第27回 王 路曦さん(中国)

「子どもって、素晴らしい!」

名前: 王 路曦
国籍: 中国
所属: 教育学研究科博士課程後期(3年生)教育人間科学専攻
趣味: 旅行、卓球、映画

(2014年7月23日にインタビュー)   

『留学生インタビュー』バックナンバー

 

中国のどの地方の出身ですか。

山東省です。北京とは飛行機で一時間半、新幹線だと3、4時間くらいの距離です。その省の真ん中のいちばん東寄りの都市が僕の出身地です。近くには海もあります。自慢できる名物というと、山東大饅頭。これは肉まんのように具が入っているものではなく、小麦でつくるパンのようなもの。主食として食べます。あとは、でっかいネギ(章丘ネギ)! それに青島のビールも有名です。そのビールは日本でも販売されていますし、西条の酒まつりでも売っています。

出身地では、日本人を多く見かけますか。

はい。特に僕の出身大学がある青島市には、ちょうど広大がある東広島市がそうであるように、外国人が多く居住しています。日本の企業もあり、日本人も多く住んでいます。僕の大学にも日本人の先生が結構いますし、市内の日本語学校に勤める日本人教師もいます。

日本に留学しようと思ったきっかけは何ですか。

小さいときに日本のアニメを見て、すごく美しい自然のシーンに感動しました。やはり外国は中国とは違うなと思いました。昔は外国のイメージというと欧米だけでしたが、小学生になってアニメを見た時、欧米とは違う美しさを感じました。この国に行きたい、本物を見てみたい! と思いました。それで、大学を卒業したら日本に行こうと決めたのです。

実際日本に来て、アニメと同じような光景が見られましたか。

はい。アニメに登場する実在の場所というのも、結構ありますし。しかし、中国の人が日本に来るのは難しいですね。ビザが要る。今は昔より多少来やすくなっていますが、それでもまだ難しい。なので、大学で日本語を勉強して来たのです。2008年のことでした。

なるほど。広大を選んだ理由は?

僕はやはり日本に行きたかったので、日本のどこがいいか、大学にいる日本人の先生に相談しました。それで先生に広島を勧められたのです。静かで良いところだと。

僕は大都市よりも静かな町の方が合いますので、広大を選んで正解でした。やはり勉学に打ち込むにはとても良い環境ですね。それほど遊ぶところもないし。ここへは勉強しに来たのであって、遊びに来たのではないので、ちょうどいいです。あっ、東広島がそれほど田舎だと言っているわけではないですよ(笑)。

入学して、寮に入られたのですか。

はい。しかし僕が来た頃は、1年間しか寮には居られませんでした。現在は2年間ですけど。今は西条のアパートに住んでいます。

買い物は、どこでしていますか。

近所のショッピングモールで、適当に。僕は着る物にもこだわりませんので。あまりお金もないですし(笑)。日本の食料品は少し高いですね、とくにスイカが。卵などはそれほどでもないですが、果物や野菜が高いなと思います。

今、夢中になっていることは何ですか。

僕は旅行が好きなんですけど、今は夏なので、海に行きたいですね。一番行きたい所は、下関の角島です。以前一度行ったことがありますが、もう一度行きたい。バスでも行けないし、車でも4時間かかるし、実際行くのは大変ですけど。

大学では、どんな研究をされていますか。

保育者養成。具体的にいうと中国の保育者、つまり幼稚園の先生ですね、彼らのメンタルヘルスに関する研究です。先生たちのストレスについて。

幼稚園の先生方が抱えるストレスとは、どのようなものですか。

色々ありますが、第一に、職場の人間関係。これは日本でも同じですね。それから、職務。保育者が子どもをケアするのは大変な仕事です。考えなければならない事が色々あります。例えば、子どもが怪我なんてすると大ごとです。子どものやることは大人とまったく違うし、やりたいことも違って、やる際に気を付けないといけないこともたくさんあります。それから、子どもだけではなくて、保護者。厳しい要求をしてくる保護者が結構います。中国はだいたい、僕もそうですが、一人っ子なので。親が子を大事にし過ぎだなと思います。

日本よりも?

