「アイデンティティを確立して」

名前: パッ クン モ
国籍: 韓国
所属: HUSA (漢陽大学文化人類学科)
趣味: 読書や動画(映画、アニメ等)をみること、旅行等
(2015年4月10日にインタビュー)
キャンパスの桜ももう葉桜ですね。韓国でもお花見をするのですか。
はい、韓国にも桜の木が多いですから。私の大学でも、学内の木の半分は桜です。桜の季節にはイベントがあって、桜が密集している特定の場所で家族や友達とお花見をします。私はというと、実は人混みが好きではないので、そういう場所にはあまり行きません。旅行もシーズンオフを狙って行きます。他の人が仕事している時に遊んで、人が遊んでいる時に仕事する。それが私の信念なので!
なるほど。パクさんのふるさとは、どんな町なのですか。
韓国の九里(グリ)というソウル近郊の町です。主な生活エリアは、ソウルと安山(アンサン)です。ところで、「ふるさと」という概念が、私はちょっと日本の人とは違います。ソウル以外の地方の人は「ふるさと」への愛着が強いかもしれませんね。私の釜山出身の友達は結構ふるさと自慢をしますから。しかし、私はグリやソウルの都会育ちで、しかも場所を転々としてきたので、そういう気持ちが薄いです。しいていえば、今自分が住んでいる場所が、自分が今いるべき場所。ですから今は広島が私の「居場所」というわけです。
韓国では何を勉強していましたか。
私の大学は、ソウル特別市城東区にある漢陽大学(英称:Hanyang University)です。もともとは理系の大学で、今でこそ総合大学で文系もあるけど、現在も「漢陽大学」というと理系のイメージが強いです。
私の専攻は文化人類学で、大学院では主に観光文化や文化批評の研究をしたいと思っています。あとはマイナー(副専攻)として日本文化と(韓)国文科をとっているので、そちらの勉強も続けたいですね。韓国の学部四年間で勉強することといえば、あくまで「遠くから見る」だけの勉強ですから、真の意味で「勉強した」とは言えません。なので、せめてできるだけ幅広い分野に接しようと、学部では地理学をはじめとして、経済系以外の文系科目はほとんどやりました。そうやって四年間かけて築き上げた土台を踏まえて、大学院では自分に最も向いている人類学をより本格的に学ぼうと決めたのです。

人類学に興味をもった直接のきっかけは?
私は理系にも経済にも向いていませんから、そうなると人文系ということになりますね。もともと歴史と社会が好きだったので、最初は歴史学科に行こうと思っていました。ところが歴史学科というのは、私に言わせれば、細かい部分にまでこだわりを持って究める学問なんです。自分がやりたいのはそういうのではなくて、大きな時間の流れとしての歴史をやりたかった。そうやって考えるうちに偶然、「文化人類学」という分野に出会いました。ちょうど「人文」と「社会」の中間にある学問ですから、これならば幅広く色んなことが学べるなと。それで決めました。
実際に人類学を学んで、いかがですか。
自分のアイデンティティが分からなくなってしまいます(笑)。自分の常識とは真逆な世界を色々と見るので、混乱してしまいますね。
真逆な世界、たとえば日本もそうですか?
そうですね。韓国と日本は似ている部分もありますし、本で勉強した時にはさほど衝撃を受けませんでしたが、日本で生活しながら徐々に気づくことが多いです。 ああ、ここの人たちは全然違うな、と。
顕著な違いは、人間関係。韓国の人間関係は、私なりにわかりやすく説明すると、日本の女子高校生同士の関係と似ています。一緒に時間を過ごすことが重要。たとえば、ご飯。私が驚いたのは、日本の人に一緒にご飯を食べませんかと声をかけたら、私は単に「これから時間があったら学食で食べよう」と言っているのに、相手は真剣に悩みながら「今日は時間がないから、えーと、土曜日にレストランXXXXで、XX時に、こんなふう に・・・」と。なんでそんな難しい話になるの?って、むしろ私がプレッシャーを感じてしまって。
韓国の人間関係というと、基本的には「ご飯食べた?」が挨拶がわりで、そうやって一緒に食事するのが親しくなるための第一歩。でも日本の人は、一緒にご飯を食べるのはたいてい親しくなってからでしょう。日本人は人間関係における「壁」が強いな、と思いました。授業の後もそう。終わったら自分のバッグを持ってさっさと出て行っちゃう。えーっ、隣の人と挨拶くらいするのが普通なのに。私が外国人だから挨拶しないのかな、とはじめは思ったんです。でも日本人同士でも同じ態度なので、ああ、そういうところが私たちは違うんだな、と。

