第34回 フルタド ペドロ ガブリエルさん(ブラジル)

「留学生のチカラ」

名前: フルタド ペドロ ガブリエル
出身: ブラジル
所属: 工学研究科 (博士課程前期1年)
趣味: ゲームを作ること、日本のドラマやアニメを見ること、筋トレ、ピアノを弾くこと、日本のゲームをするのも大好き!

(取材日: 2016年6月30日)

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ふるさとは、どんなところですか。

セアラー州の州都フォルタレザ(Fortaleza)、ブラジルで5番目に人口が多い大都市です。ビーチが有名で、それを目当てに観光客が多く訪れます。僕は13歳までそこで暮らした後、隣の静かな町エウゼビオ(Eusébio)に引っ越しました。都会生活と高い家賃を払うのに飽きた父のおかげでね。それ以後も、僕はずっとフォルタレザの高校と大学に片道2時間もかけてバスで通いました。僕の実家は牧場です。以前は豚も飼っていたけど、現在は鶏ばかり300羽くらい。父は今は引退しているけど銀行に勤めていました。きょうだいは、とてもかわいい大好きな妹が二人! しばらくこの二人には会えていないから、今とても彼女たちに会いたいですね。

セアラー州の名物といえば、タピオカ料理ですかね。日本の人はタピオカというと飲み物に入った黒い粒々を想像するでしょう。しかし、ブラジルでタピオカというと料理の材料です。タピオカの白い粒をフライパンで焼いてつくる料理は朝食やおやつとして人気があって、その名も「タピオカ」。僕も大好き。その他にも、タピオカ粉でつくるポンデケージョ(チーズパン)など、料理のバリエーションは多彩です。ちなみに、タピオカを「飲む」という文化はわが国にはありません。だからタピオカミルクティーなんて、初めて見たときにはびっくりしましたよ!

ブラジルでは、どんな勉強をしていたのですか。

専攻は「情報」工学でした。ブラジルの大学では同じ工学でも、「情報」と「電気」はそれぞれが独立した学部でした。それで僕は、初めは「電気」の学部に入ろうと思っていたけれど、調べてみると「電気」の方が「情報」よりも受かるために必要とされるスコアが低かった。それで、どうせならより難しい方に挑戦したくなって「情報」を選んだんです。我ながら変な理由で決めたなあ! でも、つまるところ僕のやりたいのは「ソフトを作る」ことだから、結局は「情報」に進んで正解だったというわけです。

日本での学生生活は、ブラジルと比べてどうですか。

比較は難しいですね。というのも、ブラジルでは授業や試験が難しくて大変なんです。入学時には50人いた学生が卒業時には5人、なんてことも珍しくない。たとえば3年生の授業に出席している学生の顔ぶれを見ても、3年生だけでなく色んな学年から来ているんです。つまり同じ授業を何回も落としてリピートする人が多いということ。それくらい厳しい。だけど、ブラジルでは国立大学の学費がタダだから、学生はあまりバイトを頑張る必要がなくて、その点では日本の学生は結構苦労しているなと思います。彼らは勉強のことだけでなく「人生に忙しくて」大変。お互い、苦労の理由が違いますよね。ブラジルでは、放課後は部活もないから好きなことをして過ごします。パソコンでドラマを見たりゲームをしたり、友だちと遊んだり。

そういえば、来日前にはドラマを見て日本語を勉強したとか。

はい。「1リットルの涙」、「野ブタをプロデュース」、「半沢直樹」。そういうのを見て自分で勉強していました。中には難しいものもあるけど、一生懸命見れば、全部はわからなくても必ず何かをつかむことができます。ああ、今、主人公は窮地に陥っていて、ライバルがした悪い事をあばこうとしているんだな、とか。それに、普通に日本語のレッスンを集団で受けると、同じ教室のみんなに合わせる必要があるでしょう。でもドラマを見て独学すると自分のペースでやれるので、そこが僕には合っていたみたい。

日本に来ようと思ったきっかけは?