日本よりも。大事な大事な我が子を、もっとああしてほしい、こうしてほしいとか、保育者に対する保護者からの要求が非常に高い。それで結構ストレスがたまる。それに、保育者はほとんどが女性なので、自分の家族もケアしなければならない。食事の世話などの家事も。しかも、給料等の待遇面でも決して恵まれてはいません。だから離職率がすごく高い。これは日本も中国も同じですね。

離職率の高い要因の一つとして、ストレスがあるということですね。これはどうすれば解消できますか。

主に2つの方法があって、1つ目は、保育者の給料を上げること。今の給料では十分とは言えません。Yahooで調べたら、日本でも、離職する一番の理由は給料が低いことです。中国でも平均的には安い。キャリアアップにも限界があります。幼稚園の先生がたとえ園長にまで昇進しても、それほどの高給は取れません。なので、そういった待遇をもう少し改善することが必要です。

2つ目は、保育者自身のこと。困難に直面した時の対応能力を向上させることです。そうすれば、たとえ保護者に厳しいことを言われても、気に病むことなく対応し、事態を改善できるでしょう。たとえ改善ができない場合でも、結果、保育者自身が傷つかないようにすること。ストレスを解消する方法としては、主にこの2つですね。

保育者の大変さが伝わってきますね。昔は、もっとおおらかだった気がします。子どもを自由に遊ばせて、危険な時だけ大人が出てくる、とか。

もちろん、現代の保育者の職務は、そんなことではつとまりませんよ。子どもを見守るだけではなくて、スケジュールを設けて、一日の中で何をやるべきかを考えなくては。自由遊びの時間もありますけど。たとえば1日4時間あったら、自由遊びで1時間、集団遊びで1時間とかね。そういった流れを設けて、すべてを先生がきちんと管理しなければなりません。

実際、子どもと接することはありますか。

もちろん。幼稚園を訪問して、実際に子どもと話をしたりもします。それが僕の授業の一環ですから。子どもを観察して、子どもの行動などを分析するのです。たとえば子どもが何を発言したのか、何をやったのか、それにどういう意味があるのかを分析しなくてはならないのです。ただこうした、ああしたということではなく、子どものすることには全て意味があるのです。研究者としては、それを分析しなくてはなりません。

幼稚園の子どもというと、3、4、5歳ですね。

そうです。3歳と5歳は大きく違いますよ。たとえば3歳児の場合、入園したばかりで、あまり慣れていませんので、先生の隣にはりついていることがよくあります。それに、あまり集団では遊びませんね。それが5歳になると、集団でよく遊ぶようになります。あと、3歳児だと、まだ自分の興味がどこにあるか明らかになっていません。自分が何をしたいか分からないので、先生の指導や誘導に従うことが多い。5歳児になれば、どんなことでも、したければ自分から遊びにいきます。僕は実際に一緒に遊ぶわけではないし、授業の一環として見て分析するだけですが、そうやって子どもの遊び方を見るのは非常に興味深いですね。

子どもが好きなんですね。

子どもは面白いですよ。彼らの遊びには自分たちでつくった、自分たちだけのルールがあるんです。子ども同士はわかっていますが、大人は注意深く観察しないとわからない。なので、それを発見すると、ああ、素晴らしいな、子どもたちは! と思います。

現在の研究をどのようなことに役立てたいですか。

やはり、保育者のストレスを解消すること。そうすれば、保育の質が向上するでしょう。それが最も大事なことですね。

ところで、中国と日本で、学生生活に大きな違いはありますか。

一番の違いは、中国の大学生は全員寮に住んでいること。遠方から来ている学生だけでなく、全員が寮に住んでいます。そこが日本と違いますね。それに、寮も食堂も学内にあるので、全員が毎日学校で寝る、学校で食べる、学校で勉強する。それにほとんどの大学寮では、同じ部屋に3人以上が寝起きします。集団生活したことがない人だと慣れるまでちょっと大変ですが、すぐに慣れてみんな友達になります。