そういえば韓国で外食すると、どちらかが「おごる」のが習慣だとか。
そうです。日本では割り勘が主流でしょう。韓国ではたいてい年上がおごります。私も日本に来てからは、日本のルールに従うようにしていますけど。
なぜ、日本に留学をしようと思ったのですか。
中学の時から日本には興味があって、大学生になったら交換留学で行きたいなとずっと思っていました。中学の頃にネットで日本のドラマなどの面白いコンテンツを見つけて、韓国語訳された小説や漫画を買って読んでいました。作家でいうと朝井リョウ、伊坂幸太郎、村山由佳、三浦しをん。最近はまっているのは湊かなえ。あとは坂口安吾や太宰治。太宰(治)は「自分の人生と、もの凄く激しく戦っている」という感じが伝わってきて好きです。「人間失格」とかね。それに、私は韓国の歴史に興味がありましたので、とくに近代史となると当然日本との関わりも強い。そうした日本との文化的な関わりを韓国・日本の両面から見るのも興味深いなと思いました。そんな調子で結局、ここまで来てしまいました(笑)。
パクさんは一人っ子ですね。日本に留学することで、ご両親は寂しがられたのでは?
私が決めたことに両親は反対しません。何でも好きなようにやりなさい、そのかわり、自分のすることに責任を取りなさいと。母とはLINEでマメに連絡していて、とても仲良しですが、私はいわゆる「ママボーイ」ではありませんよ(笑)。母とは親子というより姉弟のような関係です。そんな二人を、父が外から見つめてくれている。私たちは、そんな家族なんです。
素敵なご家族ですね! 広島にはじめて来られた時の感想は?
「広島」大学というので、キャンパスも広島市内だと思っていたんです。ですから西条にきて、びっくりでしたね(笑)。しかし、こんな経験は滅多にできませんし、夜は星が綺麗ですし(笑)。韓国の大学とは大きく環境も違って戸惑うこともありましたが、これも良い勉強だと今では思っています。
買い物や外食は?
買い物は主に近所のスーパーです。服は韓国から持ってきました。今はデートの相手もいませんし(笑)、授業と寮の往復ですから、着るものにはこだわりません。
あと、韓国にはカフェの文化があって、大学の周囲の半径1キロ以内にカフェが20件くらいあります。学生はご飯を食べたらその後はカフェ。夜11時く らいまで営業しています。韓国ではそうやって食事やお茶をしながら仲良くなるのですが、日本ではご飯まで行ってもそこで終わり。これではデートの相手も見つかりませんね(笑)。

