第44回 ラリッサ ンゴンビ マボウンゴウさん(ガボン)

「地質学者になって、日本で得た知識をガボンの若者に伝えたい」

名前: ラリッサ ンゴンビ マボウンゴウさん
出身: ガボン
所属: 日本語研修コース(森戸国際高等教育学院所属)。2019年10月より,理学研究科(博士課程後期)に入学予定
趣味: 音楽(歌うこと,聴くこと,ギターの演奏)
(取材日: 2019年6月25日)

留学生インタビューバックナンバー

まず、出身地について教えていただけますか。

中央アフリカに位置するガボン共和国の首都にして最大の都市、リーブルビルから来ました。リーブルビルは南大西洋沿岸にある都市で、活気に溢れたとても素晴らしいところです。わが国は1960年にフランスから独立して以来、内戦や紛争を一度も経験していない、とても平和的な国です。その上、石油、ガス、鉱物資源などの天然資源にも恵まれています。

これまで、どんなことを学んでこられたのですか。

高校を卒業後、ガボン国内のマスク科学技術大学で学び、地球科学と環境の学位を取得しました。2012年に大学を卒業した後は、フランスのリール大学で修士課程の1年目、ロレーヌ大学で2年目を過ごしました。そして2014年、修士の学位を取得した私は、米国のテキサス州ヒューストンで1年間、英語を学びました。その後はガボンに帰国し、水資源開発を行う企業で約1年間働きました。

企業では、どんな仕事をしていたのですか。

地下水を探査する仕事です。地面をドリルで掘り、ポンプやパイプを使って水をくみ出すのです。赤道地域にあって、年間を通して降水量が多いわが国には地下水が豊富に存在していますから、私たちにとって水資源はとても重要なのです。ガボンで採れる自然水はとびきり上質で、しかもきれいで安全です。もちろんそのままでは飲用に適しませんが、簡単な処理をするだけで飲めるようになります。

ガボンでは、様々なボランティア活動を経験されたそうですね。具体的には、どんな活動だったのですか。

米国から帰国後は、様々な英語関係の仕事に携わりました。たとえば、高校生、主に卒業試験を控えた12年生(17~18歳)を対象に、英語学習のサポートなどもしていました。

日本人の話す英語について、どう思われますか。

日本人の話す英語ですか(笑)? そうですね、広大には英語がかなりお上手な人が大勢いると思います。それでも時々、日本人特有の「らしさ」というか、日本流の発音とでもいうのかな、そういうものを感じることがあります。例えば、日本人の「rice」(米,ライス)の発音は、「laisu」と聞こえることがあります。そして、「friend」(友だち,フレンド)の発音は「d」で終わりますが、「furendo」と発音する方もいますね。日本語では、単語のほとんどが子音ではなく母音で終わりますから、そのせいでしょうか。

日本に興味を持たれたきっかけは何ですか。

私はとにかく旅をするのが大好きなので、再び留学する機会をずっとうかがっていたのです。先ほども話したとおり、これまでフランスや米国に留学し、その他にもいろんな国を訪れてきました。それで、文部科学省の奨学金の話を聞いた時、これはチャンスだと思ったのです。日本には素晴らしい大学と優れた教育制度があることを知っていましたし、日本を特集した面白い動画をいろいろと見て、日本についての情報収集もしました。それらの動画では、日本人はとても几帳面で、ルールを遵守すると紹介されていました。例えば信号待ちの時も、彼らは青になるまで横断歩道を渡らない、と。ちなみに、わが国の人たちは全然違います。たとえ信号が赤でも、右を見て、左を見て、車が来ていなければ渡ってしまいます(笑)。それに、日本の文化は伝統主義と現代主義とが融合した素晴らしいものだとも聞いていました。ですから、実際に来日した時、私を驚かせるものは何一つありませんでした。ガボンで得た情報通りの光景が、ほとんどそのまま目の前に広がっていたのですから。そして、今もそれを再認識しているというわけです。

