ブラジル留学生活レポート(第6回・完)

社会科学研究科法政システム専攻
神代貢志

帰国しました

 後ろ髪を引かれる思いもありましたが、9月下旬に帰国しました。10月に入り、広島大学での新セメスターも始まりましたが、まだ帰国の実感が湧かず、なんとなく地に足がつかないような感覚を覚えながら日本での生活を再開しました。留学前、一年という期間は終わってみれば短いんだろうなと思っていました。まさにその通りでしたが、久々に訪れた西条の町や広島大学、実家がある福岡市やそこに住む人達にも多くの変化があって、一年という月日は何か物事が変わるには充分な時間であることも痛感しました。今回の留学を経て私も変われたでしょうか。

写真: 帰国便はエチオピア航空。一瞬でしたが、人生初のアフリカ大陸上陸!

アマゾン

 今回の留学は前回に比べて語学も上達し、自分でやれることが増えたので、ブラジルでしかできないことはできるだけやっておこうと思い、様々なコミュニティに顔を出したり、ボランティア活動をしたりしていました。ブラジルは広く、地域ごとに風土や住む人々の気質も異なるため、ブラジル国内を旅行することも強く勧められました。比較的近隣のミナスジェライス州ベロ・オリゾンテやパラナ州クリチバに行ったことは以前の留学生活レポートで紹介した通りですが、ブラジル渡航が決まった直後から行きたいと思っていたアマゾン地域への旅行も実現しました。

 一口にアマゾンといってもそこは流域面積で(一説には長さにおいても)世界最大の川。ブラジルの複数の州どころかペルー、ボリビア、ベネズエラなど複数の国にまたがって1000以上もの巨大な支流が流れています。私が訪れたのはアマゾン河口の街パラ―州バレン、アマゾンに浮かぶ世界最大の中州(九州と同じくらいのサイズ)マラジョー島、アマゾンの首都と呼ばれるアマゾナス州マナウスの3か所。マラジョー島以外は、おそらく皆さんがアマゾンと聞いて思い浮かべるイメージとは違い、高層ビルも立ち並ぶ立派な都市です。ジャングルツアーやアクティビティに赴くには、港から船に乗る必要があります。マナウスでは世界最大級の淡水魚であるピラルクの釣り堀に行ったり、アマゾンカワイルカと一緒に泳いだり、原住民の集落を訪れるツアーに参加しました。貴重な経験だったのですが、アマゾンのジャングルを存分に楽しむためには宿泊を伴うツアーに参加することが必要で、予算と日程の都合上それが不可能だったので、アマゾンの表層的なところにしか触れることができませんでした。そのこともあってか、約一週間ほどのアマゾン旅行で最も印象に残ったのがマラジョー島滞在です。ベレンの港から船で3時間ほどで公営の港に着き、そこからバスで滞在するロッジに向かいましたが、そこら中に馬や水牛がいて、それに乗って移動する人たちもいました。宿泊地の近くにはレストランやスーパーマーケットのようなものは当然なく、車で送迎してもらって農場で昼食をとるか、クッションの効かない自転車で舗装されていない道を30分ほど行かなければなりませんでした。サンパウロにいれば、時折困ることはあっても、基本的に何不自由なく暮らすことができますが、同じブラジルであってもマラジョー島での生活は別世界のように感じました。アマゾン地域一つとってもまだまだ味わいきれませんが、多様性に富むブラジルの新たな一面を感じるいい機会になったと思います。

写真上:ベレンの街並み。高層ビルが立ち並ぶ。海に見えるのはもちろんアマゾン川。

写真上:マナウスの市場で売っていたピラニア(食用)。1キロ200円少々。

写真上:マラジョー島市街地。いくつか回った軽食屋の看板には何種類かピザの名前が書いてあったけれど、どこも売り切れとのことだった。警察も水牛に乗ってパトロール。

留学を終えて

 今回私は自分の研究テーマであり日本には専門家がほぼいないと思われるブラジル刑事法についての研究や、現地専門家との人脈の構築、語学等のスキルの向上を主な目的として留学を行いました。語学をはじめ、まだまだ自分の理想には程遠く、目的が達成できたとは言い難い部分も多々ありましたが、人脈作りに関してはいろいろな人に助けられて期待以上の成果を得ることができました。

 ブラジルとは、今後も一生涯に渡って関わっていきたいと思っています。自らの研究分野を通してはもちろんのこと、より広く、日伯両国の友好関係を促進できるような人材になりたいと思っています。新たな目標も見つかりましたが、まずはここ広島大学でブラジル刑事法についての論文を執筆します。

 私の留学生活レポートは今回で最後となります。留学先としてはマイナーな国であり、日本ではあまりいい点が報道されないため、興味はあっても実際に渡航するとなると、その不安から断念してしまう人も多いかと思います。しかし、私は初回留学時にはほとんど何の準備もできないまま、7か月というそう短くない期間を楽しく過ごすことができ、また今回はより長い1年の留学を行うに至りました。正直に言って、私は留学が決まるまではブラジルという国についてほとんど興味を持っていませんでした。しかしそんな私でも実際にブラジルでの生活を続けていくうちに、すっかりこの国に魅了され、生涯関わっていきたいと思うまでになりました。ブラジルという国はそれだけ懐が深く、多様な人を受け入れてくれる国だと思います。少しでも興味がある人は、実際に行ってみることを強くお勧めします。不安はあると思いますが、行ってさえしまえば他人の目というフィルターを通さないリアルなブラジルを知ることができ、きっと気に入るはずです。

 拙い文章でしたが、この留学生活レポートが少しでもブラジルに興味のある人への手助けとなればと思います。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。


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