第45回 パークプーム クアンウィニツさん(タイ)

「世界を今よりも平和な場所に」

名前: パークプーム クアンウィニツ
出身: タイ
所属: 大学院国際協力研究科 (IDEC)
趣味: 個人スポーツ(ランニング、タイ式ボクシング、重量挙げなど)、ギター演奏、読書。
(取材日:2020年2月20日)

留学生インタビューバックナンバー

本日はお越しいただき、ありがとうございます。本年度のエクセレントスチューデントスカラシップ(※)成績優秀学生に選ばれたそうですね。感想をお聞かせいただけますか。

そもそも、どうやって選ばれたのかわからないのですが、明白な理由といえば、おそらく成績のおかげだと思います。ほとんどの科目で「S」の評価をいただきましたから。その他にも、セミナーやポスターセッションなどの学内行事にはできる限り参加し、自身の研究活動について発表してきました。つまり、僕の研究に対する真摯な取り組みや、あらゆる授業から貪欲に知識を吸収しようとする姿勢を評価していただけたのかなと思います。

(※)学業成績や学術研究活動において特に優秀と認められる大学院生に対し修学費支援を行う広島大学独自の奨学制度。

ご出身はどちらですか。

タイの首都、バンコクです。建物がひしめきあい、木々や自然が少ないところです。観光名所といえば、「エメラルド仏」。バンコクを訪れる人々の多くは、これが目当てだと思います。非常に大きく美しい仏像で、都心にある「ワット・プラ・ケオ」寺院に据えられており、我々タイ人にとって国家宗教たる仏教がいかに重要かを物語るものです。そして「カオサン通り」では、ナイトクラブやレストラン、コーヒーショップなどが立ち並び、夕方から朝まで営業されています。

日本、それも広大に来た理由は何ですか。

それを説明するには、まず僕の職歴からお話ししなくてはいけませんね。来日前、僕は国際移住機関(IOM)というところで働いていました。世界的な人の移動の問題を専門的に扱う国連機関です。そこで移民や難民のために働く中で、僕は世界における人の移動、移民や難民に関する幾つかの問題に行き当たりました。国際関係、それも移民問題について、海外の大学院で学んでみたいと思い始めたのもその頃でした。というのも、僕はいずれまた国連関係機関の仕事に就きたいのですが、今度は中東やアフリカといった、人々の苦しみがより深刻な、つまり人々が暴力や戦争に苦しんでいる国で働きたいと考えているからです。そして、そのような人々により良い暮らしをもたらすための貢献がしたいのです。そんなわけで、大学院レベルの知識を身に付けるために留学を決意しました。

まず決めたのは国です。僕は幼い頃から日本の文化が好きで、つまり漫画やアニメ、音楽などの娯楽ですね、そういったものに影響を受けながら育ちました。それで、いつか日本に行ってみたい、それもただ旅行で訪れるのではなく、住んでみたいと夢見ていました。なので、子ども時代の夢と将来の夢、両方をかなえるために留学先を日本に決めました。そして広大のIDECに「平和共生」という、僕の希望にぴったりのコースがあることを知りました。僕はウェブサイトに載っていた教授リストの中から、片柳先生(教授)に連絡を取ったのです。

というのも、片柳先生の経歴を見て、先生にも国連での職務経験があることを知ったからです。僕は先生にメールを送り、スカイプ面談を設定し、そして直接言葉を交わすうちに、この先生とは何だか「相性が良いな」と感じました。研究内容も一致していました。その上幸運にも、先生は面談の終わりに、僕を受け入れると言ってくださいました。万事僕の願い通りに事が運んで、これはもう運命だなと思いました。

運命に導かれ、今ここにいるというわけですね。ところで、学内の友だちとは、どのようにコミュニケーションをとっていますか。

日本語を上達させたいので、努めて日本人の友だちをつくるようにしています。しかし問題は、彼らは彼らで英語を上達させたいみたい。(笑)だから僕が日本語で話しかけても、彼らは英語で返してきます。日本人は英語が得意だから、英語でコミュニケーションを取りたいのでしょうね。それに、彼らはとても親切です。僕が助けを求めると、何をしている時でも、決して僕を待たせることをしません。どんなに忙しい時でも、さっきまでしていたことをピタッとやめて、すぐに僕を助けてくれます。いつ、誰を呼んだ時も同じです。

