「仲間とともに、日々奮闘中!」
名前: マンダル モハマド シャミム ハサン
出身: バングラデシュ
所属:大学院国際協力研究科(IDEC)博士課程後期1年
趣味: 旅行,写真を撮ること
(取材日:2017年11月9日)
まず、出身地についてお聞かせください。
バングラデシュの北西部にあるジョイプールハット(Joypurhat)県から来ました。ジョイプールハットは熱帯気候に属する小さな県で、さらにその中のパンチビビ(Panchbibi)郡という田舎町が私の故郷。見渡すかぎり田んぼだらけの平穏なところです。かく言う私も農家の生まれです。そして、町の人々も大半が農業に従事しています。
バングラデシュの人々は、日本人よりもずっとたくさんのお米を食べるそうですね。
そうですね。食堂の普通サイズの米飯だったら、私は一度に3~4杯は平らげてしまいます。私たちはバングラデシュ・カレーと一緒に大量のお米を食べるのが習慣なんですよ。そして食べる時、私たちは手を使います。たいていの人はそうなのですが、中にはスプーンやフォークを使う人もいます。しかし、伝統的な作法からいって、手で食べるのもOK。私の家族も手で食べますしね。
日本のお米は口に合いますか。
日本で栽培されているのはジャポニカ米ですね。粘りがあって、バングラデシュの米とは全然違います。もちろん最初はおいしいとは思えませんでした。私が好きなのはパラッとしたご飯ですから。でも、何とか食べているうちに数か月後には慣れました。ジャポニカ米はネバネバしているけど、結構いけると今は思いますよ。ただ、私が作るのはたいていバングラデシュ料理で、カレーの場合も、ご飯はたいてい炒めて食べたりするので、そういった料理に日本米(短粒米)はあまり向かないんですよね。日本米は、やはり寿司などの日本料理にこそ適していると思います。
ところで、なぜ日本に来ようと思われたのですか。
私がシェレバングラ農科大学で農学を学んでいた頃、何人かの先生が、博士号を取るために日本政府の奨学金を受けて日本へ留学したんです。それを見て私は、とても羨ましく思いました。それで、学部1年目か2年目の時、同じ奨学金に応募しようと思いました。その選考にパスすれば優秀な学生であると認められたことになるし、それに、もし修士や博士の学位を日本で取得できれば、将来の就職にとても有利になるからです。というのも、将来はバングラデシュで研究者か大学教員の職に就くというのが私の目標ですから。
広島大学を選んだのはなぜですか。
実は、初めから広島大学を志望していたわけではありませんでした。とにかく日本政府の奨学金を受けて日本の大学へ行く、それしか考えていませんでした。そんなある日、大学の職員から、とある日本の大学の教授の名刺をもらい、その先生がバングラデシュの学生を何人か探しているという話を聞いたのです。私はさっそくその先生にメールで連絡を取りました。先生からの返信は、私が希望する研究内容と将来の計画を問うものでした。それで私は、自分の研究計画と、これまでに発表した論文について説明をしました。それを受けて先生は「受け入れ可能」のお返事をくださっただけでなく、大学への出願手続きまでサポートしてくださいました。
現在はどんな研究をしているのですか。
現在取り組んでいるのは稲(イネ)と雑草防御の研究です。稲から抽出した化学物質を天然の除草剤として利用するというものです。
化学物質を、稲からですか。
そうです。稲田には様々な雑草が生育します。稲の研究を通してそれらを除去しようというのが私の現在の研究です。
たとえば稲刈りの際、食べるのは米だけなので、他の部分は捨ててしまうでしょう。その廃棄される部分に含まれる様々な化学物質を調査し、それを雑草防御のために利用するのです。このような研究をアレロパシー(Allelopathy)といいます(綴りを書いて示しながら)。これは雑草学の分野の一つです。そもそも「雑草」というのは、田んぼやその他のいろんな場所に生える、あまり有難くない植物のことですね。たとえば丘にもいろんな植物が生育しますが、その中にも様々な種類の雑草があります。それらは不要にして歓迎されざるもの、それでいて生命力がとても強い。私は現在、それら雑草についての研究を、稲田の中だけに対象を絞っておこなっています。