きっかけは、友だちですね。その友だちは、今僕がやっているプログラムで留学しようとしていて、結局3度目の挑戦で実現したのだけど、その時僕も一緒にやろうと思ったのがきっかけです。実は、僕は最初はフランスに留学していて、日本語の勉強を始めたのはその頃なんです。別に日本に行くために勉強を始めたわけじゃないけど、もう一度どこかに留学したいという思いが、その頃から漠然とあったので。

フランスでの留学生活はいかがでしたか。

フランスで一人暮らしをしたおかげで、一人暮らしが僕に合うことを実感できました。6か月間は大学の授業に出席して、残りの6か月間は自分の研究。その研究も自分のペースでやれていたし、僕は自分のペースでやることが好きだから、そういう意味では凄く充実した留学生活でした。自由にやりなさいと言われたら怠ける人もいるけど、僕の場合は、自由を与えられたら、ちゃんと自分でルールを決めて自分のペースでやれます。フランスでは勉強の他にバドミントンや、それから、初めてのインターナショナルな恋愛も経験しました! 異文化の壁を越えてすごく好きになって、今までで一番いい恋愛でした。だから彼女と別れた時は、ずっとずっと何日も泣いていました。その恋愛は今でも僕の自慢だし、恋愛のあるべき姿だと思いますね!

なるほど。ところで、専門の「学習工学」について少し教えていただけますか。

僕が今やっている学習工学(Learning Engineering)の研究は、子どもたちの「学び」を、そのために作られた専用のソフトウェアを使って支援するというものです。ソフトといってもいろいろあるけど、僕が作っているのは、たとえばこういうのです。何枚かのカードがあって、それらを組み合わせてアニメーションをつくる。最初のカードには2羽の鳥が描かれていて、次のカードには、飛んでいる2羽の鳥。そして3枚目は空白、つまり何も描かれていない。これが一連のアニメになって、「2マイナス2は0」という数式の物語が完成します。こんな感じで、子どもたちに算数を具体的に体験してもらうんです。

このような体験は、学びにおいて非常に重要です。なぜなら、自分がやっていることの意味がわからないまま、ただ授業の内容を機械的に暗記している子どもが実に多いからです。そういう子は、基礎の知識が十分に固まっていないまま次の段階に行くから、先に進むにつれてついて行けなくなってしまいます。僕に言わせれば、数学を苦手とする人が多いのは、まさにそのことが原因です。別にその生徒に学ぶ力がないわけじゃない。数学に必要な概念を教えることがいかに難しいか、問題はまさにそこにあるんです。すぐにわかる子もいるけど、すぐにはわからない子も多い。その子たちのために役に立つソフトを作ろうとしているんです。数学において最も重要な「ナンバーセンス」、すなわち「数の概念」を、子どもたちに味わってもらうためのソフトをね。

ここで、「ナンバーセンス」について簡単に説明しますね。これは現在、アメリカの教育省が子どもの数学教育において最も重視している項目の一つです。「数」とはそもそも「量」を表すものでしょう? だから、たとえば「9と7、どちらが大きい?」と質問されたら、もちろん答えは「9」ですね。でも、何を質問されているのかその意図が理解できない、つまり、その意図を理解するために必要な「感覚」が身についていない子どもが多いんです。そういうのは望ましくない。だから、それを問題視するいくつかの国がこのことに力を入れているんです。そしてその感覚のことを僕たちは「ナンバーセンス」と呼んでいます。

それが身についていないと、「9」と「7」の差がわからないということですか?

そうです。もう一つわかりやすい例を挙げてみましょうか。0.998と0.989を足したら、およそいくらですか? 答えてみてください。数字は正確じゃなくていいですよ。

およそ2、で正解ですか?

そう。そう答えられるのも、ある意味、ナンバーセンスの力なんです。この感覚が身についていない子どもにこの質問をすると、二つの数字を並べて書いて計算を始めます。およそ、と言っているのにね。

なるほど。

さきほども言ったように、これを身につけてもらうためのソフトを作るのが僕の研究です。でもこれは魔法じゃなくて現実の話だから、これを食べたら身に着く、これを着ればわかるようになる、なんて夢のような手段はありえない。どんなに優れたソフトを作っても、全ての子どもに効果があるわけじゃない。効果があるのは一部の子だけで、その他の子どもにはさらに別のアプローチが必要なのかもしれない。でも、たとえその一部の子のためにだとしても、そのソフトを作る意味は大いにあると僕は思う。他の子よりも勉強が遅れていた子が、そのソフトのおかげで将来は数学がすごく好きになって研究の道にすすむとか、そういうことだってあるかもしれない。そんな可能性を、僕は子どもたちから奪いたくないんです。自分のせいじゃないのに数学がきらいになる子どもをひとりでも減らしたい。そのために、この研究を続けているんです。

なるほど。広大の授業に参加した感想は?