友だちづくりといえば、ソーシャルメディアについてどう思われますか。すっかり私たちの社会に根付いていますね。

すでに我々の日常生活の一部となっていますね。誰もが好きな時に好きな情報を上げられるし、そうやって上げられた情報をいつでも、どこでも自由に受信することができる。それはとても便利だけれど、便利なだけに、それを扱うユーザにはかなりの慎重さが要求されます。ここで言う「ユーザ」とは単に情報を上げる側だけではなく、SNSアカウントを持ち、情報を受信することができる全ての人を指します。不適切な情報を上げてはならないことはもちろんですが、それを止めるすべはありません。ですから情報の受け手としては、それらが必ずしも信頼できるものではないことを忘れてはいけません。虚偽報道やスキャンダル、ネガティブな書き込みなど、もうそこら中に氾濫していますから、あらゆる情報を非常に注意深く取捨選択することが求められます。

SNSで本当の人間関係を築くことはできるのでしょうか。

真に誠実な、確かな人間関係という意味では、僕はまだ対面のコミュニケーションの方を信頼しています。しかし、「人間関係のきっかけ」を作ることはSNSでも可能だと思います。たとえば、「友だちかも」リストに写真が載っている人をある日、学内のマーメイドカフェなどで見かけて、「あっ、SNSのリストにいる人だね」なんて話しかけて、それが会話のきっかけとなり、友人関係が始まることもありますからね。

ご意見、ありがとうございました。次に、専攻についてお聞かせいただけますか。

僕はIDECの平和共生コースに在籍しています。そこでは国際関係、特に個人内から個人間、そして国際間レベルに至るまでの紛争の解決法について学んでいます。

「紛争解決」とは、いったいどんなものですか。

紛争は日常的に発生しており、避けて通ることのできないものであること、それをまず認識することが必要だと思います。そして、紛争がもたらすのは悪いことばかりではありません。なぜなら紛争が起きることで、両者が異なる見解を持っていることが明らかとなるからです。この違いをもとに、双方が納得できる「新しい何か」を生み出すことが可能となるのです。すなわち僕にとっての「紛争解決」とは、双方の共通のニーズを理解し、双方が納得できる解決法を提示することで、彼らが平和的に共生できるよう図ることなのです。

なんだか、お話を聞いているうちに、学校で起きているいじめ問題を思い出しました。他人が自分と「違う」というだけで、いじめてくる生徒もいますね。

この問題を解決するには、教育が重要な役目を果たすと思います。ここでいう「教育」はカリキュラムのことだけでなく、「他人と共生する」ための教育をも指します。国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)でも、質の高い教育の重要性に言及しています。つまり、違いを無視するための教育が必要だと僕は思います。

違いを「無視する」のですか。

 

そうです。性別、容姿、宗教などの違いこそあれ、我々は同じ人間です。誰も置き去りにしてはなりません。この規範を確立し、すべての子どもに、それもまだ幼いうちから教育していくことが必要だと思います。

そして、いじめについてですが、この問題が起きると、いじめられる側の被害者の救済ばかりに気を取られがちですね。しかし僕が思うに、いじめの「加害者」の動機を知ることも大切です。紛争解決にあたる「仲裁者」としては、いじめの加害者から話を聞き、いじめの理由を明らかにした上で、どうすれば今後他の子に優しく接し、仲良くすることができるか、その可能性や手段を探ることが必要です。なぜなら、彼らは皆が皆、好んでいじめをしているわけではなく、その背後には仲間の圧力が存在する場合が多いからです。つまり、いじめを先導するクラスのリーダー格の子がいて、他の子が従わなければ、その子たちもいじめられるよう仕向けられる。なので、そのリーダーの気持ちを理解することも必要です。あるいは彼らも家庭内に何らかの問題を抱えていて、それがいじめの動機となっている可能性があるからです。

