第21回 ヤニナ・ハースさん&庄司彩さん

「第三の故郷」

■ ヤニナ・ハース (写真左)
国籍:ドイツ
専門:日本学
所属:HUSA(ドイツでの所属:ハンブルク大学東洋学部)
趣味:読書、写真、料理、ハイキング

■ 庄司 彩 (写真右)
国籍:日本
専門:人文学
所属:文学研究科博士課程前期
趣味:読書、テニス、クラシック音楽鑑賞

(2012年12月17日にインタビュー)
           
『留学生インタビュー』バックナンバー

 

今日はインタビューを受けて下さりありがとうございます。まず彩さんに伺いたいのですが、どうして留学に興味を持ったのですか?

彩: はい、大学に入った頃から海外に行きたいとは思っていましたが、もともとドイツにすごく興味があったので、詳しく学ぶと言うか、本当の所を見るにはやはり留学かなと思い、留学を決めました。

そもそも、どうしてドイツに興味を持ったのですか?

彩: 小学生の頃から、ドイツのミヒャエル・エンデ等の本が好きでした。ベートーベンやブラームス等のクラシック音楽を聴いたり、ピアノで演奏したりするのも好きで、そうしたことがきっかけですね。

ドイツの本のどんなところが好きなのですか?

彩: 私は児童文学とかファンタジーが好きなんですけれど、イギリスのものなどと比べると、ただ読んで楽しいだけじゃなくて読み終わった後にちゃんと考えないといけない文学なんだなあっていうのがあって、そこが好きですね。

ドイツについて、HUSAプログラムで行くまで、どんな風に感じていましたか?

彩: そうですね、何だかメルヘンというか、いわゆる西洋の、「ヨーロッパ」って言う感じの、漠然とした思いはありました。

ドイツ語はいつから勉強されたのですか?

彩: 大学1年からです。最初はやはり文法から入ったんですが、文法を教えて下さった先生がすごく良い先生だったので、それでますますドイツ語への興味が増したんです。文法というと面倒だと思われがちですが、そこを楽しんで学べたというのが大きかったです。それと、やはり文法だけじゃなくてネイティブの先生の授業もありますし、ドイツに留学していた時はなんといっても、現地の人との交流というか会話ですね、その会話で一番ドイツ語の力がついたんです。

ハンブルクに実際に行ってみて、何を感じましたか?

彩: 最初はとにかく「寒い!」って思いました。九月の中旬だったのですが、朝夕は本当に寒かったですね。あとは、本の中でしか知らなかった「石畳の通り」というものがけっこうあって、自分で歩いていることに凄くわくわくしました。

ハンブルクではどんな生活だったのですか?

彩: 大学の寮に入っていました。そこは地元出身だけじゃなくて、ハンブルク市内のいろんな大学生が入っていて、国際色も豊かで。隣の人はメキシコ人の女の子でした。今になって振り返ってみると、もう全部楽しかったなあって思います。困ったこともあったけど、それより楽しかったことのほうがやはり思い出には残っています。

楽しかったことといえば、例えば?

彩: 例えば、クリスマス・マーケット。ドイツのどこにでもあるんですが、すごく綺麗だったし、いろんな人と行けて楽しかったです。あと、ハンブルク独特のものというと、年に三回のハンブルガー・ドームという移動遊園地があります。そこは観覧車やジェットコースターなどのアトラクションが色々あって、入るのはタダなんですけど、屋台で買うときや乗り物に乗るときに何ユーロか払います。

ハンブルク大学では何を専攻したのですか?

彩: ハンブルク大学では、日本の学生は全員が日本学科の所属になるので、私も日本学科の所属でした。そこで、自分のドイツ児童文学の研究に役立ちそうな文献を探していました。

ドイツ文学に関する場所に行きましたか?

彩: ハンブルクでは、あまり文学関係の所へは行きませんでした。他の都市ではいろんな所に行きました。ゲーテとかシラーに関係の深いワイマールとかです。

留学してからドイツのイメージが何か変わりましたか?

彩: 以前は、どちらかというとヨーロッパの人はヨーロッパ人というような、大ざっぱなとらえ方をしていました。それが、ドイツではドイツ人のように、それぞれの国の人の違いが分かるようになりました。なぜ分かるようになったかというのは説明しにくいです。もう一つは、ドイツ人と日本人の気質が似ているっていう話を聞いたことがあったのですが。でも、そうでもないなと思いました。

ドイツの伝統的な街 (ディンケルスビュール)

例えば、それはどういう違いなのですか?

彩: ドイツの人は主張が強いです。日本人はNoが言えないってよく言われますが、ドイツの人はみんなちゃんと言っています。逆に日本人は空気が読めるんだなあと思いました。反対に似ている点といえば「まじめ」なことですかね。どちらも、やることはちゃんとやっている、っていう感じがします。

ドイツに行かれる前は、「メルヘン」をイメージしていたのがどう変わりましたか?