カルチャーショックとは無縁だったのですね。

もちろん、日本と私の国には大きな違いがありますが、ショックは受けませんでしたね。ただ、日本の人々の親切さ、優しさ、他人を尊重するところ、それらにはとても感銘を受けました。私たちが道に迷った時も、誰かに助けを求めれば、そう遠くない所であれば、日本の人たちは目的地まで私たちを連れて行ってくれます。私も、日本ではたくさんの人に助けられてきました。私が寮に戻るために、タクシーを呼んでくれた方もいました。それに、どこもかしこも清潔です。ショックといえば、それですね!これまでいろんな国を訪れましたが、こんなにも清潔な都市のある国を、私は日本の他に知りません。そして広大のキャンパスも素敵ですね。とても広くて、花があちこちに咲いていて美しいです。私は色彩豊かな環境が好きなんです。なので、ここはとても素晴らしいキャンパスだと思います。

広大では、何を学んでいるのですか。

私は現在、広大の森戸国際高等教育学院で、日本語研修コース(Intensive Japanese Language Training)を受講しています。期間は半年で、ちょうど今その半分が経過したところです。「Intensive(集中的な)」コース、と呼ばれるだけあって、内容はとても充実しています。でも、素晴らしい先生方のおかげで、とても楽しく学べています。わからないことがあれば、時間を取って説明してくださいますし、何より、私たちが楽しめるよう、授業を盛り上げてくださいます。まさに「よく学び、よく笑う」ですね。そんな日本語の授業は、本当に楽しいです。

今年の10月には、理学研究科の博士課程に入学する予定なのですね。専門の研究についても、少し教えてくださいませんか。

私の専門は地質学です。地質学は「study of the earth」、すなわち地球を研究する学問とも呼ばれています。非常に幅の広い分野であり、その適用範囲も多岐にわたります。例えば、地下水源を探査するには、地質学者が必要です。マンガンやゴールドといった鉱物資源から、石油やガスに至るまで、それらを探査するには地質学者の存在が欠かせません。探査方法はいろいろあります。例えば、「地震探査法」。これは言うなれば、地球に対して行う超音波検査のようなものです。これにより、地表面下の構造を実際に見ることができ、そこから得られるデータやその他の様々な情報を手がかりに、求める資源がどこに埋まっているのかを特定するのです。地質学は、建設業界でも大いに役立ちます。例えば、10階建てのビルを建てようとする際、それを支えるに十分なほど地盤が強固であることや、地滑りのような自然災害が起こりにくい環境であることなどを、事前に確かめなくてはなりません。そのためには、地質学的な調査を行うことが必要不可欠なのです。

わかりやすい説明、ありがとうございました。そもそも、地質学を専攻しようと思った理由は何ですか。

地質学に興味を持ったのは大学一年生の時です。やはり、生まれた国の環境の影響が大きかったのでしょうね。ガボンは小さな国ですが、石油やガスといった資源が豊富ですから、それで私も、資源探査の仕事に携わりたいと思うようになったのです。

広島をはじめ、日本の環境についてはどうですか。ラリッサさんにとって興味深いものですか。

ああ、日本にはあまり天然資源が埋まっていないことをおっしゃっているのですね。確かに、日本は資源に恵まれているとは言えませんが、そのかわり高度な技術力があります。私が日本を選んだ理由はそこにあります。日本の技術はどれも素晴らしく、私がここ日本で得るものは非常に大きいと思います。そして、ここで学んだことをガボンをはじめ、その他の国々のためにも役立てたいと思っています。日本の地質学は非常に難解ですが、同時に非常に興味深いものです。とても学びがいがあります。

余暇は、どんなふうに過ごしますか。

授業のない時は、友だちと遊びます。カラオケで歌ったりとか(笑)。あと、旅行も大好きですから、みんなで広島(市)、宮島、神戸にはもう行きましたし、他にもまだまだ、行きたいところがたくさんあります。それに、ショッピングにもよく行きます。買うのはたいてい服や靴です。それも、たくさん! 日本のファッションはとても多彩だし、それに日本の女子はとてもおしゃれだと思いますよ。

広島風お好み焼きは、もう召し上がりましたか。

はい。広島風お好み焼き、大好きです。ホストファミリーのお宅に泊まった時、ホストマザーと一緒にお好み焼きを作ったのですが、とてもおいしかったです。私が初めてお好み焼きを食べたのは町のお店で、その時は、それほどおいしいとは思わなかったんです。でも、ホストマザーが作るお好み焼きは、とてもおいしかった。今のところ、私にとって一押しの日本食です。