根の深い問題なのですね。

その通り。力で抑えこむだけでは解決にはなりませんからね。そう言えば、いじめが理由で不登校になった生徒のための特別な学校が作られたと、日本の友だちから聞いたことがあります。いじめのない学校だとか。気を悪くしてほしくないけど、僕はこの解決法には賛同できません。子どもたちを生涯守ることは不可能だからです。彼らもいずれは実社会に、それも、今よりも意地悪な人が大勢いる危険な世界へと出ていかなければならないのです。ですから、彼らを隔離し守るのではなく、いじめの解決法を探り、彼らが他者と「共生」できるよう手助けすることが必要です。ここでいう「共生」とは、文字通り「共に生きる」だけではなく、違いを越えて互いに理解し合い、思いやりを持って接することなのです。

詳しくご説明いただき、ありがとうございました。ところで、フリータイムには何をしていますか。

時間がある時は、学内のジムに行きます。そしてマラソンランナーでもあるので、キャンパスの周囲をほぼ毎日走っています。ギターを弾くのも好きです。といってもクラシック・ギターですよ。アンプにつなげてでかい音を出すほうの、ではなくてね。

クラシック音楽が趣味なんですか。

そうです。見た目からは想像できないでしょう?(笑)それに読書も好きです。好きなジャンルはスティーブン・キングとかの犯罪スリラー物です。今研究している国際関係、平和構築、平和活動などに関する本もよく読みます。

海外留学を考えているタイの学生に、何かアドバイスはありますか。

まず、最も大事なのは何を学びたいかを明確にすることだと思います。ただ外国で生活してみたいという理由で留学を希望する人も大勢います。しかし、結局は学業を続ける情熱が足りなくて大半が脱落してしまう。まずは、よく考えてみてください。決して生やさしいことではないのです。大学院は学部とレベルも全然違うし、研究者としての業績も挙げなくてはならないのですから。次に留学先ですが、僕の場合、日本でなければなりませんでした。どこで学ぶかはとても重要なポイントです。2年か3年、これまでと異なる文化や気候、人々の中で生活するわけですから、それなりの覚悟が必要です。それらを全部決めたら、あとは、めいっぱい楽しむだけです。あっという間の留学期間、その一分一秒を、思い切り楽しんでほしいと思います。

日本には、英語に自信がないという理由で海外留学をためらう若者もいるようです。このことについて、どう思いますか。

ためらう気持ちはわかります。英語を母語としない者が海外に渡ろうとする時、誰もが抱く共通の懸念でしょうから。でもね、僕を見て。日本語力はほぼ皆無だったけど、そんな僕でも今こうして日本にいて、一歩一歩努力を続けています。今でも完璧にはほど遠いけど、一年間でここまで進歩したことに満足しているし、誇りにも思っていますよ。

海外へ行けばたくさんの人と出会い、様々な文化に触れることができますから、そこから学ぶことは大きいと思います。ですから、もしも夢を持つ日本の子どもと話す機会があれば、僕が贈りたいのはこの言葉です。「もじもじしないで、突き進め!(ゴー・フォー・イット)」

最後の質問です。将来の夢を教えてください。

先ほども触れましたが、国連の移民問題を扱う機関で働きたいです。今日も世界の至る所で多くの人々が居場所を失い、中には戦争で命を落とす人もいます。ですからこの問題に貢献したいのです。すべての人々が差別を受けることなく好きな所にいられるように、そして、治安を心配することなく故郷に帰れるように。

それに、一年と少しの間ここで学んでみて、僕は本当に研究が好きなのだということに気づきました。つまり、研究者としてこの問題解決に貢献する道もあるのだとね。そんなわけで今、僕の目の前には二つの選択肢があります。一つは国連機関で「実務者」として働くこと、もう一つは「研究者」として、人々を救うための解決策を生み出すための研究に従事すること。しかし、いずれの道を選ぶにしても、最終的に目指すものは同じ、すなわち「世界を今よりも平和な場所にすること」なのです。

夢が実現できるよう祈っています。今日は本当にありがとうございました。

お疲れさまでした。

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