低電圧SOI-MOSFET用HiSIM_SOI国際標準化実現

平成24年7月30日

記者説明会のご案内
低電圧SOI-MOSFET用HiSIM_SOI国際標準化実現
~エコ社会実現に向けて国産標準モデルが揃う~

 

広島大学HiSIM研究センター(センター長・Mattausch Hans Juergen教授)の研究チームは、SOI-MOSFETの回路設計用トランジスタモデル「HiSIM_SOI」が国際標準化委員会(CMC: Compact Model Council)から正式に標準として認定されたのを受けてセンター・ホームページから一般公開しました。
広島大学では、2001年から沖電気工業株式会社(現 ラピスセミコンダクタ株式会社)の支援を受けて、低電圧対応のSOI-MOSFET (Silicon-on-Insulator-Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)用コンパクトモデルHiSIM_SOIの研究開発を行ってきました。2008年、国際標準化委員会(CMC: Compact Model Council)が次世代SOI-MOSFETの標準モデル選定を開始するにあたり、独立行政法人産業技術総合研究所の支援を受けて、HiSIM_SOIを標準モデル候補として提案し、4年間にわたる標準化活動の結果、2012年7月に国際標準モデルに認定されました。
このモデルは、トランジスタ性能を向上させるためにトランジスタに絶縁体層を内蔵しているため、これまでに広島大学が株式会社半導体理工学研究センターの支援を受けて開発し、標準化を実現してきた先端MOSFETモデルHiSIM2 (Hiroshima-university STARC IGFET Model)や 高耐圧用モデルHiSIM_HVとは全く異なる記述式になっています。SOI-MOSFETならではの低消費電力や高放射線耐性などの高付加価値を持つLSI開発が待望されており、高精度回路設計用モデルの開発は、新たな産業創生、安全安心社会の実現、太陽光発電などの環境エネルギー分野の進展に貢献するものと期待されます。
このたび、CMCによるモデルの精度、安定性の評価が終了し、一般公開するに至りましたので今回発表するものです。
本研究成果について、下記のとおり記者会見を開催し、ご説明いたします。
ご多忙とは存じますが、是非ご参加いただきたくご案内申し上げます。
 
また、本発表につきましては、記者会見終了後に報道されますようお願い申しあげます。

日 時: 平成24年8月2日(木) 13時30分~15時00分
      
場 所: キャンパス・イノベーションセンター東京 4階 408号室
(東京都港区芝浦3-3-6)
      
出席者: Mattausch Hans Juergen(ナノデバイス・バイオ融合科学研究所・教授)、三浦道子(広島大学大学院先端物質科学研究科・教授)、小左古 学(広島大学研究企画室・高度専門職)

会場へのアクセスマップ

研究の概要

MOSFETと呼ばれるトランジスタは、図1に示すように用途に応じて様々の派生的な構造が開発されています。HiSIM_SOIは、基本構造MOSFETモデルHiSIM2(2011年標準化)、高耐圧用モデルHiSM_HV(2008年標準化)に続いて日本で3つめの標準モデルとなりました。

図1 MOSFETから派生した様々な構造

図1:MOSFETから派生した様々な構造
 
SOI-MOSFETはMOSFET内に絶縁層を加えることで、様々の問題を解決しています。放射線障害に強いために宇宙開発用や、動作効率が高いために低電圧応用、更に信頼性の高い高耐圧トランジスタとしても用いられています。30年以上前にNTTで開発されたSIMOXという酸素を高エネルギーでシリコンに打ち込む技術によって形成した絶縁膜によってすぐれたトランジスタ特性を実現していることが実証されて以来、開発が加速しています。
今回のHiSIM_SOIはこれまでのHiSIMの式とは異なり、基本となる式が複雑で、これを回路レベルで解くことが難しいという問題に直面していました。初めての回路動作を確認した2001年から10年以上かけた改良の末やっと理想的なモデルが完成しました。このモデル技術は、現在低電圧動作として用いられているSOI-MOSFETのみならず、太陽電池などに用いられる薄膜トランジスタや、さらに究極のメモリと注目されているMG-MOSFET構造への適用も可能となっています。
これまでの高耐圧用MOSFETモデルHiSIM_HV、基本MOSFET用モデルHiSIM2に加えてこの度のHiSIM_SOIとで、エコ社会実現に必要な回路の設計環境が整ったといえます。今後更に世界標準モデルを発信していくことに加えて、広島大学は産業界と協力してこれらを使いこなして、グリーンイノベーション創出に貢献していきます。

図2 基本となるMOSFET構造(左) 図3 SOI-MOSFET構造(右)

図2:基本となるMOSFET構造 (左)    図3:SOI-MOSFET構造(右)

参考

回路設計には、回路モデルと呼ばれるトランジスタに、電圧をかけた時に流れる電流量などの特性を数式で記述したものが用いられます[図4]。

図4 回路モデルの役割

図4:回路モデルの役割
 
Compact Model Council (CMC)は、TechAmericaの下部機関で、コンパクトモデル(SPICE回路シミュレータ用のトランジスタ等の回路素子モデル)の国際的・非排他的標準化を行い、その普及を図ることを目的としています。有力半導体メーカとEDAベンダが会員として参加しており、主に大学が開発したモデルを、産業界の実用条件で評価して最良のものを標準モデルとして選定し、選定されたモデルの開発・維持を技術・資金両面で継続して支援します。標準モデルは商用のツールに組み込まれ幅広く流通します。

本件の研究内容に関するお問い合わせ先

■広島大学HiSIM研究センター長
教授 Mattausch Hans Juergen
TEL:082-424-6268 FAX:082-424-5848

本件の報道に関するお問い合わせ先

■広島大学研究企画室高度専門職
小左古 学   TEL:082-424-5860 FAX:082-424-5890
■広島大学学術・社会産学連携室広報グループ
多賀 信政 TEL:082-424-6017 FAX:082-424-6040


up