彩: もちろん、街並が日本とは違っておとぎ話みたいだなというのはあったんですが、それ以外にも歴史的なところに触れる機会がありました。例えばベルリンなど旧西側の「先進国」みたいなところと、旧東側の部分が垣間見えるというか共存していたのが印象的でしたね。ハンブルクでも、戦争で空襲を受けて街がほぼ全部焼けたということで、「自分の街がなくなってしまった」という感じ方っていうのは、日本人もドイツ人も変わらないんだろうなって感じました。

彩さんがさきほどドイツ人の印象をお話しくださいましたが、ヤニナさんは、日本人にはどういう印象を持たれましたか?

ヤニナ: 彩さんの言う通りです。ドイツ人は自分の意見をはっきり言いますし、そこが日本人と違うところです。日本人は何というか、どうしてもそれが必要という場合を除けば、本音をあまり口にしませんね。

彩さんはドイツに行く前は、ドイツやヨーロッパに関して「メルヘン」というか、ロマンティックなおとぎ話のようなイメージを抱いていたようですが。

ヤニナ: それは私には理解しがたい感覚ですね。私は生まれも育ちもハンブルクですし、その他のドイツ語圏の国々も私にとってはしごく身近なものです。自分の故郷がロマンティックだなんて特に思ったことはありません。でもハンブルクは本当に良いところです。必要な物は何でも手に入るし、歴史ある建造物も多くあります。ですから建築に興味のある方々には魅力ある街だし、ぜひお勧めしたいですね。でも「ロマンティック」かと言われると・・・No!ですね。ご期待にそえなくて申し訳ないけど(笑)

彩さんがドイツに行かれた時、ロマンティックという印象だけでなく、ヨーロッパに息づく歴史を感じられたということでしたね。彩さんにとって、ドイツとは何なのでしょうか。

彩: そうですね、「ドイツ」っていわれると大きいんですけど、「ハンブルク」というと、結構長い間住んだこともあって、いうなれば第三の故郷かなと思います。

ヤニナさんはハンブルク大学で日本学を学ばれているということですが、どうして日本について学ぼうと思ったのですか。ドイツでは、日本への関心が高いのですか?

ヤニナ: いいえ、そうとは言えません。みんな興味がないわけではないけれど、日本や中国などのアジアについてはエキゾチックというか、未だ謎が多い地域という感じです。私が日本について学びたいと思ったのは、高校時代のことですが、日本語を勉強している友達がいたんです。彼女から色んなことをたくさん教わって、それで日本や日本の文化に興味を持ちました。そのうち、日本に行って日本語を本格的に勉強したいと思うようになったんです。でも日本語を理解するのは本当に難しいですね。

ハンブルク大学には日本学科があり、彩さんもそこで学ばれましたね。そこで知っている(共通の)先生はいますか?

彩: はい、総合科学研究科の先生とも親しくされている日本人の先生がいらっしゃいました。

ヤニナ: 私も前の学期にその先生の授業を受けました。日本語の新聞を読んで、翻訳するという内容です。

その授業はどうでしたか?

ヤニナ: 興味深いものでしたけど、とても難しかったです。二年間も日本語を勉強していたのに、見たこともない単語がたくさんあって大変でした。みんなで電子辞書を引きながら、「これって何?」「知らない、他の人に聞いてよ」なんて悪戦苦闘していました。全部を訳さなくてはならないんですけど、本当に全部わかる人なんて誰もいなくて。内容は興味深かったし、先生はちゃんと説明してくださったけれど、やはり全部を理解するのは難しかったですね。

ハンブルクの港

日本文化や日本の様式についても学ばれたのですね。何が一番興味深かったですか?

ヤニナ: 一番興味深かったことというと、日本では誰もがとても親切ということですね。街で迷子になっても、近くの人に聞けばいつでも助けてくれます。ドイツではあまりないことですね。

広島大学のことはどうやって知ったのですか?

ヤニナ: 私の大学は日本の複数の大学と提携していて、私達が留学先を選ぶにあたって、センパイ達が良い点と良くない点について教えてくれるんです(笑)

はじめて広島大学に来たときの印象はどうでしたか?

ヤニナ: ここに来たのは九月でしたが、本当に楽しいところだと思いました。想像していたのとはずいぶん違いましたけど、そこも好きです。今はこの環境がとても気に入っています。

毎日をどう過ごされているのですか?

ヤニナ: もちろん勉強するために来たのですし、ちゃんとやっています(笑)。あとはショッピングとか。広島市内や宮島とか、この間は岡山へも行きました。とても楽しかったです。写真を撮るのが趣味なので、どこでも面白いものを見つけたら撮って、友達や家族に見せるんです。「こんな所へ行ったんだよ。見て、見て!」って(笑)。あと、被写体としては、広島大学内にある湖や公園の風景も魅力的ですね。緑も豊かだし、本当にすばらしい環境だと思います。

ここでは日本語のクラスを受けていますね。日本語は上達しましたか?