日本人の学生は、授業中とても静かですよね。隣の人とおしゃべりをして授業の妨害をしないのは大変すばらしいことだけど(ここまではほめ言葉です)、一部の学生を除いて、質問もあまりしないし意見も言わず、ただ黙っている。そして先生だけが話している。最初の頃は、みんな大丈夫? どうしたの? と思いました。大学の授業ではたいていClassroom Participation(授業中の積極性)というのが成績評価対象の一つになっていて、授業で質問や発言をすれば成績にプラスになることが多い。それが大きなウェイトを占める場面では発言するけど、それがない場合は遠慮して黙っている人が多いみたい。授業だけでなく研究室でもそう。研究室をより良くするためにアイデアをだしているのは僕だけ。他のみんなも問題意識がないわけじゃないと思う。なのに、何も言わない。なぜでしょうね。日本の人は自分の立場や序列に縛られて、あまり自分の言いたいことが言えなくなっているのかな。僕はそう思います。

ペドロさん自身は? 日本でも言いたいことが言えている理由はなんでしょうね。

僕にはね、魔法の杖があるんです! 僕はそれを「留学生のチカラ」と呼んでいて、それが、ここ日本では絶大な威力を発揮するんですよ。この力、フランスではまったく効き目がありませんでしたけどね。

「留学生のチカラ」とは?

わかりやすく説明すると、僕たち留学生は、日本人がなかなか越えられないでいる壁をたやすく越えられるということ。さきほど話したように、言いたいことがあっても結局遠慮してしまうのは、相手との人間関係に、自分でつくった壁があるからでしょう? 他の級友の目もある中で、自分だけが目立つことをするのは勇気が要る。それが服装でも、行動でもね。でも、それは常に周囲を気遣う文化の中で育った日本人に限って言えること。僕は違う。日本の人は、同国人どうしならいろんなマナー違反や空気の読めない態度について厳しく注意し合うけど、僕たち留学生が同じことをすると優しく見逃してくれる。もちろん、みんなで決めたルールを破るとか、人に迷惑をかけたり尊敬に欠けたりするのは絶対にいけないこと。僕が言っているのは、何のために守っているのか、守っている人たち自身がわかっていないような習慣のことです。

僕はね、留学生である自分には、日本で果たすべき使命があると信じているんです。せっかく留学してきたのだから、研究室を、そして日本を、より良くするために自分は働くべきだと思っている。だから精一杯自分の意見を出したり、問題点を指摘したりしています。留学生のチカラとは、まさにこのためにあるんです。日本のみんなは先生との間に壁を作って、先生にあまり意見を言わない。でも本当は、先生はみんなの意見を待っているんです。なのにみんなが勝手に遠慮している。そういうのはだめだと思う。特に研究の世界においては、「壁」はただの邪魔物でしかない。多くの学生が「先生が学生を教えるべき」だと思っているけど、僕はそれを双方向でできると思う。むろん経験も知識も先生が上だけど、だからといって、学生から学ぶことは何もない、なんていう先生はいませんよ! 特に、研究においてはいろんな見方があって、そのすべてが大切だし、だから学生も先生のために力になることが必ずあると思う。日本のみんなにはもっと頑張ってほしいな。

留学を考えているブラジルや日本の後輩たちに、何かアドバイスをお願いします。

たとえばアメリカに留学しようとする時、英語が得意じゃないからとか、行けない理由を数え始める人がいますね。留学は不安なことも多いけど、悩んでいる人ほど行くべきだと僕は思う。行く前の準備? 心がまえ? いや、僕はそういう人じゃないから(笑)。手続きに必要な書類だけ集めれば十分でしょう? それと、ある程度のお金。それさえあれば何でもできます。それ以外のことなんて考えなくて大丈夫。何か失敗するんじゃないかと心配? 大丈夫、心配ない。だって失敗は必ずするんだから! いくら準備しても、必ずみんなが失敗を経験します。文化の違いにぶつかったり、友だちとけんかしたり、落ち込んだりね。でもそこから学ぶんです。だからとにかく行くべき。それが大事です。

最後に、ペドロさんの夢を教えてください。

いつか凄く感動的な、鳥肌の立つようなストーリーのあるゲームソフトを作って、そのゲームでたくさんの人を感動させることです!

それは楽しみですね。本日はありがとうございました。

ありがとうございました!

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