第43回 アブバカル ハイダラさん(スウェーデン)

「文法は面白いパズルみたい!」

名前: アブバカル・ハイダラ
出身: スウェーデン
所属: 日本語・日本文化研修留学生プログラム(森戸国際高等教育学院所属)
趣味: スポーツ観戦,歴史を調べること,アイドルを応援すること,人と交流すること
(取材日: 2019年1月22日)

留学生インタビューバックナンバー

故郷はどんなところですか。

北欧のスカンジナビア半島に位置するスウェーデン王国の首都、ストックホルムです。母はスウェーデン人、父はアフリカのガンビア共和国の出身でプロのサッカー選手でした。
北欧というと、日本の方はまず「白夜」を連想するかもしれませんね。そこで冒頭から悲しいお知らせですが、ストックホルムでは、いわゆる完全な白夜は見られません。ですから、より確実に体験したい方は、もう少し北の都市へ行かれることをお勧めします。

とはいえ、ストックホルムの気候は、むろん日本のそれとは大きく異なります。冬季など、降りしきる雪のせいで常に曇っていて、太陽が2週間も見られない時期もあります。そしてようやく太陽が顔を出すと、私たちは「やあ、久しぶり!」と挨拶します(笑)。子どもたちが薄暗い中で外遊びするのも普通の光景です。想像できるかな? 見渡す限り、白と灰色の薄明の世界! それが私たちの暮らす日常なんです。

ストックホルムといえば、毎年12月になると世界中から注目を浴びますね。

スウェーデンの化学者アルフレッド・ノーベルの命日である12月10日に行われる、ノーベル賞授賞式ですね。授賞式を中心とした様々な式典が催されるその時期は「ノーベルウィーク」と呼ばれ、各国から取材陣が殺到します。私は昨年までストックホルム大学で学んでいたんですが、その大学の講義堂(Aula Magnaホール)で「ノーベルレクチャー」、つまり受賞者による記念講演が行われます。私も何度か聴きに行きましたよ。LEDを発明した日本人受賞者(※)の講義を聴くこともできました。

※ 2014年、青色発光ダイオード(LED)を開発した赤﨑勇教授(名城大学)、天野浩教授(名古屋大学)、中村修二教授(米カリフォルニア大サンタバーバラ校)の3名の日本人がノーベル物理学賞を受賞された。

母校でノーベルレクチャーが行われるとは、名誉なことですね。ところで、この間(1/19,1/20)は全国でセンター試験が行われました。スウェーデンの大学入試はどのように行われるのですか。

わが国には、そもそも大学入試がありません。どの大学に進むかは高校の成績で決まります。つまり、優秀な成績をおさめた者から順に好きな大学を選ぶ。だから、入るのはまあ簡単だけど、卒業するのが難しい。日本とは逆ですよね。これまでいろんな日本の友人から聞かされたのは、「大学生活は人生の夏休み」だと(笑)。卒業したら就職してサラリーマンになって、そうなるとあまり遊べなくなるから、せめてその前に目一杯楽しまなくちゃ! と。まあ、気持ちはわかります(笑)。とはいえ、多くの日本人学生は結構まじめに勉強していると私は思いますけどね。

来日したのは、去年の10月ですね。

はい。来日前に日本の文部科学省のいろんな試験や面接を受けた後、留学先を決めるにあたり、私に手渡されたリストには46校もの大学の名が記されていました。それらについて調べてみると、日本語教育においては広島大学と筑波大学の2校が群を抜いていると。それでどちらがよいか先生に相談したところ、広大を勧められたんです。広大では非常に高いレベルの教育を受けられると聞いて、自分にはまだ難しいかなと不安もあったけど、むしろ挑戦意欲をかきたてられました。

専門は「日本語」なのですね。なぜ、この選択を?

学部では化学を専攻していました。それで卒業後はマスターに進むかどうか悩んでいた時に、ちょっとだけ他の分野を勉強してみようと思ったのがきっかけです。というのも、子どもの頃に日本人の友だちがいて、その子の家でNHKなどの日本のテレビ番組を見たり、日本語をまじえて話していました。だから日本語は多少話せたけれど、文法など具体的な知識はほとんどなかった。だから「ちょっとだけ」やってみようと思って始めたけれど、その勉強がめちゃ楽しくて、先生もめっちゃ素晴らしい先生ばかりで、結局ここまで続けてきてしまいました。スウェーデンでは同じクラスの仲間とよくパーティをして、飲んで酔っぱらって、日本語の文法について熱く議論を戦わせたりもしました。スウェーデン語でね(笑)。

飲みながら、日本語の文法について議論するのですか。

はい。スウェーデンの中でも他大学と比べたら、私の大学の日本語教育はかなり「理系っぽかった」と思います。ただ文を暗記するのではなく、ちゃんと文中にあるすべての言葉、つまり助詞とか従属節とかですね、それらが持つ意味を考えるように、と常に先生から教えられました。なので、最初からそういう視点で日本語を分析する文化が私たちにはあったんです。

中でも私のいたクラスは特別で、私のように文法について議論したい人が、先輩や後輩と比べるとずっと多かったんです。思えば、やはり私たちだけ、ちょっと変だったかも(笑)。広大に来てからも「なぜ日本語の文法がそんなに好きなの?」とよく聞かれますから。私にとって、日本語の文法とは面白いパズルのようなもの。日本語には様々な法則があって、それらを発見して一つひとつの謎を解明していけば、たとえば自動詞と他動詞の区別など、一見難しそうなことも、簡単に理解できるようになると思うんです。

広大で授業を受けた感想は?

