造血幹細胞機能と骨格形成に重要な働きをする新規遺伝子を同定

平成23年2月1日

造血幹細胞機能と骨格形成に重要な働きをする新規遺伝子を同定

本研究成果のポイント

  • 造血幹細胞機能と骨格形成に重要な働きをする新規遺伝子を同定
  • この新規遺伝子が、ヒトの先天性骨奇形や先天性造血異常のなどの疾患に共通する原因遺伝子である可能性を示唆

広島大学原爆放射線医科学研究所の本田浩章教授らの研究グループは、造血幹細胞機能と骨格形成に重要な働きをする新規遺伝子を同定しました。

この遺伝子はHemp (hematopoietic expressed mammalian polycomb)と名付けられていますが、本田教授らはこの遺伝子を欠失したマウスを作製し解析したところ、造血幹細胞機能が著しく低下していること(図1)、および後頭部、頸椎、肋骨などに骨の融合や変形(図2)を生じることを見いだしました。

この成果は2月8日(米国時間)付けで、米国科学アカデミー発行の機関誌「Proceedings of the National Academy of Science, USA (PNAS)」の電子版に掲載されます。

 

造血細胞は放射線の標的として最も重要なものの1つです。高線量の放射線被曝を受けた場合、個体は造血機能不全により死に至ります(急性障害)。またここから回復しても、遺伝子に損傷を受けた造血細胞から白血病などの悪性腫瘍が発症します(晩発性障害)。

造血細胞産生は骨髄で行なわれるため、造血幹細胞と骨細胞との間には密接な関係があると考えられていましたが、その詳細は明らかではありませんでした。今回Hempが造血幹細胞機能と骨格形成の両方に重要な働きをする遺伝子として同定されたことにより、両者を共通して制御する分子機構に新たな知見がもたらされたと考えられます。

また、Hempを欠損したマウスの骨形成異常は、ヒトの先天性骨奇形であるクリッペル・ファイル(Klippel-Feil)症候群に類似しており、クリッペル・ファイル症候群のいくつかの症例で認められる染色体転座の転座点の近傍にヒトHemp遺伝子が存在することから、Hemp遺伝子の異常がクリッペル・ファイル症候群の原因の1つである可能性が示唆されます。さらに、クリッペル・ファイル症候群にはファンコニー(Fanconi)貧血などの先天性造血異常の合併が知られているところから、Hempはこれらの疾患に共通の原因遺伝子である可能性が考えられ、疾患発症の分子機構の解明に寄与することが期待されます。

 

主な共同研究者(敬称略)

慶應義塾大学医学部発生・分化生物学教室 須田年生、田久保圭誉
慶應義塾大学医学部小児科学教室 小崎健次郎
東京女子医科大学病理学教室 小田秀明
東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科 本田善一郎
アメリカ合衆国Black Family Stem Cell Institute Kateri A. Moore、Ihor R. Lemischka

補足説明

図1.胎生期14.5日の造血幹細胞移植の結果

図1.胎生期14.5日の造血幹細胞移植の結果。

移植マウスの末梢血(左)と骨髄の各種造血細胞分画(右)において、正常マウス(hemp+/+, 白四角)に比較してHemp欠失マウス(hemp?/?, 黒四角)の造血細胞生着率は有意に低く、造血幹細胞活性の顕著な低下が認められます。

図2.胎生期17.5日のマウスの骨格写真

図2.胎生期17.5日のマウスの骨格写真。

左の正常マウス(hemp+/+)に比べて、中央と右のHemp欠失マウス(hemp?/?)では、頭頂骨と後頭骨の扁平化(1,2)、第1頸椎の後頭 骨への近接(3)、第7胸椎と第8胸椎の湾曲と多数の肋骨の付着(4~6)を認め(中央図)、さらに第3頸椎と第4頸椎、および第5頸椎と第6頸椎の融合 (右上図、矢頭)、左右第1肋骨の融合と開裂(右中図、矢印)、第12肋骨の湾曲(右下図、矢頭)と第9~12肋骨の同一椎骨への付着(右下図、矢印)が 認められます。これらは、ヒトのクリッペル・ファイル症候群で認められる骨形成異常に似ています。

論文名・著者名

Hemp, an mbt domain-containing protein, plays essential roles in hematopoietic stem cell function and skeletal formation

Hiroaki Honda*, Keiyo Takubo, Hideaki Oda, Kenjiro Kosaki, Tatsuya Tazaki, Norimasa Yamasaki, Kazuko Miyazaki, Kateri Moore, Zen-ichiro Honda, Toshio Suda, and Ihor R. Lemischka

Proc. Natl. Acad. Sci. USA (in press)

*corresponding author (責任著者)

お問い合わせ先

広島大学原爆放射線医科学研究所 放射線障害機構研究部門
疾患モデル研究分野 教授  本田浩章(ホンダ ヒロアキ)
〒734-8553 広島市南区霞1-2-3
TEL: 082-257-5819 FAX: 082-257-1556
E-mail: hhond@hiroshima-u.ac.jp
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