第38回 片山 郁夫 准教授(大学院理学研究科)

「とにかく、やってみる!」金星、地震、地熱発電の最新研究に挑戦

大学院理学研究科地球惑星システム学専攻 片山 郁夫(かたやま いくお) 准教授

に聞きました。(取材:広報グループ 2014.6.10)

 

はじめに

岩石変形実験や野外調査から、地震を含む変動帯の研究を行っている片山先生。「とにかく、やってみる!」をモットーに、これまでさまざまな研究成果を出してきました。

その1つが、平成26年3月に、理学研究科博士課程後期3年(当時、現在修了生)の東真太郎さんらと発表した「金星にプレートテクトニクス(※)が存在しないのは、内部での粘性構造が原因である」という新説です。

地球ではプレートテクトニクスが働いているため、海が形成され生命が誕生しました。金星でプレートテクトニクスが働いていない原因が解明されれば、なぜ地球と金星は大きさが似ていながら異なる姿をしている理由や、他の惑星の進化や生命の存在に関して新たな知見が得られると期待されます。

この成果は、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました(掲載ページはこちら)。

(※)プレートテクトニクス・・・地球の表面を構成する十数枚のプレートが、内部に対流するマントルに乗って移動していることを説明する学説。

このようなテーマに加え、地震や地熱発電といったテーマを研究している片山先生。今回のインタビューでは、現在の研究内容や研究者として大切にしていることを伺いました。

 

「岩石変形学」から地震のメカニズムを研究

片山先生の専門分野は「岩石変形学」、そして現在の研究内容は「地震発生のメカニズム」です。〝岩石〟と〝地震〟には、どのような関係があるのでしょうか?

「地球は岩石からできています。表面は20℃くらいですが、内部に行けば行くほど熱くなり、高いところでは6,000℃に達します。そのため、岩石はドロンとした水あめのようになり、ゆっくりと流動しています。その流動が、地球の表面で起きる地震、火山噴火などの現象と密接に関わっていると考えています。そこで、火山やプレート付近で採取した岩石に実験室で高温・高圧を加え、地球内部と同じ条件を再現し、岩石の流動性を明らかにする研究を主に行っています」と先生。

地球内部で流動する岩石から地震の発生メカニズムを追求することで、「いつ・どこで地震が起こるか」という問いの解明に挑んでいます。

 

水が地震を誘発する!?

一般的には、「一方のプレートに引きずられたもう一方のプレートが、元に戻ろうとするときに生じる力」が地震の原因だと言われています。

「多くの人は、平面で描かれたプレートの図を見たことがあるのではないでしょうか。しかし、実際のプレートは三次元でさまざまな境界面を持っています。〝プレート同士しっかりくっついている面〟もあれば、ズルズルと滑っていて〝しっかりくっついていない面〟もあります。本来しっかりとくっついているはずの面が滑ってしまうことで、地震が発生するのです」と先生。

ホワイトボードを用いて説明をする片山先生

なぜ、固いプレートが滑りやすくなってしまうのでしょうか?驚くべきことに、その一因は、〝水〟であると先生は指摘します。

「実は、海水の総量の3~4倍もの水が岩石中の水酸基(OH基)などの形で、地球の内部に蓄えられていると言われています。そして、水があると岩石が滑りやすくなることは、室内実験でも証明されています。それらを踏まえて、地球内部の水の流れや水が溜まっている分布を分析することで、地震のメカニズムを解明しています」

地震と水の関係については、過去にも興味深い例があるそうです。

「イタリアでダムを建設し、貯水したところ地震が起き、ダムは崩壊し、流域の村も壊滅しました。また1960年代、アメリカ軍が汚水を廃棄するために、地中に注入した結果、その周りで地震が頻発したという事例も報告されています。いずれも〝水〟が絡んでいます」

先生が行っている研究は、地震予知や防災上欠かせないものであると同時に、地球の絶妙なバランスの中で私たちが暮らしていることを再認識させてくれます。

 

「地熱発電」にも取り組む!

 片山先生は、地震の発生メカニズムの解明以外にも、最近「地熱発電」の研究に取り組み始めています。なぜ「地熱発電」なのでしょうか?

