第24回 スチュワート・ロドニさん

「心を開いて」

名前: スチュワート・ロドニ
国籍: ジャマイカ
所属: 国際協力研究科博士課程後期 教育文化専攻
趣味: 音楽,ダンス,読書,料理,ハイキング,日本を旅すること

(2013年12月6日にインタビュー)

『留学生インタビュー』バックナンバー

広島大学でジャマイカ出身の学生は、現在はスチュワートさんお一人なのですね。

そうですね。学生生活において私の国籍は大きな問題ではありませんし、大学では他の留学生と変わりなく過ごせています。しかし国を「代表」するという意味では、ジャマイカの国柄、人柄を自ら示すことができるし、より多くの仲間たちが広大で学べるよう道を拓く役目も果たせますから、特別かもしれません。おもしろいのは、私が広大にやってきた時、学友たちが私にボブ・マーリーのような髪型、いわゆるドレッドヘアを期待していたことです。ああいうのをイメージしていたのに、いざ登場した私が全然彼らの想像と違うので、がっかりさせてしまったようですが(笑)。

ジャマイカのどの地方の出身ですか。

セント・ジェームズというパリッシュ(Parish)です。大きさは広島県の呉市よりも少し小さいくらいです。「パリッシュ」というのは、ジャマイカを構成する幾つもの地域のことです。それらは自治権を持たないという意味で「州」などとは少しコンセプトが異なります。各パリッシュは首都キングストンの中央政府の監督下にあり、大きな物事はたいていその中央政府を通じて決定されます。

ジャマイカの公用語は英語ですね。何か独特の方言があれば教えてください。

では一つお教えしましょう。「Whap’n?」というのです。「What’s happening?(調子はどう?)」の短縮形です。

おもしろいですね! ところで、なぜ日本を留学先に決めたのですか。

私はジャマイカの大学を卒業後、数年間の社会人経験を経て日本に来ました。とある高校で英語の補助教員として三年間勤務した後、「さて、次は何をしようか」と考えた結果、修士号を取ることに決めたのです。幸いにも文部科学省の奨学金を受けることができ、広島大学に入学しました。

そもそも日本に来ようと思った理由は、文化的な興味からです。未知の人々と出会い、新しい世界での生活を経験するため、ジャマイカの日常ではほとんど接触する機会のない国に行きたいと思っていました。

入試の準備は大変ではありませんでしたか。

私が受験したのはIDEC(国際協力研究科)の修士課程でしたが、とくに入試で苦労したことはありませんでしたね。学内の中央図書館などで情報収集もできましたし、試験の準備にあたって教官の指導を受けることもできましたので。入試は英語でも行われますので、その点もまったく不都合はありませんでした。

広島の第一印象はいかがでしたか。

何だかとても「ゆったり」とした街だなと思いました。生活のペースが思っていたよりスローというか。広島市は東京や大阪などの大都市とも肩を並べる都市で、それでいて独自の伝統もある。その世界遺産、独自性、伝統といった国際的なアピール力を誇る要素が、非常に身近に存在している。広島に居るだけで日本中を体感した気分になれるわけですから、これは素晴らしいことですね。

アルバイトはしていますか。

英語教師をしています。民間の語学スクールで、中学生から大学生、社会人までの生徒を対象に英会話を教えています。

それで、今もゆっくりと話して下さるのですね。

高校でALT(外国語指導助手)をしていた頃から、そうする習慣が自然と身につきました。なぜなら、私が話す目的はあくまで「理解してもらうこと」であって、私の英語力を示すことではありませんからね。重要なのは聞き手にわかりやすく話すことです。

フリータイムには何をして過ごしますか。

趣味のひとつは料理です。いろいろと実験をするのが好きなんですよ。ちなみに私の作る味噌汁はトマト入りです(笑)。旅行も好きで、とくに中国地方に関しては、もうほとんどの県を訪れました。他にも北海道や沖縄、さらには東京、大阪、神戸などのポピュラーな都市、最近では徳島にも行きました。 ALTをしていた頃は、同僚や友人とマウンテン・ハイキングにも行きました。

それに、なんといっても音楽ですね! 私の趣味はとても幅広いんですよ。ジャマイカの伝統的な音楽であるレゲエはもちろん、オペラ、アメリカ南部の音楽ザディコ(Zydeco)、ディジュリドゥ(Didgeridoo)という楽器を用いたオーストラリアのアボリジニの音楽、などなど、好きなジャンルは多岐にわたります。しかし最近とくに熱中しているのはゴスペルです。広島市近郊の教会で、音楽隊のメンバーの一員として活動もしています。ロック、ポップス、トラディショナル、クラシック、そしてアカペラ、それらすべての要素をゴスペルは網羅しているのですよ。

学生生活について教えてください。ジャマイカと日本で大きな違いはありますか。

主な違いは、学生同士の関わり合いの濃密さでしょうか。例えば広大には「ゆかたまつり」などの学内イベントがありますね。私の出身大学にも同様のイベントがありますが、広大の場合よりもずっと皆が一致団結して行います。私の大学は寮付きの大学ですが、寮は大学において重要な位置を占めています。たとえ別の寮の住人であっても、学生同士の関わり合いは日本よりもずっと深いです。彼らの学生生活は学生同士の関わり合いで成り立っています。したがって、寮に住んでいない学生も、いずれかの寮のグループに所属しています。その点、日本の学生たちは互いに少し距離があるように思われます。

