探査機「はやぶさ2」によって小惑星リュウグウの新鮮な試料が地球に届けられ、世界中で分析が進められてきました。これまでの質量分析を中心とした研究では、リュウグウには数万種類もの有機分子が含まれていることが明らかになっています。その中でも注目されてきたのが、ベンゼン環がいくつも連なった分子「多環芳香族炭化水素」です。これまでの研究では、環の数が4つ程度の比較的小さな分子(ピレンやフルオランテンなど)が主に存在すると報告されてきました。しかし、化学的な抽出や質量分析には限界があります。極めて巨大な分子や、溶媒に溶けにくい不溶性有機物のような成分は、従来の「重さを量る」手法ではその詳細な構造を特定することが困難でした。

【研究の内容と成果】
 本研究グループは、個々の分子の形を直接「見る」ことができるAFMを用いて、リュウグウの有機分子の正体に迫りました。本研究では、リュウグウ試料から抽出した有機分子を銅の単結晶基板上に蒸着させ、極低温(5 K(ケルビン)=マイナス約268.15℃)かつ超高真空の環境下でAFM観察を行いました。この手法は、探針の先端に一酸化炭素(CO)分子を付着させることで、分子内の原子間の結合までも可視化できます。
 観察された22個の分子のうち、多くの分子がこれまでの予想を遥かに上回る巨大な構造を持っていました(図1)。最大のものでは環の数が100を超え、見積もられる分子量は3,000以上に達します。これは従来の質量分析で主に検出されていた分子(分子量200〜500程度)とは異なる、新たな有機分子を可視化したことを意味します。これらは、従来の定義で不溶性有機物に相当するサイズでありながら、巨大な一つの芳香族骨格として存在していることが初めて直接証明されました。
 さらに内部構造を詳細に解析したところ、主要な六角形の環(6員環)に加えて、5員環や7員環、稀に8員環が含まれていることが分かりました。これら特殊な環状構造が存在することで、分子は平坦ではなく、立体的にゆがんだ複雑な3次元構造をとっていることが明らかになりました。

【今後の展望】
 本成果は、太陽系形成以前の星間分子雲(注5)から小惑星へと受け継がれた有機分子の進化過程を解明するための極めて重要な手がかりとなります。また本研究により、地球外試料に対して高分解能AFMを用いた分子構造の直接観察が極めて有効であることを実証しました。質量分析などの従来の手法では分析が困難であった巨大で複雑な有機分子に対して、AFMは「個々の分子の形を直接可視化する」という強力かつ相補的な情報を提供します。今後は、この革新的な測定手法をより広範な地球外試料に応用していくことで、宇宙における有機分子の化学進化の過程、さらには太陽系の形成や地球生命の起源へとつながる物質進化の全容解明に向けた研究が飛躍的に進展すると期待されます。

図1 小惑星リュウグウに存在した多様な有機分子のAFM画像
それぞれの有機分子について、AFM画像と構造モデルを重ねたAFM画像を並べている。構造モデルの赤、青、水色、オレンジはそれぞれ5員環、6員環、7員環、8員環を表す。全画像のスケールバーは1 nmを示す。(原論文の図を改変したものを使用しています。)

研究助成

 本研究は、科研費「学術変革領域研究(A)(課題番号:JP20H05849)」、「基盤研究B(課題番号:22H01950)」、科研費「若手研究(課題番号:23K13665)」、科研費「基盤研究A(課題番号:23H00148)」の支援により実施されました。

発表者・共同研究グループ情報

東京大学
 大学院新領域創成科学研究科
  岩田孝太 特任研究員:研究当時
  杉本宜昭 教授
 大学院理学系研究科
  橘省吾 教授

北海道大学低温科学研究所
 大場康弘 准教授

九州大学大学院理学研究院
 奈良岡浩 教授

広島大学大学院先進理工系科学研究科
 薮田ひかる 教授

論文情報

雑誌名:Nature Communications
題 名:Chemical structure of organic molecules in asteroid Ryugu revealed by high-resolution atomic force microscope
著者名:Kota Iwata*, Yasuhiro Oba, Hiroshi Naraoka, Hikaru Yabuta, Shogo Tachibana, and Yoshiaki Sugimoto*
DOI: 10.1038/s41467-026-71484-y
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-026-71484-y

注意事項(解禁情報)  

日本時間4月14日18時(英国夏時間14日午前10時)以前の公表は禁じられています。

用語解説  

(注1)小惑星リュウグウ:
 太陽系誕生時の情報を色濃く残す炭素質の近傍小惑星。これまで、宇宙由来の有機分子の研究は主に地球に落下した隕石を用いて行われてきたが、大気圏突入時の熱や地球の生物による汚染を完全に排除できないという課題があった。しかし、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから極めて新鮮な試料を地球に持ち帰ったことで、純粋な地球外有機物の分析が可能となった。

(注2)原子間力顕微鏡(AFM):
 鋭い針(探針)を観察対象(試料)に近づけて、探針先端の原子と試料表面の原子との間に働く力を測定することで試料表面を観察する顕微鏡。試料の導電性を問わず用いることができる。

(注3)員環:
 分子中の環(リング)を形づくる原子の数を表す用語。原子5個からなる環は「5員環」、7個からなる環は「7員環」と呼ばれる。

(注4)化学進化:
 個々の原子から、分子へ、さらに巨大な分子へと多様な分子へと進化していくこと。宇宙の塵表面上で、長い時間をかけて生命の材料となるような有機分子が形成されることがわかってきている。

(注5)分子雲:
 ガスや塵が濃密に集まった宇宙空間の領域で、太陽のような星や惑星系が形成される前の状態。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
東京大学大学院新領域創成科学研究科
教授 杉本 宜昭(すぎもと よしあき)
Tel:04-7136-4058 E-mail:ysugimoto*k.u-tokyo.ac.jp

北海道大学低温科学研究所
准教授 大場 康弘(おおば やすひろ)
Tel:011-706-5500 E-mail:oba*lowtem.hokudai.ac.jp

広島大学大学院先進理工系科学研究科
教授 薮田ひかる(やぶた ひかる)
Tel:082-424-7474 E-mail:hyabuta*hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>
東京大学大学院新領域創成科学研究科 広報室
Tel:04-7136-5450 E-mail:press*k.u-tokyo.ac.jp

北海道大学 社会共創部 広報課
Tel:011-706-2610 E-mail:jp-press*general.hokudai.ac.jp

広島大学 広報室
Tel:082-424-3749 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp
 

 (*は半角@に置き換えてください)


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