今春から広島大学の助教となり、現在アメリカの大学に留学中の片山春菜(かたやまはるな)さん。広島大学総合科学部を卒業後、修士課程を経て博士課程へと進学されたきっかけやキャリアプランについて語っていただきました。
なぜ博士課程に進学しようと思いましたか?
学部生のときも修士のときも進学か就職かで悩みました。みんなが就職していくなかで、私だけがこのまま学生を続けていていいのかという焦りもありましたし、早く就職して親を安心させたかったからです。
様々なインターンシップも経験しました。学部3年生の時に飲食業界の営業のインターンに参加し、修士になった当初も博士課程に進むことを考えていなかったので、夏に2週間の情報系インターンに参加しました。どちらも自分には向いていないと感じ、大学で学んだことをもっと活かしたいという気持ちが強くなりました。与えられた業務をこなすことももちろん大事ですが、自分でスケジュールを立てて研究する方が自分には合っていると感じました。修士の春には研究職のインターンに参加したのですが、参加者の大半が博士課程の学生で、自分の知識不足を思い知らされました。博士号を持っていないと理論研究者としての就職は難しいという話も聞いていたので、博士号を取らなければ、との思いが強くなりました。
博士課程に進学して大変だったことや、進学する際に不安だったことはありますか?
博士課程に進学するかどうかを決める時が一番しんどかったですね。
早く就職したい気持ちと研究を続けていきたい気持ちがあって、研究職以外の職種で就職するか、研究職を目指して博士課程に進学するか、どちらの人生が幸せなのか悩みました。研究職を目指す場合、定期的な求人がなく将来のポストが確約されているわけではないため、不安定な将来への覚悟も必要でした。自分が研究者としてやっていけるのか不安もありましたし、何度も自問自答しました。
進学するかどうか、随分悩まれたんですね。悩んでいたとき、誰かに相談していましたか?
指導教員である畠中先生がすごく親身になって話を聞いてくださいました。一般企業で働いていた経験もお持ちだったので、企業と大学それぞれの様子が分かって本当に参考になりました。
家族も進学を応援してくれて、やりたいことをやったらいいと背中を押してくれました。進学しようと決断できたのも、進学に対して理解がある人たちに恵まれたことが大きかったと思います。
現在の研究テーマについて教えてください。
未解決課題であるブラックホールからの輻射(ホーキング輻射)の存在を明らかにすることが研究テーマです。電気回路において擬似的なブラックホールを作って、それを用いたレーザー理論を構築しています。もともと宇宙の研究をしていたわけではなく、学部4年生のときに電子回路の中に波が伝わっていく様子を研究していて、その波がブラックホールになるのではないかという具合に発展していきました。
なるほど。片山さんがこうした理系の科目に興味を持たれたのはいつ頃ですか?
小学生のころから、はっきりとした答えがある算数や理科が好きでした。
暗記科目だと忘れてしまいますが、計算の仕方は一度理解すると忘れないので(笑)。
将来のキャリアプランについて教えてください。
このまま研究を続けることができて、海外の研究者とも対等にわたりあえるようなグローバルな人材になれたらいいなと思っています。未来に役立つような新しい発見ができたら嬉しいです。
キャリアプランを考えるうえでロールモデルとなった方とかいらっしゃいますか?
現在所属している研究科の物理の先生は全員男性なので、直接自分に置き換えることは難しいのですが、指導教員の先生のようになりたいと考えています。同じ分野で博士課程まで進学している女性は少ないですね。
広島大学で学んで良かった点はありますか?(教員、先輩、施設など)
一番は、自分のやりたいことが見つかったことです。高校生のときは何を学んだらいいのかも全く分かっていなかったのですが、総合科学部だったこともあって、1年目は広く色々な分野のことを学び、2年目から専門分野を中心に据えながら他の分野を学べたので多角的な視点を身につけることができたと思っています。その視点が今の研究にも役立っています。
もう一つは、人との出会いに恵まれたことです。指導教員の先生はもちろん、広島大学には最先端の研究をされている先生もいて、親身になってくださる先生も多いです。総合大学ならではかもしれませんが、様々な分野の友人ができたことも良かったと思います。
国際会議に行くための費用や論文掲載料などに対して、大学から支援を受けることができたのも大変助かりました。経済的な負担も減って、積極的に海外で論文発表しようという意思に繋がりました。
女性が大学院を目指しやすい環境にするために必要とされることは何だと思いますか?
女性研究者の場合、結婚や出産などのライフイベントのためにブランクができて、うまくいかないのではないかと不安に思っていました。
でも女性研究者に対する支援がたくさんあることを知った今では、不利に感じる必要はないと分かりました。大学院への進学を悩んでいる人たちにも届くように、こうした支援制度について広く周知したり、何十年後かの自分が想像できるようなロールモデルを紹介していけば、「自分もやってみよう」と思う学生が増えるのではないかと思います。
「女性は理系に向かない」という先入観が社会だけでなく、女性の間にもあるという指摘は当たっているのでしょうか?
事実、女性で物理を専攻している人はとても少ないのでそういう声があるのは仕方ありませんが、向かないというのは違うのではないかと思います。周りがそういった先入観を植え付けないことが大切です。女性は理系に向いていないという考えがある教師が仮にいたとしたら、直接言葉にしなかったとしても生徒たちに伝わりますし、そう思い込むのではないでしょうか。
女性の活躍をクローズアップしてほしい一方で、女性ばかりが特別扱いされるようでも困ります。男女関わらず頑張っている人がしっかりサポートされる社会を望みます。
博士課程への進学を考えている後輩にアドバイスをお願いします。
学位記授与式後にアカデミックガウン姿で
私も進路のことでたくさん悩みましたし、不安なことが多かったです。そういう時は、自分がやりたいことや一番楽しいと思えることを優先して選んできたので、自分がやりたいことは何なのかをしっかり考えることが大切だと思います。困難や逆境は必ずあると思います。それに負けず頑張ってほしいですね。
2022年3月 取材・写真/広報グループH
取材場所/法人本部棟