第40回 チョー・ミョー・アウンさん(ミャンマー)

「出会いを大切に」

名前: チョー・ミョー・アウン
出身: ミャンマー
所属: 日本語・日本文化研修留学生プログラム
趣味: ゲーム、アニメ、読書と書道
(取材日: 2018年3月1日)

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出身地はどんなところですか。

ミャンマーの中央部にあるマンダレー地域のピンウーリンという町です。暑くも寒くもなく過ごしやすいことから、避暑地として有名です。観光名所としては、国立カンドージー植物園(National Kandawgyi Garden)という広大な植物園があります。毎年12月には花祭り(Flower Festival)があって、色とりどりの花が華やかに飾られて、それはもう素晴らしい眺めなんですよ。

そして、ピンウーリンは、滝が数多くあることで有名です。例えば、プウェカウ滝(Pwe Gauk Waterfall)。それほど大きくはないけど、とても美しい滝です。周辺には土産物などを売るお店がたくさん並んでいて、とても楽しいです。日本の皆さんにも、ぜひ訪れてもらいたいです。

ミャンマーと日本の食生活には、多くの共通点があるそうですね。

そのとおりです。たとえば、米。ミャンマーで栽培されるのは、もちろん見た目も食感も日本のとは違うインディカ米だけど、日本米のように粘り気のある、いわゆる「スティッキーライス」を栽培している地方もあります。それはミャンマー東部のシャン州です。そこの米は食感が日本米ととてもよく似ていることから、ミャンマーでお寿司をつくる際にはたいていこの種類が使われます。

そして、ミャンマーには納豆もあります。ミャンマーの納豆はペーポッ(Pe pok)といって、日本の納豆と違って糸を引きません。トマトや玉ねぎなどの野菜や肉を混ぜて、サラダにして食べたりします。また、乾燥させて丸い大きなお煎餅みたいにして(ペーポッチャウッ;Pe pok chauk)、料理に使ったりもしますよ。

ミャンマーを訪れた際には、ぜひ味わってみたいものですね! ところで、ミャンマーでの学校・大学生活は、どのようなものですか。

ミャンマーの教育制度は、日本のそれとはいろいろと異なるのですが、顕著な違いは、入学試験。実はミャンマーでは、いわゆる「大学入試」というものがありません。私たちの高校卒業後の進路は、主に高校での最終試験の結果によって決まります。レベルの高い大学に入学するには、その試験で高得点を取ることが必要なのです。

「入試がない」というと、プレッシャーが無くていいな、と思う方もいるかもしれませんが、とんでもない。私自身、高校の時に頑張っておかないと将来苦労するとか、希望の大学に入学できないとか、そういったプレッシャーをひしひしと感じながら勉学に励んだものです。しかし、正直、頑張るのがしんどいな、という気持ちもありました。それに、最終試験で高得点をマークして希望の大学に入学しても、その後落第する人も少なくないのです。

入学後の勉強も大変なのでしょうね。

はい、とても厳しいです。勉強が足りなければ退学もありえます。それに、勉強が厳しいことに加えて、私たちの大学には何というか、日本の中学や高校みたいな厳しさもあるんです。先生と学生の立場も実にはっきりしています。たとえば授業中、学生は何かの用事があって教室を出たい時、無断で席を立つのではなく、必ず先生の許可を求めなくてはいけません。そこで先生が「いけません」と言えば、退出できません。そのまま着席です。あと、授業中の居眠りですが、これは授業の妨げにならない限り、日本ではさほど問題になりませんよね(笑)?

学生の居眠りを見たことがあるのですか?