農業従事者にとって、雑草の除去は手間のかかる大変な仕事ですね。
それとは別の根本的な問題もあります。除草には環境に悪影響を及ぼすばかりでなく、私たちに健康被害をもたらす多くの有害な合成化学物質が用いられているということです。そこで、私たちの研究室では、合成的につくられたものとは異なる天然のものを用いて、使用後に有害物質を残さない除草剤を作ろうとしています。願わくば、従来の化学合成物でできたものよりも効果的で、しかも、農業従事者にも環境にも害をなさない安全なものをね。
研究室に日本人学生はいますか。
今期はたった一人しかいません。そもそもIDEC、特に私たちの開発技術講座では、日本人学生の数がそれほど多くありませんからね。しかし、違う専攻の学生と一緒の共通科目の授業もありますから、そこでなら日本人学生ともよく出会います。
日本人学生についてどう思いますか。
あくまで私から見た印象ですが、日本人学生は付き合いやすく、おおらかな人たちだなと思います。ちょっとシャイかと思えば、いったん打ち解ければずっと気楽に話せるようになる。実は、私は留学生どうしよりも、むしろ日本人学生とのグループワークの方がやりやすいと感じています。なぜって、日本人学生と一緒の時はいつも話し合いで物事を決めることができるからです。ところが、私たち留学生同士でこれをやろうとすると、なかなかうまくいきません。
多くの日本人学生は自説だけにこだわらず、何でも話し合って決めようとします。良いと思った案がダメだったら、別の案も試そうとする。ところが私などは、いったんこれが良いと思ったら、こうでなければダメだと言い張ってしまう。そんな私が彼らとのグループワークを通して学んだことは、何ごとかを成し遂げたいと思うなら柔軟であれ、ということ。これは課題に取り組む時もプレゼンをする時も、集団活動全てにおいて言えることです。全員の意見が一致するなんてことはありえない。それでも協力して同じものを完成させることはできる。そういった意味で、いろんな授業でグループ研究を経験する機会に恵まれた私はラッキーでした。
なるほど。もう日本での研究生活にはすっかり慣れましたか。
広大での日常はなかなか多忙です。先生の指導により、私たち学生は必ず毎日、定刻通りに研究室に顔を出さなくてはなりません。ですから、自分の研究の用事が特にない時でも、とにかく研究室に来て一日中みっちり勉強。そして、できうる限り多くの実験方法を学び、身に付けなくてはなりません。というのも、先生が重視しているのは学生の自己啓発と、仲間と協力し合ってのグループワークだからです。
私たちの先生は学生思いで、優れた研究者であるだけでなく、学生一人ひとりが自分の能力を最大限に発揮できるよう、いつも励ましてくださる方です。私たちはただ研究に明け暮れるばかりでなく、たまには肩の力を抜いて楽しめるように、研究室のみんなが参加できるイベントをいろいろと開催しています。
私たちの研究室ではいつ何をするときも、みんなで力を合わせてやり遂げていきます。そして、野外実験では実際に稲作を行います。つまり、みんなで一緒に田んぼに出かけ、雑草を刈って田植えをやるんです。それから田んぼの片づけも、もちろんその後の収穫もやりますよ。いつもそんなふうにみんなで共同作業をやりながら、一緒に新しい方法、新しい物事を学んでいくんです。ですから、たとえ自分の研究の用事がない時でも、常に何かしらの書物を読んだり、実験したり、学んだりしていますから、毎日が大忙しなんですよ。
日本に来て、何かカルチャーショックを経験しましたか。
私が最も驚いたのは、日本の人はたとえ友人どうしであっても、心の奥にある本音を言いたがらないことです。私はというと、それが問題の解決になると思う時には、友人に自分の気持ちをはっきりと伝えます。ところが、日本ではちょっと勝手が違う。そのせいか、お互い友だちなのに、何だかよそよそしく感じることがあります。バングラデシュの友人とは、どんなことでも遠慮なく言い合いながら付き合ってきたけど、日本の友人たちは、本音をはっきり言わないのがむしろ良いことだと思っているみたい。