日本では入手できなくて困る物はありますか?
とくに不自由はありませんが、しいていえば食品。日本のスーパーで売っているキムチとか、あれは私に言わせれば、キムチとはまったく別の食べ物ですよ。
辛さが足りない?
味の深みがぜんぜん足りません! 私は韓国ではいつも家族でつくる自家製キムチを食べていますから、日本のお店で買ったキムチに満足できるはずがありませんよ(笑)。逆に、日本に来ておいしいなと思ったのは、ワサビ味のお菓子。これは韓国では見たことがありません。それと、醤油をかけて食べる卵かけご飯!
お酒は?
飲みます。日本の友達と飲みに行くと、あまりに早く酔っぱらうからびっくりしました。個人差はもちろんありますが、日本の友達はたいてい弱い。しかも自分のペースがわからずに飲んでいるみたい。驚いたのは、日本の友達が「飲み放題」に行こうというから一緒に行ったら、彼は最初だけ生ビールを頼んで、二杯目からもうイチゴミルク! 三杯目はオレンジジュースとか。なんで飲みに行こうなんて誘ったのかな? 飲み放題なのにほとんど飲んでないじゃん、て(笑)。思うに、お酒を飲むことよりも、その場の雰囲気を楽しむことの方が日本人には大事なんでしょうね。私は韓国ではお酒が弱いほうですけど、日本に来てからは、何だか凄く強い人になった気がします。
なるほど(笑)。広大での授業は、主に日本語や日本文化中心ですか。
半分は日本語、半分は専門の授業です。留学生向けの授業で使う日本語と、正規学生向けの授業で聞く日本語では、日本語のレベルがまったく違います。専門の人類学の授業では、自分の意見を日本語で表現しなくてはなりません。私はディスカッションまでは大丈夫だけど、プレゼンテーションとなると未だに難しいなと感じます。あと、何でも自分の意見を積極的に発言する韓国の学生と比べると、日本の学生は授業態度がおとなしいなと思います。あれでは、授業が盛り上がらなくて先生が苦労されるのでは? もっと積極的になってほしいと感じられているのではないかなと、私にはそう思えます。
ところで、いつか韓国で学びたいと思っている学生にアドバイスをいただけませんか。
大学を選ぶにあたっては、そこの先生が立派なことも大事ですけど、学生のレベルもよく見てからにしてください。学力が全てとは言いませんが、やはり優秀な学生と共に学ぶことは、良い先生に師事することと同じくらい重要ですので。あと、物価がわりと高いことにも要注意。あっという間にお財布が薄くなっていますから。あと、歴史ドラマなどを見て韓国らしさを求めてやってくる方は失望するかもしれません。たとえば、韓国には昔ながらの家で形成されている村があるんですが、日本でいうと竹原市みたいな所かな、そこもどんどん観光地化されてきて、観光客向けのコーヒーチェーンやファーストフードのお店などが進出して、いったいここはどこ? みたいな状態になってしまっている。個人的には残念なことですね。
それから、短期旅行する方へ。治安は良いです。でも多くの日本人は、韓国というと決まってソウル、それも明洞(ミョンドン)などの有名な場所にばかり行きたがりますね。ドラマのロケ地とか、アイドルのコンサートとかね。そういうのだけで終わるのはもったいない。自分で旅行の幅を広げて、色んなところを歩いてみてほしいですね。

次に、日本への留学を考えている後輩へメッセージをお願いします。
自分のアイデンティティをしっかりと確立すること! 留学するのはそれからです。なぜなら、日本に留学するとすっかり日本流の考え方に染まって、日本は良いのに韓国はここがダメだとか言い出す学生が結構いるんです。そういうのは格好わるいと思う。日本の人にもいるでしょう、欧米に行って帰ってきたとたん、何かにつけて「私が滞在していた○○では・・・」と日本に対してダメだしをする人。自分の国に偏れと言っているのではありませんよ。自己のアイデンティティをはっきりさせた上で、中立的な立場から学ぶことが大切なのです。日本が好きだから何でも良い、嫌いだから何でも悪いというのではなく、「好きだけど、この部分には自分は反対」とか、自分の考えをはっきりと持てるようになってから留学してほしいです。簡単なことではありませんけどね。
最後に、将来の目標を教えてください。
そうですね、朝から満員電車に揺られて通勤するサラリーマン生活なんて、今の私には想像もつきません。ですから専門の研究を続けるか、さもなければ自分で会社を立ち上げたいなと思っています。さきほども言ったとおり、他の人が仕事している時に遊び、他の人が遊んでいる時に仕事をするのが私の確固たる信念ですから、サラリーマンには難しいけど、社長になればそれができるでしょう。やりたいのは観光のコンサルティング会社ですから、事務所とパソコンが一台あれば資金も少なくて済むしね。まずは日本で会社を立ち上げ、成功させてから韓国へ戻るのが理想です。この留学期間の目標はというと、文化批評の論文をひとつ日本語で完成させること。それから、授業をきちんとこなすこと。
ありがとうございました。他にコメントがあればお願いします。
人生とは、楽しむこと! 留学生活においても、最後の最後まで楽しんで、後悔のないように過ごしたいですね。
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