第35回 マーティン マンガンダ トディさん(マラウィ)

「課題解決への鍵」

名前: マーティン マンガンダ トディ
出身: マラウィ
所属: 工学研究科情報工学専攻(博士課程前期1年)
趣味: 音楽を聴くこと(主にブルース,ジャズ,90年代ヒップホップ),読書(主にノンフィクション),旅行,プログラミング

(取材日:2016年9月21日)

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ふるさとは、どんなところですか。

マラウィ南部にあるゾンバ(Zomba)という都市です。とても小さくて静かな、ここ西条よりものんびりとした町です。暑すぎず寒すぎず、ちょうどよい気候に恵まれたこのふるさとを、私は気に入っています。山々に囲まれた景色は素晴らしく、人々も親切です。また、1975年まではマラウィの首都であったことから、当時をしのばせる古い教会やオフィスといった建造物もいくつか見られます。言語に関しては、マラウィでは特に若者たちは、というか大半がそれに該当しますが、英語とチェワ語の2つの言語を混ぜて話します。

学校の教室でも?

それは、その教室がどのくらい厳格かによりますね。私たちが学校で習うのはイギリス英語です。教室ではスラングは禁止で、正式なきちんとした英語を話すよう指導されますが、ミックスしたような話し方が許されるところもあります。しかし、マラウィのポップカルチャー(大衆文化)はアメリカの映画や音楽などからの影響を常に受けてきましたから、文章を書く時はイギリス風だけど話す時にはアメリカ風、という人が多いですね(笑)。

地元の食べ物やイベントはどのようなものですか。

町のイベントやお祭りのようなものは特にありませんが、人気のある娯楽といえばサッカー観戦ですね。あとは、場所によっては踊ったり、多くの場合は、友だちどうしが集まって一緒にゲームをしたり、ビールを飲んだりして楽しみます。ビールの種類は色々ありますが、中でも一番人気があるのはスイートビール(sweet beer)ですかね。これはメイズ(maize)という白トウモロコシの粉からつくる地元の飲み物で、どろっとした「おかゆ」のように見えます。その他にも、輸入もののビールも好んで飲まれます。

食文化については、私の国ではあまり地域ごとの違いはみられず、全国の人がみな同じようなものを食べています。主食はメイズの粉でつくるシマ(nsima)。沸かしたお湯の中に粉を入れてしばらく煮た後、さらに固くなるまで粉を加えます。お米のおかゆに似ていますね。それを豆や肉と一緒に食べます。

ところで、マラウィでは大学の先生をされていたとか。

はい、卒業後そのまま1年間だけ大学に残り、いくつか授業を受け持ちました。日本に来たのはその後です。

大学を退職して日本に来たのですね。なぜ日本を選んだのですか。

なぜ日本だったのか? これは重要な質問ですね。主な理由としては、違う文化に触れてみたかったからです。教育制度のあり方や学校での学び方はもちろん、人々の日常生活に至るまで、私が慣れ親しんだものとは大きくかけ離れたこの日本で学べることは、私を成長させてくれるとてもよい経験だと思いました。そして何より、わくわくするような挑戦意欲をかき立てられました。それが、当時は日本語をまったく話せなかった私が、それでも日本を選んだ理由です。

日本語を話せなかったのですか。ひと言も?

ひと言も。いや、「ありがとう」「こんにちは」くらいは知っていたかな。それで来日後、広島大学国際センターの日本語研修コースで半年間(2015年4月~9月)日本語を学びました。

さきほど「違い」について言及されましたが、私たちの違いとは、具体的にはどんなものでしょうか。

ひと口に「違い」といっても、どのような視点で見るかによって、答えはそれこそ違ってきますね。もし生活全般における違いのことを言うなら、日本では当たり前のように行われていることが私の国ではそうはいかない、ということが多くみられます。たとえば、日本ではすべてが都合よく時間通りに提供されるサービスのシステムが整備されていて、人々は安心してそれを利用することができます。ところが私の国では、たとえば銀行を利用する時も、そこでどのくらい長く待つことになるのか見当がつきません。便利で迅速なサービスが当たり前の日本と違って、期待どおりのサービスがちょうどよいタイミングで提供されるとは限らないからです。大都市にいけば、病院や学校、交通機関といった施設や設備の質は多少上がりますが、それでもやはり、日本のものとは比較になりません。

日本での学生生活はどうですか? マラウィのそれと比べて。

日本での学生生活は、ちょっと快適すぎるかなと思います。それは私が留学生だからなのか、それともマスターに上がったからなのかわからないけど、母国で学んでいた時の方が授業が集中的で大変だったと感じます。ここでの学生生活は私にとっては、何というか、とにかく授業に出席して先生の講義を聞くことが何よりも重要なことで、レポートや筆記試験や山ほどの課題を提出しなくてはならない重圧を日本ではあまり感じたことがありません。その点、マラウィではそういうたぐいのプレッシャーが、それはもう大変でしたから。

