世界最高性能の印刷可能な有機トランジスタを開発

平成23年4月7日

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
国立大学法人大阪大学
国立大学法人広島大学
大阪府立産業技術総合研究所

 

世界最高性能の印刷可能な有機トランジスタを開発
―結晶化により10 cm2/Vsを超える移動度を達成、曲がるテレビなどに応用へ―

 

NEDOのナノテク先端部材・部材実用化研究開発プロジェクトの一環として、大阪大学の竹谷純一教授、広島大学の瀧宮和男教授及び大阪府立産業技術総合研究所の宇野真由美主任研究員らのグループは、溶液を塗る簡便なプロセスで世界最高の性能をもつ有機トランジスタ*1を開発しました。有機物の半導体を塗布すると同時に結晶化する方法を開発することによって、従来の性能をはるかに超える10 cm2/Vsもの移動度*2を実現しました。この成果を活用することにより、曲がるテレビや低コストの情報機器の開発が期待されます。

*1有機トランジスタ:有機半導体を用いたトランジスタで、ゲート電圧(VG)を変化させることによって、流れる電流を制御するスイッチ素子。例えば、液晶やELのディスプレイでは、画素ごとに配置されたパネル(アクティブマトリックス)を構成して、画素のスイッチングに利用される。
*2 移動度:半導体の中に注入された電子キャリアの動きやすさを表す。有機トランジスタ素子では、移動度は電流増幅量や高周波応答特性と直接関連するため、デバイス性能の指標ともなる。

1.背景

有機物半導体材料は、シリコンなどの現在主に用いられている無機半導体材料と比べて作製が容易で安価であり、また曲がるディスプレイなどのユニークな用途も期待できるため、次世代トランジスタなど基本エレクトロニクス素子への応用開発研究が盛んに行われています。しかしながら、実際に薄型ディスプレイを高速で制御する性能(移動度))と塗布法・印刷法といった簡便・低コストの製膜方法を両立することは困難で、この問題を解決する革新的な技術の開発が望まれていました。

2.成果の特徴

(1)低コストかつ高速の有機エレクトロニクスへ

低コストかつ高速の有機エレクトロニクスへ
大阪大学の竹谷純一教授らならびに広島大学の瀧宮和男教授らは、典型的な塗布型有機トランジスタの性能(0.1-1 cm2/Vs)を1桁以上も上回る10 cm2/Vsのキャリア移動度を有する有機トランジスタを開発しました。この性能は従来の結果を遙かにしのぐ値であり、これまで不可能とされてきた高速の有機エレクトロニクス素子への応用に道を拓くものです。例えば、ディスプレイパネルに利用した場合、従来のアモルファスシリコン材料を用いた場合より、1桁速い動画が表示可能となります

(2)新規プロセス「塗布結晶化法」と新有機半導体材料「アルキルDNTT」(注)の開発

大阪大学の竹谷純一教授らは、溶液から有機半導体膜を形成する際に、有機半導体分子が規則正しく配列した結晶構造を実現する新しい成膜プロセス「塗布結晶化法」を開発しました。また、広島大学の瀧宮和男教授らは、溶液から有機半導体分子を析出する際に、分子が配列しやすいように分子の設計を行い、新規有機半導体材料「アルキルDNTT」を開発しました。これらの新規技術の融合が、これまでよりも桁違いに高いトランジスタ性能の実現に結びつきました。

(3) 低コスト化への寄与

さらに、大阪大学の竹谷純一教授らならびに大阪府立産業技術総合研究所の宇野真由美主任研究員は、「塗布結晶化法」を発展させて、高性能の有機半導体を成膜すると同時に位置制御してアレイ状に配列する印刷の技術を開発しました。4X4トランジスタのマトリックスアレイを実際に作製し、平均移動度7 cm2/Vsを得ました。ディスプレイパネルに利用した場合、素子をパターン化する工程が半導体成膜と同時に行えるため、さらなる低コスト化が実現します。

(4)技術的詳細

竹谷純一教授らは2003年に有機半導体の結晶を用いたトランジスタを開発し、これまでよりも格段に高い性能を実現することを見出していたため、実用化に有利な溶液塗布法によって有機半導体結晶を作製する方法を検討してきました。広島大学の瀧宮和男教授らが開発した「アルキルDNTT*3)」を用いて、100度程度にした溶液から有機半導体結晶を析出させることが可能となったため、今回のきわめて高性能の有機トランジスタ実現に結びつきました。その結果、従来の塗布型有機トランジスタの性能とは桁違いの高性能(移動度10 cm2/Vs以上)を実現しました。
得られた性能は、現在の液晶薄型ディスプレイに用いられるアモルファスシリコンの性能を10倍程度も上回る上に、印刷法などの大面積低コストの生産が可能となるため、次世代の薄型ディスプレイやフレキシブルディスプレイのアクティブマトリックスとしての応用に期待がもたれます。また、有機EL素子との組み合わせにより、大画面の高性能フレキシブルディスプレイの早期実現にもつながります。また、最近、瀧宮和男教授らは、「アルキルDNTT」を大量合成する反応の開発にも成功したため、高速の有機エレクトロニクス素子の実用化が実現可能となりました。
なお、この成果のさらなる詳細について記述した論文が、ドイツの科学雑誌アドバンスト・マテリアルズの電子版に公開されています(DOI: 10.1002/adma.201004387, 10.1002/adma.201001283)。

図1.2
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(参考)用語の解説

(注)アルキルDNTT:
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)分子の両末端に、アルキル鎖を付加した構造をもつ分子。アルキル鎖は、溶媒への溶解性を高めるとともに、分子の凝集性を高める働きがある。


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