ある日本の友人によると、彼らが「たぶんね」と言ったら、それは「ノー」を意味するのだとか。これも私を悩ませている問題の一つです。おかげで何度人の気持ちを誤解してきたことか。なぜって、私にとって「たぶん」はあくまで「たぶん」だし、「ノー」は「ノー」、「イエス」は「イエス」なんです。私自身は「ノー」と言いたい時にははっきりそう言うので、友人の中には私の物言いがキツイと思う人もちらほらいるようです。日本ではストレートに「ノー」というのは礼を欠くことなんでしょうね。ならば私も彼らのように、とも思うけど、やはりそれは無理(ノー)ですね。私には私のやり方がありますから。
なるほど。
そんな感じで苦労してきた私も、徐々に慣れてコツをつかんできました。つまり、わからないことに直面した時は深刻にならず受け流すか、楽に構えるんです。それに、日本の人の中には、友人として私のためを思って、「それ、感じ悪いよ。そんなふうに言っちゃだめだよ」と忠告してくれる人もいます。おかげで少しは彼らのことを理解できるようになったと思います。それにしても最初は難しかったですね。日本の友人なんてあまりいなくて、留学生とばかり付き合っていましたから。それでも広島大学全学留学生会(HUISA)のメンバーとなってからは、日本人を含めたくさんの友だちができて、彼らのおかげで自分とは違う考えを持つ人のことや、そういった人へのアプローチの仕方などを学ぶ機会を得られたんです。言っていいこと、言わないほうが良いことなどもね。
HUISAでは、どんな活動に参加されたのですか。
幸運にも、前期ではHUISAの会長を務める機会に恵まれ、そこでたくさんの行事を開催することができました。その前は、副会長を一期だけ務めました。
今年の桜の季節には、憩いの森公園にトレッキングに出かけました。それから、大学の近所の鏡山公園でもお花見を催しました。二月に行われた広島県立もみのき森林公園(廿日市市)へのバスツアーには、約100人が参加して、ソリすべりや雪合戦、雪だるま作りなどの雪遊びで盛り上がりました。
日本の方とご結婚されているのですね。家庭生活はいかがですか。
順調ですよ。妻も協力的です。私たちは何でも相談するし、話し合うことで互いを理解するようつとめています。現在、私は日本語を、彼女はベンガル語を習っています。彼女の両親とは、私も少しだけですが日本語で話しますし、彼女も私の家族や友人とベンガル語で話しています。お互い、あと数年後にはだいぶ上達すると思います。それに私たちの家庭生活は、(あらゆる可能性を視野に入れた)オープンなものです。これからも二人でいろんな所を旅して、異文化体験を楽しんでいきたいです。
留学を考えているバングラデシュの後輩たちに、何か助言はありますか。
バングラデシュの学生諸君には、勉学に励むのはむろんのこと、ぜひ自分に合った奨学金を見つけることを勧めます。日本政府やJICAの奨学金の他にも、広大にもいろんな奨学金があります。そのいずれかを獲得してください。そうすれば、渡日後は授業料の心配をすることなく勉強に集中できます。さもなければ、ハードなアルバイトと勉学の両立に悩みながら良い成績を目指さなくてはならなくなる。特にわが国の学生にとって、優秀な成績を残すことが将来を切り拓くためには不可欠ですからね。
最後の質問です。夢は何ですか。
先ほども触れたとおり、将来は研究職に就きたいと思っています。自分の研究がやれるところであれば、それが大学であろうと他の機関であろうと構いません。ただし、あくまで今の分野の研究を続けられることが大前提です。6年間も打ち込んできた研究を、今さら中断するわけにはいきません。というわけで、私の夢は研究者となって、自身の業績を通してバングラデシュの社会に、ひいては世界に貢献することです。
ありがとうございました。これで質問は終わりです。ハサンさんの夢が実現するよう祈っています。
頑張ります。ありがとうございました。
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学位記授与式(博士課程前期修了)
研究室のウェルカムパーティー
実験中のデータ収集
憩いの森公園にて
広島大学全学留学生会(HUISA)バスツアー
IDEC OPEN DAY 2017にて、奥様と