現在の専攻について教えていただけますか。

私が現在取り組んでいるのは、分散システム学の研究です。分散システム学というのは、そうですね、FacebookやGoogle検索エンジンやAmazonといった、同時にいくつもの端末上で動くコンピュータシステムを想像してみてください。いずれも、様々なモバイルアプリケーション上で働いているものですね。

たとえば、皆さんがご自分のスマホからGoogle検索エンジンなどを使ってマラウィのことを調べたいと思い、「Malawi」と入力するとします。その際、入力した情報がどこへ飛んで行き、検索結果がどうやって自分の手元まで飛んでくるのか。一般ユーザである皆さんは、そんなことをいちいち気にする必要はありません。ところがその背景では、見えないところでいろんな処理が行われていることはご存じですよね。

それに、米国に本拠地を持つGoogleは世界中にサーバを持っていますから、たとえば私が日本に来れば私の携帯は自動的にGoogleジャパンに切り替わるし、マラウィに戻ればGoogleマラウィに切り替わります。しかし、一般ユーザである私がそのような変化に注意を払う必要はありません。私からは、あくまで同じシステムが働き続けているように見えるだけです。

つまり私の研究というのは、一般のユーザがそれを使うとき、あたかも自分の端末の上でだけ動いていると感じられるようなシステムを考案し、設計することを目的としています。ざっくり言うと、FacebookやGoogle検索エンジンやSkypeといったシステムをつくる技術者になるための研究。そういったところでしょうか。

マラウィでも、インターネット利用者の数は多いのですか。

いいえ、多いとはいえません。私が今の専攻を決めた理由のひとつがそれです。私が十分な知識を習得することができれば、わが国でもより多くの人が利用できる安価なサービスのシステムを構築するお手伝いができると考えたのです。現在、インターネットサービスは、多くの人にとっては手の届かない高価なものなのです。

それでは、都会から離れた地方での生活はどうなっているのですか。

地方の生活には様々な問題があります。そのひとつが、移動通信関連企業は地方への投資にあまり積極的ではないということ。地方では人口が少ないというのがその理由です。しかもその少ない人数が広範囲に分散して居住しており、そのような地域の全員が利用できるような移動通信インフラを整備するのは企業にとってコストがかかりすぎますから、それで彼らは計画を断念してしまいます。それに、さらに山深い奥地に行くと、電気すら通っていないところもあります。

では、遠く離れた店から買い物をしたい時には、どうしているのですか。

長い距離を移動しなくてはなりません。ですから地方の人々は、普段は近所の食料品店で買い物をします。そういった店が地域の台所を支えているのです。しかし問題は、そのようなお店はたいてい都会から遠く離れているので、店のオーナーたちは、地元のみんなが買い物に来られる自分の店に商品を仕入れるためだけに、長距離を移動しなくてはならないのです。すると、商品を仕入れるにあたって多額のお金がかかるので、商品の価格が跳ね上がってしまいます。

しかし私にいわせれば、そういった問題の多くはいずれもエンジニアリング、つまり技術の問題に端を発しているのです。皆が利用できる持続可能なエネルギーをどうやって供給するか、地方への通信インフラや電力の供給をどうするか、安く利用できる交通手段の提供は? それらはすべてエンジニアリングの問題です。すなわち、現在私たちが直面している課題の多くを解決するための最も重要な鍵となるのが、エンジニアリングの強化なのです。

ここまでは、マラウィの課題についてお話しくださいました。マラウィが誇るべきことについても、ぜひお聞かせください。

もちろん、誇るべきことはたくさんありますよ(笑)。問題点ばかりに目が行くのは、学生として研究者として、常に物事をより良くしようと考えているからです。良いこともたくさんあります。マラウィでは誰もが幸せに、おおらかに暮らしています。おもしろいことが大好きで、人生を大いに楽しみ、その上、非常に小さな国なのに文化的多様性に富んでいます。というのも、私たちの文化の背景には、様々な部族の伝統が息づいているからです。部族ごとに踊りも違えば、同じ料理なのに違った作り方をしたりもします。そして、どの部族にも、独自の言語が存在します。

ところが近年では、自分がどの部族の出身かなど誰も気にしません。マラウィが国家として発展するに従い、部族どうしの隔たりは意味をなさなくなりました。なぜなら、私たちはみな同じマラウィ人だからです。私自身も、特定の部族の一員というよりはマラウィの国民です。そして現在、若者たちの間では、種々の違った文化を混ぜ合わせた、まったく新しい文化が生まれようとしています。

