第26回 ナディア・キナンティさん(インドネシア)&加藤みなみさん(日本)

「一歩先をゆくチャンス」

■ ナディア・キナンティ (写真左)
国籍:インドネシア
所属:国際歯学コース一期生
(インドネシアでの所属:アイルランガ大学)
現在、特別聴講生として、歯学科4年のクラスで学んでいる

■ 加藤みなみ (写真右)
国籍:日本
所属:歯学部歯学科4年
今春、インドネシア短期派遣に参加

(2014年4月25日にインタビュー) 
 
『留学生インタビュー』バックナンバー

 

歯学部を志望した理由を教えてください。

加藤: 私は高校の頃から医療系に興味がありまして、大学は医療系に入りたいなと思っていました。その中でも歯学部を選んだ理由は、歯科医師は実際にその場で手を動かして患者さんを治せるというところに魅力を感じたからです。

キナンティ: 私も高校時代から、人を助けることのできる医療関係の仕事に就きたいと思うようになりました。父は私に医師になることを勧めましたが、私は歯科の方が自分にはずっと向いていると思いましたし、より惹かれるものを感じましたので、医師ではなく歯科医師になりたい旨を父にきっぱりと告げました。以来、歯学部を目指して集中的に勉強したおかげで、大学に合格することができました。

キナンティさん、インドネシアの歯科事情について教えてください。

キナンティ: 私の国は未だ発展途上ですので、適切な医療・歯科医療を受けることのできない人々が大勢います。つまり、治療を必要とする人の数が多いのに対して、医師・歯科医師の数が不足しています。そのような現状を見てきたことも、私が歯科医師を志した理由のひとつなのです。ちなみに、インドネシアでは、医師・歯科医師の社会的地位は非常に高いです。

今は母国を離れて勉強されている訳ですが、食べ物も文化も違う日本への留学を決意したのはなぜですか。

キナンティ: 日本のような最新技術を誇る教育水準の高い先進国で学べることは、私にとっては願ってもないチャンスだからです。日本に来て学べばきっと成長できると思いましたし、それに、同じ学部の仲間とは違った挑戦をしたかったのです。このチャンスをつかめば仲間に一歩先んじることができますし、この留学の機会は絶対に逃したくないという気持ちで臨みました。

加藤さん、広大入試の時はどんな勉強をしていましたか。

加藤: 高校時代は、特に受験のための特別な勉強はしませんでしたし、あまり塾や家庭教師などのお世話にもなりませんでした。そのかわり、宿題や定期テストで遅れをとらないように、学校のカリキュラムに沿ってしっかりと勉強していました。

キナンティさんは、この留学を「仲間に一歩先んじるチャンス」と表現されましたね。国際歯学コースへの選考は、厳しかったのではありませんか。

キナンティ: はい、かなり厳しかったです。私の大学では、このプログラム派遣のために学内選考が行われますが、選ばれる学生はわずか一名か二名です。成績を基準とした学内選考なのですが、私の時には、選ばれたのは二名でした。すなわち、まずは学内で、一年時の成績優秀者が何名か候補として選ばれ、その後も、数回にわたる面接や論文による選考があります。そして、学内選考の後には、広大歯学部による面接試験にも合格しなくてはなりません。とにかく、他の候補者も非常に優秀でしたし、競争はとても厳しかったです。私はラッキーだったかもしれませんね。

実際に広大に来て、最初の授業を受けた印象はいかがでしたか。

キナンティ: 最初は、どんな授業になるんだろうと緊張して、かなり不安になっていました。留学は初めての経験でしたし、日本での勉強、友達、先生方、いずれも私にとって未知の世界でしたので。しかし、先生方も友達もとても優しく私を歓迎し、接してくれました。おかげで、最初のほうこそ、意思の疎通の問題や、日本語での会話に自信がもてないことが原因で少し気後れしてしまいましたが、日本のみんなと親しくなるにつれて、不安も解消されていきました。今では、もう大丈夫! それに、日本のみんなはとても素晴らしいと思います。どんな事にも常に全力投球で。日本人のそういう性格は好きですね。

加藤さん、留学生と同じクラスで学んで、どのように感じますか。

加藤: いつも良い刺激を受けています。留学生の子たちは、授業に取り組むだけでなく、自主的に英語のテキストを読んで勉強したりもしているので、私も彼女たちのように頑張らなくては! と思いますし、それに、留学生と一緒に学ぶことで、彼女たちの出身国での教育環境や歯科の現状について知る機会も得られます。そういうのが、非常に興味深いですね。

授業は、dual linguistic education systemで行われるのですね。同じ教室で複数の言語を用いて学ぶ環境には、なじめましたか。

キナンティ: はい。私たちは、Japanese - English dual linguistic education systemが導入された最初の学年、すなわち第一期生ですので、先生方はもちろん、学生にとっても、平坦な道ではないと思います。正規生にしてみれば、これまで日本語だけでスムースに学んでいたのに、今や英語でも学ばなくてはならないのですから大変です。私たちにとっても、英語は母語ではありませんので、英語の授業についていくのは容易ではありません。それでも、その分より多くを学べるという点で、dual linguistic education systemは良いシステムだと私は思います。つまり、正規生も、より多くの知識を獲得するきっかけになりますし、留学生も、英語だけでなく母国語で学ぶことができます。それは簡単なことではありませんが、とても素晴らしいシステムだと思います。

