世界初の実用モデルHiSIM-IGBTが誕生

平成22年4月30日

広島大学
株式会社半導体理工学研究センター

記者会見のご案内 
世界初の実用モデルHiSIM-IGBTが誕生
~エネルギー利用の効率化に大きく貢献~

 

広島大学HiSIM研究センター(センター長・三浦道子教授)の研究チームは、IGBTの回路設計用トランジスタ用モデル「HiSIM-IGBT」を、世界初の実用モデルとして開発し、車載用集積回路設計者などに向けて一般公開しました。

広島大学では、平成17年からトヨタ自動車株式会社、株式会社豊田中央研究所と共同して一般車載用IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の研究を行ってきました。IGBTは、2つのトランジスタタイプ、「バイポーラトランジスタ」と「MOSFET」を組み合わせた回路モデルですが、共同研究チームは、この2つのトランジスタタイプを分けずにIGBT全体としてシミュレーションできるモデル式を導き出し、「HiSIM-IGBT」を開発しました。

これは広島大学が開発したMOSFETモデルHiSIM (Hiroshima-university STARC IGFET Model) を骨格とし、バイポーラトランジスタ部分のモデルと統合したもので、高精度の回路設計が可能になり、エネルギー利用の高効率化が大きく前進するものと期待されます。
このたび、このモデルの精度、安定性の評価が終了し、一般公開するに至りましたので今回発表するものです。

本研究成果について、下記のとおり記者会見を開催し、ご説明いたします。
ご多忙とは存じますが、是非ご参加いただきたくご案内申し上げます。

また、本発表につきましては、記者会見終了後に報道されますようお願い申しあげます。

日 時:平成22年5月10日(月) 14時00分~15時00分

場 所:広島大学歯学部 2階大会議室  (広島市南区霞1丁目2-3)

出席者:浅原利正(広島大学長)、三浦道子(広島大学大学院先端物質科学研究科・教授)、Mattausch Hans Juergen(ナノデバイス・バイオ融合科学研究所・教授)、三宅正尭(広島大学HiSIM研究センター・助教)、鬼頭公治(株式会社半導体理工学研究センター・執行役員)、佐野 昌(株式会社半導体理工学研究センター・技監)
   

研究の概要

数1000Vを超える高電圧で動く電車などのモーター制御には、主にGTOと呼ばれる半導体整流素子が用いられています。一般車載用のモーター制御には、それより低い1000V程度の耐圧を有するIGBTと呼ばれるトランジスタが用いられています[図1]。IGBTはバイポーラトランジスタのベースと呼ばれる部分にMOSFETがつながった構造で、MOSFETの部分が高速動作を可能にしています[図2]。

図1:様々の高耐圧トランジスタ

GTO: Gate Turnoff Thyristor
IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor
MOSFET: Metal-Oxide-Semiconductor
Field-Effect Transistor

図1:様々の高耐圧トランジスタ

図2:IGBT構造

図2:IGBT構造
 

回路設計には、回路モデルと呼ばれるトランジスタに、電圧をかけた時に流れる電流量などの特性を数式で記述したものが用いられます[図3]。

図3:回路モデルの役割

図3:回路モデルの役割

しかし、IGBTでは、2つのトランジスタタイプの特性を別々に正確に記述できるだけでは十分でなく、バイポーラトランジスタとMOSFETとが微妙に関わって特性を決定しているため、相互作用も考慮する必要があります。これまでは、実測値を再現するように、さまざまな付加的なモデルを用いて回路設計ができる程度で、精度、安定性、汎用性などの観点から通常のトランジスタの回路設計のような状況には至っておらず、世の中には信頼性の高い安定したモデルへの強い要求がありました。

HiSIM-IGBTはこれを実現するために、バイポーラとMOSFETに分けずに、IGBT全体としてモデル式を導出しました。この骨格になっているのが、広島大学が半導体理工学研究センターと平成10年から開発してきたMOSFET用モデルHiSIM (Hiroshima-university STARC IGFET Model) です。

約5年の歳月をかけてトヨタと共同でこのHiSIMにバイポーラ部分を統合し、世界初の実用モデルHiSIM-IGBTが誕生しました。既に、モデルの精度、安定性の評価が終わり、この春から要望に応じてリリースを開始しています。

IGBTはモーターを回すための電気制御用に用いられているので、電圧や電流が高いのみならず、受動素子(インダクタンスやキャパシタンス)も、通常の電気回路のものとは桁はずれに大きい値が用いられます。このような状況下でも、安定に回路特性を予測することができるという報告が、組み込み評価が終わった設計ツールベンダーからも寄せられています。これを一般にリリースすることによって、より多くのユーザーに使っていただき、更なるブラシュアップを図る所存です。

大容量電力変換回路の高精度設計を実現できるモデルの完成の意義は大きいと言えます。IGBTはスマートグリッドのための10KVを超える超高電圧回路にも用いられると考えられていますので、効率の高いエネルギー制御を可能にし、エコ社会実現に貢献する大きな一歩となります。これまで電気回路で培われた技術が、エネルギー分野での飛躍的な進歩を牽引することになると期待されます。

本件の研究内容に関するお問い合わせ先

■広島大学大学院先端物質科学研究科
教授 三浦道子 TEL:082-424-7659 FAX:082-424-5848

本件の報道に関するお問い合わせ先

■広島大学学術室学術推進グループ
坂口浩司 TEL:082-424-5679 FAX:082-424-5890


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