見てない、見てないですよ! 広大にはもちろん、そんな学生はいません(笑)。それでも、日本の大学生は、授業中にスマホを見たりして、リラックスした授業態度ですよね。ミャンマーではそういうのは絶対ありえないし、キャンパス内を時折、先生たちが「パトロール」したりもするんですよ。授業が始まっているのに学生が外で遊んでいると、そこの君、きちんと授業を受けなさいと注意されるんです。あと、髪の毛を(本来のと違う色に)染めるのも規則違反だし、週二回は制服の着用が義務づけられています。とにかく、私たち学生が大学の評判を損なうことのないように様々な規則が決められていて、私たちはそれらをすべて守らなくてはいけません。

日本の大学とは、ずいぶん雰囲気が違うのですね。ところで、どうして日本に興味をもったのですか。

私は高校時代の成績は良かったのですが、どの大学に行こうか決めかねていました。けれど、日本語を勉強している知り合いのお姉さんがいて、それに、折しもその頃はミャンマーが開国したばかりで、日本をはじめ外国の企業がミャンマーに資金を投下して続々と進出してきていたんです。そんな情勢の中で、これからのミャンマーでは日本語のできる者が就職に有利だときいて、それで日本語学科への入学を決意しました。つまるところ、当時の私の目標は「会社員になる」ことで、それに向けて日本語を勉強し始めたわけですが、そんな私にある転機が訪れたのです。それは、2015年の初来日でした。

留学での来日ですか。

いいえ。JENESYSプログラム(「21世紀東アジア青少年大交流計画」)に参加しての来日です。東京と高知県に一週間ずつ滞在しました。それで高知県でホームステイをした時、ホストファミリーのお父さんから「一期一会」という日本の言葉を教わったんです。そして高知のお父さんは私にこう言いました。出会いを大切に。そして、ぜひミャンマーと日本との懸け橋になってくださいと。それを聞いて私は、ああ、本当にその通りだ、と思いました。せっかく日本語を勉強して、そのおかげで日本人とこうして交流できたのに、このまま会社員になるだけだったら、あまりにももったいないと。それで将来への考え方が変わりました。今では国連とか、同じ会社員でも、日本と関係のある企業で働いてみたいと思っています。

高知で素晴らしい出会いがあったのですね。ところで、広島大学を知ったのはいつですか。

2016年に私と同じプログラムで広島大学に留学した先輩がいたので、その先輩の勧めで知りました。先輩からの情報に加えて、自分でも大学のランキングなどいろいろな情報を調べて、いい大学だなと思い、それで決めました。

現在は、日本語・日本文化研修留学生プログラムで学んでいるのですね。授業を受けてみて、どのような印象を持ちましたか。

授業はすごく面白いです。テキストの内容もとても良いと思います。それになんといっても広大は、他の大学と比べて自由度が高いと思います。私と同じプログラムで大阪や北海道の大学に留学している友人などは、いつも課題の締切りに追われていてドタバタしているけど、私の場合はまったく違います。レポート提出も一か月に一回程度ですし、現在私が受けなくてはならない授業は週に5コマだけなので、ここ広大でなら、本来の意味でのキャンパスライフを有意義に楽しめると思います。

日本人学生との交流は?

友だちなら、もうたくさんできましたよ!
実は最初の頃、私は自分が5か国語を話せるので、日本の学生もそのくらいできるのかなと思っていたんですけど、それを言うと日本の友だちから、へえ、すごい! って感心されてしまい、驚きました。それに私が英語を話していると、すごく上手だね、ミャンマーでは英語が公用語なの? なんて真顔で聞かれて。

実は、私たちミャンマー人が英語を話す時、発音にまったく苦労することがありません。私たちの公用語であるミャンマー語にはいろんな音節があるので、英語の発音も難なく習得できるんです。なので、英語の習得に苦労している日本の方から見ると、ミャンマー人は英語が上手だという印象があるようですね。

通訳や翻訳にも興味があるそうですね。

はい。ミャンマーの若い人たちにぜひ読んでもらいたい面白い本が、日本にはたくさんあります。日本人はそれらの本を読んでそこからいろんな知識を得たり、自分の視野を広げたりできるので、そういうのはとても良いことだと思うんです。ところが、ミャンマーの若者たちの活字離れは深刻で、読書などはせず、スマホでインスタグラムやツイッターばかりやっているんです。ですから、私のような若者が彼らのために外国の面白い本を翻訳すれば、それを見た人たちが、本も面白いかな、と思ってくれるかもしれない。そんなことを期待しているんです。