加藤: 正直、私も最初は少し戸惑いました。先生によっては英語を多めに話す先生とか、逆に日本語を多めに話す先生もいらっしゃいますので、最初は授業についていくので精一杯でした。しかし、私たち正規生にとっては、日本語も英語も両方聴けるので、英語の専門用語も習得することができるし、同時に一般的な英語力も身につきます。私は、この学年にいられて良かったなと思っています。

どのような授業、または実習がお好きですか。

加藤: 私は、みんなと話し合いながら学ぶことのできる実習も好きですが、授業の時に先生が「余談だけど」といって、ご自身の留学や研究の体験談を話されるのを聞くのも好きなんです。どの先生も留学経験がおありなので、その頃の写真を見せていただいたり、こういうのを学んだよ、というのを教えていただくのはとても楽しいです。中には、ひとつの章が終わる毎に、そういったお話をしてくださる先生もいらっしゃいます。

キナンティ: 私は、解剖学などの実習が好きです。講義では、ただ席について先生のお話を聴くだけですが、実習では他の学生と交流もできますし、互いに助け合い、分からないところは教え合ったりもできますので。

先生方の指導はわかりやすいですか。

キナンティ: はい、とてもわかりやすいと思います。実習の時でも、先生方はまず日本語で説明をし、その後で留学生のところに来て明快に説明をしてくださるので、何の問題もありません。

加藤: 私も同感です。しかしおそらく、一番大変な思いをされているのは、正規生・留学生の両者に理解しやすい講義をと、いつも心を砕いてくださっている先生方ではないでしょうか。

なるほど。先生方は、板書しながら授業をされるのですか。

加藤: いいえ。どの先生も、授業ではパワーポイントを使用されます。各スライドには、日英両語で説明が記載されています。先生はそれを両方読まれた後に、さらに詳細な説明を付け加えていかれるというやり方です。

自宅での学習時間はどれくらいですか。

キナンティ: それは状況によりますね。遅くまで実習があった日は、数時間程度しか勉強しませんが、試験を控えている時には、夜遅くまで勉強しています。図書館もよく利用しています。

加藤: 私は、おもに学校の図書館などで、夜に勉強しています。自宅では、あまり勉強していません。

大学の図書館は利用しやすいですか。

加藤: はい、とても。霞図書館には「ラーニングコモンズ;BIBLA Kasumi」といって、パソコンやネットワーク環境を備えた学習スペースがあるのですが、そこだと、みんなとディスカッションしながら勉強することができます。それに、二十四時間利用ということで、朝まで開いていますので、テスト週間などには、よく日をまたいで利用しています。

キナンティ: 私も、図書館にはとても満足しています。私が来日した時、すでに私たちのためにたくさんの英語の本が用意されていました。必要な英語の本はもうほとんど揃っていますが、もし追加で読みたい本があれば、図書館にリクエストすることもできます。

困難に遭遇した時は、どう対処していますか。

加藤: 問題が生じた時は、とりあえず後回しにしないようにします。ただ「あーっ」と考えているだけでは自分が辛いので、とりあえず一度時間をとり、どうしてこうなったのか、これからどうすればいいのか、ということについてじっくりと考えます。それでいったん「よし!」と決めたら、迷わず行動に移します。そんなふうに、ひとつひとつ解決していきます。

キナンティ: トラブルが起きた時は、留学生や日本人の友達や先輩、先生に相談します。初めて一人で日本に来た頃は、新生活に順応するのに苦労しましたので、問題が生じた時はいつも友達や先輩、先生に話して、助けてもらっていました。しかし最近では、日本での生活もすっかり軌道にのり、以前のように思い悩むこともなくなりました。

フリータイムは、何をして過ごしますか。

キナンティ: 暇な時は、よく広島市内に友達と出かけます。ハリウッド映画などを見に行くこともあります。家族とスカイプで連絡を取りあい、両親と話したりもします。おかげで、ホームシックとは無縁ですね(笑)。

加藤: 私は、家でのんびり本を読んだりして過ごします。よく読むのは小説です。今年の春休みはインドネシアに留学していましたので、向こうでキナンティと会ったりもしました。あと、昨年来日していた六ヶ月プログラムの留学生たちとも一緒に遊んだり、勉強したりもしていました。

インドネシアに留学した時の印象を教えてください。

加藤: 正直、想像していたよりもずっと発展しているなという印象でした。学生たちも患者さんを実際に治療しながら実習しており、設備もしっかりしていて感心しました。日本では、病院で先生について補助をしつつ見学するというのはあるんですが、国家試験に通らないと自分自身では主体的な実際の治療はできません。しかし、インドネシアやベトナムでは、学生の時に歯科医師の指導の下、自ら患者を治療するというのがカリキュラムの一環となっています。その点が違うと感じました。