地熱発電を研究し始めた理由を説明する片山先生

「石油は約40年後にはなくなり、その他の化石燃料も約120年後には枯渇すると言われています。そこで期待されているのが、現在まだ供給量は少ないですが、風力発電、太陽光発電、そして地熱発電といった再生可能エネルギー(※)です。その中でも、地熱発電に注目しています。私が研究している地球内部の水の動き、岩石の破壊や滑りなどが地熱発電と密接に関わっているからです」と先生。

(※)再生可能エネルギー・・・自然現象から取り出すことができ、半永久的に使用できる。
         
 片山先生は地熱発電のメリットを次のように解説します。

「地熱発電は設備さえ作ってしまえば、季節、昼夜の区別なく一定量を安定して発電できるようになるでしょう。なぜなら、火山大国である日本の地下深部にはマグマが存在し、膨大な熱エネルギーが眠っているからです。地熱発電はこのエネルギーの一部を蒸気という形で取り出し、利用します。さらに、CO2排出量が少なく(火力発電の1/20)、環境に優しいこともメリットです。今後地熱から効率よくエネルギーを抽出する技術開発が進めば、全世界のエネルギー消費量を地熱発電だけでまかなうことも不可能ではないかもしれません」

 地熱発電の中でも、特に「高温岩体発電」に強い関心を持っていると先生は言います。

「高温岩体発電とは、地下に水を注入し、人工的に水循環システムを構築する発電方法です。この方法を用いれば、天然の熱水溜まりがないところでも発電が可能となり、利用可能地域も格段に広がります」

しかし、良いことばかりではなく、「エネルギー回収率が悪い」「水圧破壊(※)による地震の誘発も想定される」などの欠点もあるようです。

先生は、「私がこれまでの地震研究で培ってきた技術や成果を生かして、諸問題を解決し、高温岩体発電の実用化を目指したいです」と今後の抱負を語ります。

(※)水圧破壊・・・圧力のかかった水が岩盤を押し広げようと働き、微小な亀裂(きれつ)が入ること」 

 

「とにかく、やってみる!」何事にもチャレンジできるのが、地球惑星システム学

「いろいろ考え過ぎると行動できないタイプ」と自己分析する片山先生。そんな先生の座右の銘は「とにかく、やってみる!」。研究の世界には、やってみなければわからないことが本当に多いそうです。

「文献を調べてみると、『このテーマに関しては、もう新しく研究することは何も残ってないのでは?』と一見思われることでも、自分で再現してみると、意外にも文献の結果が違っていたり、条件を変えてみると全然再現性がなかったりします。やっぱり、やってみなければわかりません。『考えすぎる前に、まずは手を動かす』、これが私の研究スタイルです」と先生。

この「とにかく、やってみる!」ことが、地球惑星システム学という分野に合っていると先生は補足します。

「自分の専門分野だけにどっぷり漬かる方が、細かいところに手が回るし、居心地も良いでしょう。しかし、地球惑星システム学は、地球を中心に、地質・鉱物学、物理学、化学の分野が融合して成り立っています。そのため、自分の専門外のこともどんどん学ばなければなりませんが、その分『知りたい!』『自分の研究に生かせるのでは?』という気持ちが強くなります」

 

新しい発見があると、「眠れないくらい興奮する」

新しい発見をしたときが、一番やりがいを感じると先生は言います。

「研究者なら誰でもそうだと思いますが、『世界中で誰も知らないことを自分だけが知っている』、こんなにも楽しくてワクワクする瞬間はないですね。本当に楽しくて眠れなくなりますよ(笑)」

誰もやってないことを明らかにしていく、これこそが科学の醍醐味と先生は語ります。

新発見の喜びを語る片山先生

ノーベル賞を受賞した優れた基礎研究でさえ、さまざまな解析に応用され、社会の貢献につながるのに30年もの年数を要したことを例に挙げ、先生は今後の展望についてこう続けます。

「限られた分野でしか役に立たないと思われていたことが、別の分野、ひいては社会全体の役に立つようになることもあります。『今の社会ではあまり必要とされていない研究』にも目を向け、可能性の芽をつぶすことのないように心掛けたいです。同時に、今の社会へ還元できる研究成果を今後も出し続けていきたいです」

あとがき

最初は「地球で起きていることをもっと知りたい!」という漠然とした動機で、地球惑星システム学を学び始めたそうです。「知りたい!」という好奇心や、「やってみよう!」という挑戦する気構えが、新たな研究成果につながっていることを目の当たりにしました。自分の感性を大切にする一方で、「自分の好奇心を満足させるだけでなく、世の中の役に立つことにも注力したい」と真摯(しんし)に語る先生。先生の熱い人柄と地球の奥深さを感じ、もう一度大学生をするなら、地球惑星システム学を専攻したいと思いました。(i)


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