来日したのは四月なのですね。ということは、日本の冬は未体験ですか。

そうなんです。でも、来日したのは四月初旬で、すごく寒くてびっくりしたんですよ。暦の上では春なのに、なんて寒いんだろうって。暑い国から寒い日本に来たのですから、環境の変化に慣れるのは大変でした。これで本物の冬が来たら、どうなるんだろうって(笑)。

東広島市の冬は厳しく、たいてい毎年雪が降ります。暖かい上着を用意して、初めての冬を楽しんでくださいね。ところで、留学を考えている学生のみなさんに、何かアドバイスをお願いできますか。

そうですね、私からの言葉は「とにかく、おいでよ!」です。留学の素晴らしいところは、世界中から来たたくさんの人々と出会えることです。私もここ広大で、カメルーン、ガーナ、インドネシア、マラウィなど、これまで想像すらしていなかったほど多くの国の人々との出会いに恵まれました。そして、先ほども言った通り、日本は素晴らしい国です。私は日本に来られて本当に幸運です。おかげで、日本の人々の素晴らしさを目の当たりにし、偉大な文化にも触れることができました。だから、みなさんにも、ぜひ日本を訪れていただきたいのです。ここで得るものは大きく、そして失うものは何もありません。

それから、日本の文化についてリサーチをしておくこと。YouTubeでいろんな動画を見て、あとは少しでも良いので、日本の言葉を覚えてください。例えば「すみません」とかね。ひとたび来日すれば、そこはほとんど何もかもが日本語で埋めつくされた環境ですから、当然、周囲の人々の助けを必要とするでしょう。その際は、「すみません」と言って誰かを呼び止めましょう。これは非常に便利な言葉です。「すみません」を知らずして来日するなかれ、ですよ(笑)。

ところで、AI(人工知能)のおかげで、十年後の私たちの社会は現在のそれとは大きく変わっているだろうと、多くの人が言っています。このことについて、どう思われますか。

世界は、日々発展しています。特に日本のテクノロジーは高度に発達しています。私が母国では見たことのないものが日本にはあります。例えばトイレ。ボタンを押すだけで、便器の蓋を開閉することができます。そして、センサーに手をかざすだけで水が自動的に流れたりもします。それらは極めて興味深い技術であり、我々にとって必要なものでもあります。

それらの発明について言えることは、いずれも人々の今日のニーズに応えたものであるということ。それらは確かに素晴らしいものですが、しかし、私たちが必要とするのは、やはり人間です。AIのために多くの人々が仕事を失うだろうと予言する人もいますが、人間を社会から追い払うようなことを、私たちは決してできません。ロボットにもできないことがあるからです。それは「人とつながる」ことです。AIは便利なものですが、それでも、私たちは人間が働ける場所を確保するべきです。それでこそ、人々は他人とつながることができるのです。AIばかりにすべてを任せ、人間を社会から排除してしまっては、人類はもはや互いにつながりを持とうとはしなくなるでしょう。そんな社会は、あまりにもつまらないと思います。

将来の夢について教えてください。

私の希望は博士号を取得し、石油・ガス資源開発企業の資源探査部に地質学者として就職し、様々な土地で、資源探査の仕事に従事することです。そしてもう一つは、大学で非常勤講師として教えることです。ガボンには博士号を持つ地質学者がまだ少なく、地質学を教える講師が不足しています。ですから、これから日本で学ぶことをガボンに持ち帰り、学生たちに伝えることが、私の役目だと思っています。

10月から博士課程で学ぶ理学研究科の前で

最後に、何かコメントはありますか。

まず申し上げたいことは、私は日本に留学することができて、本当に幸運だということです。これから、私はたくさんのことを学ぶでしょう。というより、既に学び始めていると言うべきですね。今は漢字に少し苦労していますが、日本語も大好きです。ここで過ごす日々、見るもの聞くもの、すべてが私にとって貴重なものです。その上、私のホスト・ペアレンツはとても親切で、私が日本の文化を存分に楽しめるようにと、いつも心を砕いてくださいます。日本を選んだことに後悔はまったくありません。みなさんも、ぜひ日本を訪れてみてください。日本はとても素晴らしい国ですよ。

広大での留学が素晴らしい体験となりますように、そして、ラリッサさんの夢がかないますように。本日は、どうもありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

Photo Gallery

神戸にて、友人たちと。数々の名所と素晴らしい景色を堪能しました。

初めて着物を着てみました。

宮島の山の頂にて。目も眩むような絶景!

広島空港近くの、のどかな公園にて。


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