大学や地元のイベントにはよく参加されますか。

加藤: はい。HUDIC (ヒューディック;広島大学歯学部国際交流クラブ)という歯学部の国際交流クラブに入っているので、留学生関係のイベントにはよく参加します。HUDICとは別に以前も、遠足で神楽を見に安芸高田市に行ったり、錦帯橋にも行きました。それに、新しく留学生が来た時は、宮島の観光案内をすることもあります。

キナンティ: 昨年は広島大学霞祭に参加して、HUDICに所属する正規生・留学生のみんなで食べ物を売りました。留学生会館で行われる国際イベントでは、インドネシア料理を売りました。その他にも、ひろしまフラワーフェスティバルといった地元のお祭りがあるときは、日本やインドネシアの友達とよく出かけます。とても楽しいですよ。

歯学部に進みたいという後輩たちに、何かアドバイスをお願いできますか。

加藤: まずは、勉強することですね。高校生の時には歯学の知識はまったく必要ないので、今はとりあえず、学校での勉強をしっかりとしてほしいです。それから、大学入学後の勉強についてですが、歯科というのは歯だけを治療するというイメージがあるかも知れませんが、実際は歯だけじゃなく、口腔の舌とか粘膜とか顎の骨とか、頭頸部全体にわたる治療について学ぶことになります。もしそういった分野に興味があるなら、ぜひ挑戦してほしいですね。

キナンティさん、日本などに留学を考えている後輩たちに、アドバイスをいただけますか。

キナンティ: 外国で学ぶというのは、決して生やさしいことではありません。ですから、十分に準備をして臨んでください。準備というのは単に知識だけのことではなく、気持ちの面でも必要です。なぜならご承知のとおり、日本で新しい経験を積むにあたっては、しばしば多くの困難に遭遇するからです。しかし、日本に来て学びたい十分な動機があるならば、ぜひ挑戦してほしいと思います。

ありがとうございます。次に、留学はしたいけれど、なかなか決断できずにいる仲間たちの背中を押してあげてほしいのですが。

加藤: まずは、思い切ってそのチャンスをつかんでみて下さい。現地に行ってしまえば、たとえ言葉が苦手でも、向こうの人は優しく聞いてくれますし、自分で話してみて、意思が通じれば「あ、楽しい!」と思えるようになりますよ。しかし、一番大事なのは、何よりも皆さん自身が覚悟を決めて旅立つことです。

キナンティ: もし語学力不足が気になって迷っているのなら、心配ご無用ですよ! 私の場合も、もともと英語は母語ではありませんし、得意でもありませんでした。それでも、常に英語で話そうと精一杯の努力をしてきました。ですから、皆さんも留学したいなら、ぜひ頑張って挑戦してください。

国際交流において、最も重要なことは何だと思われますか。

キナンティ: 私は、互いに尊敬し合い、理解し合うことが最も重要だと思います。ご承知のとおり、私たちはそれぞれ異なる文化を持っています。しかし、私たちが尊敬し合い、理解し合うことができれば、私たちはずっと友達でいられます。素晴らしい関係を築くことができるのです。

加藤: 私も同感です。相手と自分の文化を比較して、どちらが正しいのかを決めるのではなく、相手の文化に興味を持ち、理解することが必要です。相手のことを理解しようと努力すれば、もし違いを見つけても、それを面白いなと思えるようになるでしょう。新しい発見をすることが、楽しみにつながると思うので。いずれにしても、相手に対して関心を持ち、友情をもって受け入れるという姿勢こそが、(国際交流においては)不可欠です。

最後の質問です。この国際化された世界で、これから歯科医師となるお二人ですが、将来はどんな歯科医師、あるいは国際リーダーを目指されますか。

加藤: 私は研究にも関心がありますので、将来は、国際学会に参加したり論文を読んだりして、海外でも活躍できるような研究者になりたいです。それに、今こうして、インドネシアやベトナムに友達ができたというのは非常に大きな収穫だと思うので、今来ている留学生たちが帰国した後も密に連絡を取り合い、将来は彼女たちと連携して、何か素晴らしい仕事ができたらいいなと思っています。

キナンティ: 私は、臨床歯科医師として患者を治療しながら大学でも働き、国際的な研究に携わりたいと思っています。世界各国で開催される歯科学会にも出席したいですね。それに、ボランティア事業にも参画したいなと思っています。未だ発展途上にあるインドネシアでは、子供たちをはじめ多くの人々が、適切な医療・歯科医療を受けるのが困難な状況に置かれています。そのような厳しい境遇にある人々を支援するために、ボランティア事業を行う財団を立ち上げ、そしていずれは、そういった人々を支援するためのシステムを構築する仕事にも貢献したいと考えています。私が将来やりたいのは、そういった仕事です。

Photo Gallery

インドネシア、ブロモ山のふもとにて (加藤)

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Hiroshima Conferenceに出席しました (キナンティ)

インドネシア舞踊を披露 !! (キナンティ)


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