日本での学生生活はどうですか。

中国とは少し違いますね。中国ではみんな同じ寮だから一緒に授業に行って、一緒に食事に行って、一緒に遊ぶことがよくありますので、学生同士の絆は僕たちの方が、日本の学生たちよりも深いと思います。

王さんは、広島大学中国留学生学友会の元会長ですね。そのような責任ある仕事を引き受けたのはなぜですか。

海外から来た留学生にとっては、日本はやはり外国です。僕は日本語がしゃべれますが、 たとえばIDEC(大学院国際協力研究科)の学生などは英語で学ぶことができるので、日本語ができない人も多い。ところが、日本語を話せなければ、生活面において色んな事が困難になるんです。

別に、学生たちが一人では何もできなくて困る、というわけではないですよ。たとえば部屋を探すとき、言葉ができなくても、自力で何とかできます。でも助ければ、より上手くいきます。青春18きっぷの存在を知っていればそれを使えますが、誰も教えなければ、通常料金を払って電車に乗らなくてはならない。あと、毎年紅葉や桜を見にみんなを連れて行きますが、もし自力で行くとなると、色々考えなくてはならない。しかし、みんなで乗るバスを借りれば、参加者はただ楽しめばいいだけ。

つまり、一人でやれば難しいことを、より簡単にできるように助ける。学友会は、そのために結成された組織です。僕も中国のみんなが日本の生活に慣れるよう役立ちたいと思い、会長を引き受けたんです。

では、学内のイベントにもよく参加されますか。

はい。大学祭では毎年、中国のみんなで一緒に水餃子を売っています。食べに来たことがないんですか? ぜひ来るべきです! おいしいですよ。日本では焼き餃子が主流ですが、中国では水餃子です。もちろん僕は水餃子のほうが好きです。皮から手作りします。僕にもできますよ。めんどうですけど。日本の店で売っている皮は、薄すぎますね。焼き餃子用ですから、水餃子には使えません。ゆでたらすぐに破れてしまいます。肉などを入れてゆでる水餃子の皮は、もっと厚くなくては。

中国などへ留学を考えている日本人学生に、何かアドバイスをお願いできますか。

やはり留学は、人生においていい経験ですよ。異文化、外国の生活を体験することができます。それはとても有意義な経験になります。人間的にもすごく成長できると思います。ただし、行く前にちゃんと準備して。完全に身につけるのは無理でも、多少は理解できる程度に語学の勉強も必要です。中国に行くなら、ある程度しゃべれなければ、ちょっと難しいですね。勇気を出して行くのが一番大切なこと。二番目は、ちゃんと準備すること。

中国に行くとき、絶対に持っていくべきものは何ですか。

お金。物価は安いほうですけど。寮に入る場合も、高いところでも、年間二万円程度。寮生活では、寮とは別棟の食堂でご飯を食べます。食堂のご飯は一食80円くらいかな。高いときでも100円くらい。ちなみに、中国の寮では自炊できません。キッチンがありませんから。なので中国では、大学を卒業しても料理ができない人も珍しくありません。

王さんは、料理できますよね。

実家にいるときは母に手伝わされますから、それでできるようになりましたけど(笑)。普段はあまりしません。

日本に留学したいと思っている後輩たちにも、アドバイスをお願いします。

日本は結構安全な国ですので、何の心配もいりません。日本語をちょっとくらい勉強してから来れば、大丈夫! それだけですね。

日本語の勉強は、「ちょっとくらい」でいいのですか。

はい。なぜなら、我々には漢字という共通文字があるからです。日本語を読めなくても、それで何とか分かりますから。日本の人が中国語を読むのは難しいけど、中国の人が日本語を読むのは比較的簡単なんですよ。それに、日本語は中国人にとっては習得しやすい言語です。頑張ればすぐに覚えられます。個人的にはそう思います。

最後に、将来の目標は何ですか。

大学の先生になること。中国でも日本でもいいけど、将来は保育者養成校の先生になりたいです。いちばん間近にせまった目標というと、この8月にインドネシアのバリ島で行う学会発表を成功させること。今はそれに向けて、鋭意準備中です。

将来の目標、当面の目標、どちらも成功しますように。

ありがとうございます。頑張ります!

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