たとえば、どんな本を翻訳してみたいですか。

夏目漱石の「夢十夜」。この物語はとっても不思議で、それでいて、すごく面白いなと思いました。これを書いた時の作者の思いとか、どんなことを言いたかったのかとか、物語を読んでいると、いろんな想像が広がっていくんです。中でも、侍が必死に「悟り」を得ようとする話が印象的でした。「悟る」なんてそんな簡単にできることじゃないのに、侍というだけあって強気だなあ、と面白く感じました。

暇な時は何をして過ごしますか。

私はアニメが大好きなので、日本でもよく見ます。そして、知らない日本語が出てくると、その言葉をノートに書き留めておくんです。そのノートはすでに言葉でいっぱいです。

昨年は、友だちや広大の学生サポーターも一緒に、西条の酒祭りに参加しました。私はお酒が飲めないけど、飲めなくても十分楽しめました。いろんな食べ物があって、家族連れもいて、にぎやかでした。参加している人は、どんなに酔っぱらっていてもゴミをまったく散らかさなくて、そのことにすごく感動しました。ミャンマーではお祭りがあると、すぐにゴミだらけになるんですよ(笑)。

アウンさん、日本に留学を考えている後輩たちにアドバイスはありますか。

日本に留学したいと思ったら、日本の文化や習慣をよく知ってからにしてください。というのも、私はいろんな日本留学経験者と話をする機会があったのですが、中には日本のことを日本に来て初めて知ったという人もいるんですよ。彼らと日本人との間には「cultural differences」(とてもきれいな発音!)、すなわち文化の違いというものがあって、それを理解しないまま日本人と接するものだから、日本人って無愛想だな、不親切な人たちだな、とか、そういった考えを持ったまま帰国していく人もいるんです。

それは残念なことですね。

その通り! 立派な志を持った留学生がせっかく日本に来たのに、そんな考えを抱いたまま帰国してしまうなんて、残念なことです。そうならないためにも、外国人が日本を理解するだけじゃなくて、日本人の側も、外国人に対する接し方をもっと見直した方がいいと思います。もっと笑顔で話しかけるとか、寛容な態度で接するとか。そうすれば、留学生だけじゃなく日本を訪問した誰もが、日本人はいい人たちだな、という印象を持って帰国してくれることでしょう。

私は日本の文化をよく知っていますし、自分のような外国人が日本人と親しくなるのは時間がかかることも理解しています。だから、初対面の人からちょっとくらい無愛想な応対をされても、この人も日本人らしいなあ、と思って、さほど気にしません。
でもそんな私にも、なんだかなあ、と思うことはありますよ。以前、約束に遅れてしまった時、謝罪をまったく聞いてもらえず、ただ突き放されてしまったことがあって、その時はとても落ちこみました。以前の私は「日本人はとても親切だよ」と友だちに話していたけど、それ以来、「日本人」の前に「ほとんどの」を加えるようになってしまって。

寛容な態度が大事なのですね。

そうですね。腹を立てている時こそ、きちんと相手の話を聞くべきだと思います。許す、許さないは別問題。そうすれば、相手はちゃんと自分を認めてもらえたことがわかって、ほっとするんですよ。そういうところを、日本の人はもう少し改善するべきだと思います。さもないと、いつか私の「ほとんどの」が「一部の」に変わるかもしれませんよ(笑)。

それは貴重な助言ですね。ありがとうございました。最後の質問です。アウンさんの夢はなんですか。

私の夢は、三つあります。一つ目は、世界旅行をすること。二つ目は、国連で大使として働くこと。そしてもう一つ、実はね、ファッション業界でも働いてみたいんです。

どれも大きな夢ですね。

そうですね。特に国連のように巨大な組織で働くというのは、私のような若者にとっては遠い夢なんだけど、頑張ってみたいと思います。実際、そういうところで活躍する人たちを見ると憧れますから。

実は、三つの内、一番かなえたい夢が世界旅行なんです。だから就職したら、お給料がたくさんもらえるようしっかり働いて、それで50年くらい経ったら、そのお金で世界旅行したいなあって、そう思っているんですよ。

国連の仕事、ファッションの仕事、そして、世界旅行。アウンさんの夢がすべてかなうよう、祈っています。

ありがとうございます。がんばります!

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