プレート境界で発生する「ゆっくり地震」は岩石中の浸透率の違いにより発生することを証明!

平成24年8月30日

国 立 大 学 法 人 広 島 大 学
独立行政法人海洋研究開発機構

プレート境界で発生する「ゆっくり地震」は岩石中の浸透率の違いにより発生することを証明!

1. 概要

広島大学大学院理学研究科の片山郁夫准教授らの研究グループは、海洋研究開発機構高知コア研究所の協力を得て行った、室内での岩石透水実験と数値計算の結果をもとに、プレート境界で発生する“ゆっくり地震”の原因は地下での透水性(浸透率)の違いにあるとの新たな説を証明し、提唱しました。ゆっくり地震は通常の地震の準備段階で発生すると考えられていることから、ゆっくり地震の発生と水のかかわり合いを明らかにすることは、プレート境界で発生する海溝型地震の発生予測につながると期待されます。
この成果は、Nature Geoscienceに掲載され、9月3日午前2時付け(日本時間)のオンライン版で先行公開されます。
 
 
論文タイトル:     Episodic tremor and slow-slip potentially linked to permeability contrasts at the Moho
著 者 名:     片山郁夫(責任著者)1、寺田竜也1、岡崎啓史1、谷川亘2
所 属:     1広島大学、2海洋研究開発機構

2. 経緯

海のプレートが陸のプレートの下に滑り込むプレート境界では海溝型地震が発生しますが、これらの震源よりやや深い領域では、“ゆっくり地震”(*1)という通常の地震よりもゆっくりとすべる地震が報告されています(図1)。このゆっくり地震はプレート境界に存在する水により誘発されると考えられていますが、ゆっくり地震の発生領域に水がどのようにして溜まるかは不明なままでした。
当研究チームは、深さ約30kmのモホ面(*2)付近でゆっくり地震が発生することに注目し、岩石種が変化することで透水性(浸透率)が異なり水を溜める仕組みになっているとの仮説をたて、室内実験と数値計算を組み合わせて実証しました。

3. 研究成果

地球内部では、岩石のすき間を経路に水が移動しています。岩石中での水の流れやすさは浸透率で表されるため、我々の研究グループではプレート境界に存在する岩石の浸透率を実験室で系統的に測定しました。その結果、モホ面を境に、深部(マントル)に存在する蛇紋岩は水を比較的通しやすい(浸透率が高い)のに対し、浅部(地殻)に存在するはんれい岩は水を通しにくい性質を持つことが分かりました(図2)。このことから、プレート境界を上方に移動してきた水は、モホ面で難透水層であるはんれい岩にぶつかり水の移動が妨げられると考えられます(図3)。地下浅部でも同様の構造がみられ、油田では難透水層の下に流体(石油)が埋蔵されています。水がプレート境界に溜まると間隙水圧が上昇するため、微小地震を誘発することにつながります(*3)。今回の実験結果をもとに、数値モデリングによって間隙水圧の変化を計算したところ、間隙水圧がモホ面近傍で局所的に上昇しゆっくり地震を引き起こしやすい環境にあることが分かりました(図2)。

4. 今後の展望

今回の研究成果は、ゆっくり地震が発生する領域に水が溜まる仕組みを明らかにしたことになりますが、巨大地震を含む通常の海溝型地震でも、水の存在と地震発生が密接に関わっていると考えられています。このことから、プレート境界での水の動きをとらえることが、地震発生の予測につながると期待されます。今後は、地震波速度構造探査などにより、プレート境界での水の分布を詳しく調べ、水の観点からどのような領域で地震が起きやすいかを評価することが求められます。

用語解説

*1)ゆっくり地震
近年、日本をはじめとする高感度地震観測網や微小地震連続観測により、プレート境界深部において、通常の地震よりもゆっくりとした周期をもつ“ゆっくり地震”が報告されています。これらは、深部低周波微動やスロースリップを含み、断層が数時間から時には数ヶ月かけて動く現象です。これらのゆっくり地震は、巨大地震の想定発生領域を縁取るように分布することから、海溝型地震の準備段階における現象をみているとも考えられています。

*2)モホ面
地球内部は地殻・マントル・核という層構造をしており、モホ面は地殻とマントルの境界にあたり、岩石種が変化します。地殻は主にはんれい岩、マントルはかんらん岩(含水化している場合は蛇紋岩)から構成されます。

*3)水と地震の関係
岩石の摩擦強度は、垂直応力とともに増加する傾向が知られています(クーロンの摩擦法則)。しかし、地下で水が存在する場合、水は岩盤中のすき間を押し広げようとするため、断層面にかかる垂直応力を下げ、すべりを誘発する働きを持ちます。たとえば、米国のデンバーでは、化学廃液を地下に注入したところ、周辺地域で微小地震が頻発した例が報告されています。ダムの貯水によって地震や地すべりが誘発された例も報告されています。
 

図1:西南日本におけるゆっくり地震の分布(小原2007)。灰色の線は,南海・東南海地震の想定震源領域を表す

図1:西南日本におけるゆっくり地震の分布(小原2007)

図2:岩石透水実験と数値モデリングの結果。(a) モホ面より浅部に存在するはんれい岩は,蛇紋岩より2桁ほど浸透率が低いため,難透水層として働く。 (b) 数値計算の結果,モホ面近傍で間隙水圧が上昇し,微小地震を引き起こしやすい環境にある。

図2:岩石透水実験と数値モデリングの結果。

図3:ゆっくり地震の発生領域とプレート境界での水循環に関する模式図。(a)ゆっくり地震は通常の海溝型地震より深部で発生し,モホ面近傍に集中する。(b)海洋プレートから放出される水はプレート境界上を浮力のため上方へ移動するが,モホ面では難透水層であるはんれい岩により水がせき止められ,間隙水圧が上昇する。

図3:ゆっくり地震の発生領域とプレート境界での水循環に関する模式図

引用論文:小原一成(2007)スロー地震と水,地学雑誌,116(1),114-132

 

お問い合わせ先

広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学
准教授 片山郁夫(かたやま いくお)
電 話:0824-24-7468
メール:katayama*hiroshima-u.ac.jp
(*は、半角@に置き換えて送信してください)


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