日本語の授業で今難しいなと思っているのは、オノマトペかな。「きょろきょろ」とか「じろじろ」とかね。人が話すのを聞くと理解できるけど、いざ自分が話す時、どの言葉を選択すればいいか迷うんです。日本人はオノマトペをとてもよく使うので、これをマスターすればより自然な日本語が話せるようになれると思って努力しているけど、まだまだ全然だめですね。

あと、スウェーデンから同じプログラムで東京や京都の大学に留学した友人も何人かいて、彼らとは今もグループチャットで授業や課題について情報交換するんだけど、中でも広大にいる私が一番レベルの高い充実した授業を受けていると感じます。他の皆はいつも「もっと難しい課題がほしい!」と嘆いていますから。彼らには「だったら、広大においでよ」と言ってあげたいくらい。

アルバイトをしていますか。

近所の中高生5人に英語を教えています。私はスウェーデン生まれだけど、アフリカ出身の父にはよく英語で話すので、私にとっては英語も母語のようなものなんです。

日本人の話す英語について、どう思われますか。

それはもちろん人によるけど、正直、話すのが苦手な人が多いという印象です。内容は伝わるけど、不自然な感じ。それに、何か楽しいことに誘う時、たいてい「Let’s~」と言うでしょう?
これはあくまで私の意見ですが、この言い方は何だか日本人ぽいなと思う。例えば「山登りに行こう」と誘う時「Let’s go mountain climbing」と言うけど、私たちは「Come go mountain climbing with us!」とか言う。「Let’s~」も間違いじゃないけど、あまり強く誘っている感じがしないです。しかし「Come~」と命令形を使えば、「君と一緒に楽しみたい!」という積極的な気持ちが伝わって、ぐっとフレンドリーな印象になると思いますよ。

あと、英語には似た意味を持つ言葉がとても多いけど、うまく話そうと思ったら、場面によっていろんな言葉を使い分けたほうが良いです。何かをほめる時に使う言葉は「Good」、「Excellent」、「Great」、「Amazing」、「Superb」など無数にあるけど、日本の人は同じ言葉を繰り返し使う人が多く、そのせいか少し単調な話し方になりがちです。スピーキングにおける表現力を高めるために、日本の英語教育にも「話す」練習をもっと多く取り入れるべきだと思います。あくまで私の考えですけどね。

率直なご意見、ありがとうございます。ところで、学外では主に何をして過ごしますか。

日本のドラマを見たり、コンサートにも行くけれど、特にスポーツ観戦が好きです。昨年はプロ野球の日本シリーズも観戦しました。私は地元カープを応援したけれど、やはりホークスは強かったですね! カープのオフェンスも良かったけど、今回は相手のディフェンスに軍配が上がった感じ。それでも、カープのファンは負けた後もライバルチームを称えていて、そこがすごく立派でしたね。欧米のスポーツ観戦ではもっと「○○を倒せ!」と攻撃的に応援するけれど、日本のファンは相手チームのこともちゃんとリスペクトする。素晴らしいことだと思いますよ。

この留学の間にやり遂げたいこと、目標はなんですか。

もちろん、日本語能力を上げることが第一の目標ですけれど、現在の目標は、周りのみんなに自分の力を認めてもらうことです。

具体的には、どういうことですか。

例えば、日本の人は私みたいな欧州人が漢字を書くと、「えっ、漢字書けるの? 上手だね!」と褒めてくれるんです。日本語の授業の時も、私が先生の質問に完璧に答えると、「おーっ」と驚く人がいたり、あと、私は最初から日本語で話しているのに、どこまでも英語で話しかけてくる人もいる。これって、私のような外国人が日本語を流暢に話すことを、普通のこととして受け止めていない人がまだ多いからだと思うんです。

だから、私個人のためだけじゃなく、他の欧州やアフリカ出身の学生など、日本で同じような経験をしながら頑張っている仲間のためにも、ちゃんと頑張ればここまでできるんだ、ってことを私の身をもって示したい。「僕は日本語が話せる。僕の専門は日本語。そして今は、自動詞と他動詞の研究をしているよ!」とね。この思いが、現在の私の強いモチベーションになっているんです。

留学生活について、後輩へのアドバイスはありますか。

相手を尊重し、受け入れること。特に広大ではいろんな国からの留学生がとても多いから、それぞれの文化の違いをちゃんと理解すること。そして、違いだけじゃなく必ず共通点を見つけること。違いを認識することは大事だけど、「違い」についてあまり考えすぎると人間関係はうまくいきません。あとは、自炊すること。コンビニや外食よりも経済的だし、留学中に限らず、人生をちゃんと生きるためにも、自分でご飯を作ることは必要だと思います。パスタやサラダや牛丼など、簡単なものでいいんです。私は化学を専攻していたので、料理も実験みたいでむしろ楽しいです。そして、お金をちゃんと管理すること! これも大事なことですね。

将来の夢を教えてください。

教師になりたいです。どこで何を教えるかはまだ決めていません。スウェーデンで化学を教えるかもしれないし、日本で日本語を教えるかもしれない。私はかつてスウェーデンで代替教員のアルバイトをしていたんですが、多くの先生が生徒たちに教科書の内容ばかりを教え、人生に必要なことについてほとんど何も教えていないことが気になっていました。だから、私自身がもっと人生の様々な経験を積み、それを踏まえて、生徒たちに本当に教えたいものを明確にして、その上で、きちんと先生の仕事をしたいと思っています。

夢が叶うよう祈っています。本日はありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

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