ヤニナ: ええと、ハンブルク大学で文法をしっかり勉強したので、文法はさほど難しくありませんが、自分には会話のクラスがもっと必要だと感じています。先生やクラスの友達が言っていることは理解できるんですが、自分の考えをうまく表現できなくて、もどかしく思うことがあります。

この三か月で、日本についてどんなことを学びましたか?習慣とか、何か驚いたこととか。

ヤニナ: 驚いたことというと、「時間厳守」・・・ではないところですね。日本では時間に厳しいと言われていますけど、学生はよく遅刻すると聞きました。ドイツで遅刻なんかすると大ごとです。授業中居眠りする学生もいるそうですけど、ドイツでそんなことをすると、先生自身や先生の業績に対する敬意に欠けるとみなされ、「よろしい、君には私の授業は退屈なようですね」と、先生から退場を命じられます。

留学中の生活で何か困ったことはありましたか?ホームシックとか。

ヤニナ: とくに問題はありません。日本での生活をエンジョイしています。自分の部屋でインターネットが使えるので、毎日のように家族や友達とスカイプで話したりしていますから、寂しくはないです。ただ、ペットのモルモットが恋しいですけど(笑)

彩: 私の場合、四年間ドイツ語を勉強してから行ったのに、最初のころは何も聞き取れなくて、それで引きこもりがちになった時期はありました。

どういう風に乗り越えたのですか?

彩: ハンブルク大学が多数の日本の大学と提携しているので、日本人の友達ができたというのもあったし、向こうでチューターをしてくれた人たちがよく遊びに連れていってくれたんです。今その二人は広大にいます。それに、私は半年しか留学期間がなかったので、その短い間に多くを吸収するためには外へ出なきゃと思い、勇気を出したんです。

ヤニナさんは、広島大学で友達がたくさんできましたか?

ヤニナ: はい、HUSAの学生がほとんどです。図書館などで勉強する際は日本人学生、メンターやチューターに助けてもらいます。「会話パートナー」とは日本語で話しています。文法も言葉も解るのに、会話となると自分をうまく表現できなくて、自分の日本語はまだまだだなあと時々思います。

ハンブルクには港がありますね。シーフードが豊富なのですか?

ヤニナ: はい、港の付近にはお店がたくさん並んでいて、エビや魚などシーフードが何でも買える市場があります。新鮮だし、とても安いですよ。

彩: 私もその市場には行きました。私はあまり魚が好きではなくて、見ているだけだったんですが、早起きしていったかいはありました。よかったです。ハンブルクっ て日本でいう「港町」のイメージと全然違うんです。海の近くというわけではなくて、大きな川があって、そこが港になっているので、海に近い町っていう感じではないです。

ハンブルクでは料理はどうしていたんですか。

彩: 料理は結構スパゲッティばかりを食べていました。すごく安いんですよ。大きな街なのでアジアショップみたいのがいっぱいあって、醤油とか味醂とかお酢とか全部買えるんです。そういうのを買って、たまにはちょっと日本風の味付けにして作っていました。

ドイツではソーセージも有名ですよね。

ヤニナ: もちろん。ドイツのソーセージ、恋しいです。日本のものはどれも甘過ぎです。ソーセージに砂糖が入っているなんて、ありえない(笑)

ヤニナさんは、日本ではどんな料理をしていますか?

ヤニナ: いろいろです。ここでは野菜や果物が高いですから、今は安い野菜を探して食料品店をさまよっています。料理は好きなんですが、日本の食材をどう食べて良いのかわからなくて、いい料理本を探しています。

ヤニナさん、日本や広島大学へ留学したいと思っている学生達に何かアドバイスはありますか?

ヤニナ: もし日本在住の友達がいれば、あらかじめ色々教えてもらって情報収集すると良いと思います。というのも、たとえば「広島」というと大都市を想像するけれど、実際ここは静かな街ですよね。行きたい地域について前もって知ることが重要だと思います。

ハンブルクに帰ったら何をしたいですか?ハンブルク大学を卒業後に、してみたいことはありますか?

ヤニナ: まだ決めていません。日本語を勉強しているのは翻訳家になりたいからではなく、それが好きだからです。卒業後に何をするかは未定です。まずは大学に戻ってマスターを取ることが目標ですね。

彩さんは、このあと将来の夢はありますか。

彩: 就活中ということもあって、私も未定です。将来はドイツの児童文学を翻訳して、日本の子供たちに紹介したいなと思っています。狭き門ではあるので、どうなるか分かりませんが、いずれにしてもドイツ語とは関わっていきたいですね。

彩さん、最後の質問になりますが、留学しようと思っている広島大学の学生さんに何かアドバイスはありますか?

彩: 留学したいと思っている人というのは、結構インターナショナルな気分が出来上がっている人だと思うんですが、それでもやはり知らないことはたくさんありますよね。今回留学してみて何が一番分かったかというと、「それが将来にどう役立つか」について深く悩まず、とにかく何でも経験してみることが大事ということです。それは留学に興味のない人にも言えることですが、いちど海外へは出た方がいいんじゃないかなと思います。

お二人とも今日はありがとうございました。ヤニナさん、滞在中に日本の友達にドイツを宣伝してください。ドイツへの留学希望者が増えるかもしれませんよ。

ヤニナ: それは素敵ですね(笑)

Photo Gallery

宮島にて(ヤニナ)

「桜は逃したけれど、梅も素敵です」(ヤニナ)

クリスマスマーケットにあったお店(彩)

保存されているベルリンの壁-ベルリン(彩)


up