共通の文化ですか。

そうです。様々な文化的背景をベースとしたポップカルチャーのようなもの。マラウィのあらゆる言語を融合して生み出される新しい言語とか。何だかわくわくする響きでしょう? さらに特筆すべきことは、マラウィは若者の国だということ。私たちの国では年配者の人口が少なく若者が多いことから、そういったポップカルチャーの波が、なだれを打って押し寄せてきています。溢れるような音楽、様々な踊り、そしてスポーツ、いずれも誰もが楽しめる共通のもの。そして何より、大勢の若者たちで賑わう活気ある光景は、見ているだけで元気が湧いてきますね。

年長者が増加し子どもが減少している日本とは、ちょうど逆なのですね。

日本の人の暮らしぶりは、とても静かで穏やかなものですよね。若者よりも年配者が多いせいなのかどうかはわからないけど、誰もがのどかな生活を好むようです。その一方で、日本人は伝統に根づいたとても豊かな文化を継承しており、歴史をしのばせるお祭りや行事が数多く現存しています。様々な地域の文化が今も守られているのは、若い人よりも文化的行事を好む傾向にある年配者の人口が多いからではないでしょうか。この考えに自信はありませんが、私はそんなふうに思います。実際、地方の伝統行事や式典に行くと、若い人よりも年配者の方を数多く見かけますしね。

どういうわけか若者たちは、こういった伝統的な行事にはあまり連れ立って参加しません。それはわが国でも同様です。そしてマラウィには年配者が少ないため、言語のいくつかは滅びつつあります。たとえば私も、自分の部族の言語を話すことができません。おそらく、私の両親の世代が最後の話者になるでしょうね。その点、日本では、古き良きものを継承しようとする年配者の人口が多いために、それらを守るためのシステムのようなものが存在しているのでしょうね。

興味深いご意見ですね。ところで、余暇はどのように過ごしていますか。

暇な時はたいてい友だちと出かけます。西条近辺のバーや居酒屋で、いろんな日本の料理や酒にトライしています。とてもおいしいです。私の国では料理にあまり香辛料を使わないので、辛い食べ物がありません。それで、辛すぎない日本料理は私の口に合うのです。日本のお酒も好きです。たとえば梅酒とかね。それに、運動もよくします。ジムに行ったりジョギングしたり、週末にはサッカーもやります。

マーティンさん、留学を考えている学生にアドバイスをお願いできますか。

留学は皆さんにとって、とても大切な決断だと思います。留学で学ぶのは学問だけではありません。文化の違う人々と生活を共にすることで、ひとりの人間としても多くを学ぶことができます。同じ文化的背景を共有する人々に囲まれて生活していると、自分の生活様式や言動など多くのことについて、それが当たり前だと思ってしまいます。しかし、今までと違う仲間と生活を始めれば、自分が他の人に対してしていることがおかしいと気づくこともあるでしょう。逆も同じです。他の人がしていることが、あなたにはおかしいと感じることもあるでしょう。それこそが、互いの相違点を理解するための努力へとつながっていくのです。そうして、いつしか自分とは違う色んな考えを持つ人を理解し受け入れることのできる、人間的に大きく成長した自分に気づくことでしょう。

世界がグローバル化の一途をたどり、境界線がもはや意味をなさない時代に突入しつつあるこの時、私たちは、従来とは違った視点から自分の生き方を見つめることを学ばなくてはなりません。ですから、留学を希望している人には、ぜひ行くことをおすすめします。

すばらしいアドバイスですね! ありがとうございました。マーティンさん、将来の夢は何ですか。

いずれマスターを修了したらドクターに進学し、そして卒業後は母国に帰り、研究・開発の仕事に従事したいと考えています。先ほども述べたように、わが国だけでなくアフリカ全土を悩ませている問題の大半は、技術不足に起因するものです。従って将来、私のような技術者が大勢で力を合わせ、志をひとつにして同じ目標に取り組んでいければと思っています。エネルギー、交通システム、そして安く利用できる通信手段。現在私たちが必要としているものはすべて、技術上の問題を解決することで手に入ります。ですから私の夢というか希望ですね、それは、広大での勉学を終えたらマラウィに帰り、問題を多く抱える地域に赴き、その解決に向けて働くことです。

最後に、ひとことコメントをお願いします。

アフリカ諸国についての情報はよく耳に入ってくると思うけど、マラウィをはじめとする国々での生活が実際どんなものか、正しいイメージを持っている人は一部ではないでしょうか。ですから皆さん、もし機会があるなら、ぜひ訪れてみてください。たとえばマラウィでは、日本では味わえない経験をたくさんすることができます。その地を実際に訪れて自分の目で現状を確かめることは、とても大切なことだと私は思います。これまでとは違う角度から人生を見つめるとても良い機会となりますから。

そしてマラウィでは、楽しいことが盛りだくさんです。嬉しいことに、何もかもが安いです。交通機関もホテルも安いので、何でも楽しめます。サファリに出かけて野生動物を観察するもよし、淡水魚に舌鼓を打つもよし、それから地ビールもお忘れなく! トライしてもらいたいものはたくさんあります。きっと、皆さんにとって忘れられない有意義な体験となることでしょう。

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