なるほど。IDECではどんな研究をしていますか。

私が現在取り組んでいるのは「クロスボーダー・エデュケーション」に関する研究で、具体的にいうと、外国の教育機関がある国に対して提供する大学教育のことです。例えばジャマイカの学生に対し、アメリカの大学などが教育プログラムを提供するというものです。それは遠隔教育あるいはオンライン教育の形式で行われ、場合によっては大学の教員がジャマイカに赴いて講義を行うこともあります。私の研究テーマは、ジャマイカに対して教育プログラムを提供してきた外国の教育機関に関することです。彼らが提供してきたプログラムがジャマイカの大学教育の発展にどのような影響をもたらしたか、ジャマイカの現状を明らかにしたいのです。

そうすることで、国内の学生たちに大学教育の機会を最高の形で与えるには、これまで教育機関の間で培われてきた協力関係をどう活かせばよいかについて、より有効なアイデアを創出することができるからです。ジャマイカ国内の教育機関だけでは大学教育としての役割をまだ十分には果たせないことも、ゆえに他からの援助を必要とすることも、私たちは認識しています。しかし、現在私たちが受けている援助が私たちにとって真に必要なものか、利益をもたらすものか、それを見極める必要があります。そのために、私はジャマイカの今を正しく示そうとしているのです。

ジャマイカの教育制度はどうなっているのですか。

イギリスの教育制度とよく似ています。とくにハイスクールレベルでは「sixth form」と呼ばれる形式の教育機関があり、すなわちハイスクールで生徒たちは七年間、日本式にいうと中学、高校、プラスもう一年間の教育を受けることができます。しかしこれはあくまで主流の形であって、中学と高校に別々に通うものもいれば、五年制の教育機関もあります。学年度の始まりは九月で、大学入学許可制度もイギリス式をモデルとしています。

大学進学率はどのくらいですか。

そうですね、30%程度でしょうか。高校卒業後ただちに大学へ進学する生徒はせいぜい四人に一人だと思います。その他の進学希望者はまず仕事に就き、それから大学を目指します。やはり主なネックとなっているのは経済的な問題ですね。

十分な奨学金制度がないということですか。

お世辞にも十分とは言えません。大学教育あるいは第三次教育を受けられるための支援はもっと必要だと思います。学生ローンの制度は存在しますが、それが実際に大学進学を希望する学生の数に比べて十分なものでないことは、ジャマイカの教育問題の政策立案者たちも認識しています。そのため私たちは今、ジャマイカの学生ローン制度を拡大する方法を模索しています。大学進学のための奨学金を提供しようという慈善団体などもありますが、進学希望者の人数を考えると、とても十分とは言えません。

なるほど。ところで、将来の成功の鍵となるような、ジャマイカ人特有の強みとは何ですか。

私たちの一番の強みは「創造力」(Creativity)、そして「しなやかな強さ;回復力」(Resilience)です。「創造力」についてですが、ジャマイカのような多文化国家の利点として、種々さまざまな価値観が混在していること、そして、その歴史の中であらゆる文化が残してくれた多様な知恵に恵まれていることがその理由として挙げられるでしょう。私たちの強みは非常に創造力に富み、生産力を高める原動力にできることだと思います。二番目に挙げた「強さ・回復力」ですが、とくに英国の植民地として奴隷制度の下に三百年間を過ごしてきた我が国の歴史は過酷なものでした。その経緯を経てなお、世界の中でよりよい国家として向上しようとする姿勢は、私たちジャマイカ人がいかに逞しく生き抜いてきたかを物語るものだと思います。

留学を考えている学生たちに何かアドバイスをいただけますか。

私からの助言は二つです。一つ目は「オープンであれ」。留学での経験に対し、最大限に心を開くのです。これから行こうとする国についてよく知っているつもりでも、それで満足していてはいけません。これから体験することは、皆さんの知識の外にあることなのですから。人間関係についても同様です。忍耐強く、オープンに。私の経験から言って、日本人と本当の友達になるには少し時間がかかるかもしれませんが、そうして得た友達はかけがえのないものです。

二つ目は、留学の目標を明確にすること。とくに奨学金で来ている学生は何らかの目標を持っていることと思いますが、私の見たところ、多くの学生がああでもない、こうでもないと、自分探しに時間を浪費しているようです。つまるところ、留学を志すなら、留学期間終了までに達成すべき確固たる目標を掲げること。期間の長さは関係ありません。それが三ヶ月間であろうと三年間であろうと、自分の目標をしっかり見すえて過ごしてください。

ありがとうございます。最後に、将来の目標を教えてください。

キャリアに関する目標は、ジャマイカの大学教育あるいは第三次教育についての企画や政策立案に携わることです。高等教育を受けようとする学生たちにとって真に有益な助けとなるような、明瞭で、かつ管理の行き届いた教育システムを構築したいです。

プライベートな目標については、私にとっては、キリスト教の信仰は他の何よりも優先されます。すなわち、私が神から受けた恵みをできるだけ多くの人々と分かち合うこと。私が信じる神の教えを、それを必要とする多くの人々と分かち合っていきたいですね。

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学位記授与式にて

入学式にて

発表会


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